電離層による電波伝搬

福井雅之

 

1.         はじめに
私のもう一つの趣味である“アマチュア無線”は社会人になって以降長い休眠状態が続いていました。定年を過ぎ時間がとれるようになったことから居住地の函南町ボランティアアマチュア無線クラブに加入したことをきっかけに少しずつ電波を出すようになりました。今は430MHz144MHzといったUHF/VHFが運用の中心ですが、本当にやりたいのは世界中に電波が届くHF帯(短波帯)での運用。アンテナのかわりに3mくらいのビニール線をつないで受信のみできるようにし、3.5MHz/7MHz/14MHzバンドを細々と聞いています。しかしかつての無線ブームは下火、さらに今年は太陽活動極小期の影響もありどのバンドも閑散として寂しい限りです。それでもこの非力なビニール線アンテナで中国・ロシア・東南アジア・オセアニアは毎日のように聞こえ、時には北米・ヨーロッパ・南極(昭和基地)やコンディション良ければ地球の裏側南米ブラジルも聞こえることがありHF帯の底力を見せつけられています。数年後のコンディション回復までに本格的活動を再開しようと画策しているところです。
アマチュア無線の話はこれくらいにしておき、今回は太陽活動に密接に関係する電離層による電波伝搬のメカニズムについて書いてみます。直接の天文の話題ではないので話が脱線しましたらご容赦ください。

2.         電離層各層ごとの反射・吸収の特徴
過去にも銀河鉄道で書きましたとおり太陽活動と電波伝搬は切っても切れない関係にあります。太陽活動によって作られる電離層は、高さ100Kmから400Kmの間に複数の層をなし、層の種類や周波数帯によって電波を反射または減衰させることから電波伝搬に大きく作用します。
傘 が含まれている画像

自動的に生成された説明
 注)周波数帯⇒ 30KHz300KHzLF帯(長波帯) 300KHz3MHzMF帯(中波帯) 3MHz30MHzHF帯(短波帯)
         30MHz300MHzVHF帯(超短波帯) *300MHz以上は電離層の影響を受けないので今回は除外します。
@D層:高さ80Km
昼間発生し夜間は消滅します。LF帯は反射層として作用しますがMF帯以上の周波数は減衰層として働きます。
AE層:高さ100Km
昼間はMF,HF帯とも減衰しますが、夜間はLF,MF帯が反射するようになります。@で記載したとおり夜間はD層が消えることからMF帯はE層で反射して地上に戻ってきます。昼間近くの放送局しか聞こえない中波ラジオが夜間遠くの局が聞こえるようになるのはこのためです。
BEs層:高さ100Km(スポラディックE層)
中緯度の68月に発生しますが日による変動が大きいのが特徴です。100MHzまでのVHF帯の電波を反射して異常伝搬を発生させます。
CF層:高さ200Km400Km
高さによってF1層・F2層に分かれます。MF帯はF1層、HF帯はF1層・F2層で反射します。
今回の“電離層による電波伝搬”のテーマはこのF層でのHF帯反射についてです。電離層の状態がよければF層⇔地表の反射を繰り返すことで地球の裏側まで電波が届きます。この層の反射を有効に使っているのがアマチュア無線と世界中にリスナーを持つ短波放送局です。

3.         太陽活動の電離層・反射周波数への影響
電離層は地球上空の希薄な分子(窒素・酸素など)が太陽からの紫外線や帯電微粒子の影響で自由電子と陽イオンに電離することで形成されます。電波の反射にはこの自由電子が大きく作用しており、その密度によって電波が電離層を突き抜けるか反射するかが決まります。反射できる限界周波数は以下の計算式で求めることができます。
[
定義]
 臨界周波数     :入射角0°で電離層を突き抜ける手前の最大周波数
 最高使用周波数(MUF):入射角
で電離層を突き抜ける手前の最大周波数
 最適使用周波数(FOT):実際に使用可能な周波数
 
@電離層の電子密度と臨界周波数との関係は次式で表されます。
  

  N:電子密度[/]
A最高使用周波数は臨界周波数から次のように求めることができます。
  
[MHz]
   臨界周波数[MHz] h:地表から反射点までの高さ[m] d: 送信点から受信点までの距離[m]
B最適使用周波数は最高周波数の85%で計算します。
  
[MHz]
 @〜Bより最適使用周波数は電子密度の平方根に比例していることがわかります。

4.         サイクル25への期待
太陽活動サイクルは今年から来年にかけて極小期、次のサイクル25の極大期は20232026年ごろと予想されています。直近2周期が落ち着いた活動だったことから19601980年の時のような活発な黒点数には戻らないのではと言われています。ただ自然現象何が起こるかわかりません。予想に反しサイクル25で多くの黒点が観測でき、F層の電子密度が上昇、世界中の局と容易に交信できるような電波伝搬になってくれることを是非期待しています。
今号では11年周期と言われる太陽活動がF層におよぼす電波伝搬メカニズムについて紹介しました。これ以外の太陽活動の影響として、夏の日突然Es層によりVHF帯で遠くまで電波が届くようになる“Eスポ”や、急激な太陽活動で短期的に電波伝搬に影響を及ぼす“デリンジャ現象”“磁気嵐”などがあります。これらはまた別の機会にしたいと思います。

 

参考文献:12陸技受験教室3無線工学B(第2版)吉川忠久著      (東京電機大学出版局)

     第一級陸上無線技術士試験やさしく学ぶ無線工学B吉川忠久著 (オーム社)



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