アマチュアの衛星通信

福井雅之

 

今回は、私のもう一つの趣味であるアマチュア無線の話題から。

これまでも太陽活動電離層による伝搬月面反射通信について紹介してきましたが、今回は人工衛星を使った無線通信についてです。短波帯においては電離層反射で比較的容易に地球の裏側に電波が届きますが、刻々と変化する電離層の状態により安定した通信が維持できません。VHF/UHF帯は電離層を突き抜けてしまうことから直接波での通信が基本になります。それなら電波を何かに反射させて通信しようと考えられた代表格が山岳反射です。私の以前の住まいである静岡県三島市近辺は箱根連山を挟んで関東圏との通信が難しいエリアですが、富士山にアンテナを向けると東京・神奈川にも電波が届くようになり、通称“富士山ビーム”と呼ばれ広く活用されています。何かに反射させる通信で最大規模のものは月面反射通信(EME)になりますが、巨大な高利得アンテナとハイパワーが必要で限られた方しか楽しめませんでした。

そこでアマチュアが普段使う設備で容易に遠距離通信したいという希望をかなえてくれるのが今回ご紹介する衛星通信です。衛星には、受信アンテナ→受信機→周波数変換器→送信機→送信アンテナで構成されたトランスポンダ(レピータ)と呼ばれる装置が搭載されており、アップリンク波(地上から衛星に向けて発射される電波:例430MHz帯)、ダウンリンク波(衛星から地上に向けて発射される電波:例144MHz帯)を使って通信します。

 

図1。衛星通信のイメージ(オスカー7号の場合)    ダイアグラム

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最初に打ち上げられたアマチュアの衛星は1961年のオスカー1号です。アメリカ初の人工衛星“エクスプローラー”からわずか3年の出来事ですので、如何に先進的なアマチュアがいたかがわかります。この頃は交信できるトランスポンダが搭載されておらず、約3週間の寿命の間144MHz帯電信で“HI”の符号を送り続けるのみでした。それでも、当時VHF帯受信技術が確立していないなか全世界600局の無線家から5000以上のレポートが集まったのはアマチュアの衛星通信への期待の表れと思います。

そして本格的な通信衛星としてアマチュアの交信に使われるようになったのが、1972年に打ち上げられたオスカー6号です。アップリンク144MHz/ダウンリンク28MHz帯のトランスポンダを搭載し、短波帯トランシーバーとVHF帯トランシーバーがあれば比較的容易に交信できるようになりました。私がアマチュア無線を始めたばかりの頃、“三岳青少年山の家”に移動運用をした時、自分の発射した144MHz帯の電波が28MHz帯で聞こえるかテストした経験があります。この時アップリンクしたトーン信号がダウンリンクとしてかすかに聞こえた喜びは今でも思い出です。いずれにしてもこれが衛星通信の初めての出会いでした。オスカー6号はその後約5年間稼働し続け、次に打ち上げられた7号と合わせてアマチュア無線界に衛星通信の門戸を広げてくれました。

 

図3.オスカー7号イメージ図2.オスカー6号イメージダイアグラム, 設計図

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余談ですがオスカー7号は奇跡の衛星としても有名です。1974年に打ち上げられ1981年バッテリー故障で停波しましたが、2002年に21年間の沈黙をやぶって突然復活しました。バッテリーが使えないので日照時間だけになりますが2つの周波数モードが切替わりながらトランスポンダが動作するようになり、今も稼働し続けています。この衛星はマイクロプロセッサが世に出る前に作られたので制御部はECLというロジックICで設計されています。ECL・太陽電池パネルなどの電子部品が約半世紀を経て生き続けていることに感動を覚えます。

黎明期のアマチュア衛星の話はこれくらいにして、現在の衛星通信事情について簡単に記します。

AMSATのホームページで運用状況が掲載されている衛星は約40個あります。そのなかの代表的なアマチュア通信衛星は次の通りです。使用する電波型式で分けるとFM衛星とSSB/CW衛星の2つに分類されます。

 

表1.代表的アマチュア無線衛星(HAM world 7月号記事より)    

 

 

簡単に衛星からの電波を受信するならFMモードの衛星がお手軽です。本格的な衛星通信を体感したいならSSB/CW衛星になります。SSB/CW衛星は一定のバンド幅を持っているので同一周波数帯で複数局が同時に交信でき運用局数も多いです。衛星の動きによるドップラー効果も復調音で体験できます。残念ながら国際宇宙ステーションISSのトランスポンダは現在停止しているようです。それ以外の衛星についても停波している可能性ありますので最新情報をご確認ください。

運用にあたっては“CALSAT32”(http://jr1huo.my.coocan.jp/jr1huo_calsat32/index.html)などの衛星通信専用アプリを使えば簡単に衛星の位置や通信可能エリアを確認できます。

 

   

 

あらかじめ運用したい衛星を登録しておくと、世界地図上に衛星の位置とそのときの電波到達エリア、さらに運用地点を中心に衛星の方角と仰角などをわかりやすく図で示してくれ衛星通信を行うには必須ツールです。アンテナローテータに仰角機能があれば自動的にアンテナ追尾もやってくれるようです。このあたりは赤道儀・経緯台の自動天体導入と同じ考え方です。

太陽が活動期を迎えるまであと3年、それまではこんな通信で中距離を狙うのもアマチュア無線の楽しみです。福知山でアンテナ上げたら早速実践してみようと思っています。




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