反射・屈折望遠鏡比較 part2
福井雅之
 
  1.はじめに
前号銀河鉄道で「私の愛用しているミザール12cm反射望遠鏡」と「最近譲り受けたビクセン8cm屈折望遠鏡」の比較記事を掲載しました。⇒リンク
前号は地上風景のみでの比較となってしまいましたが、今回“福知山城(地上撮影)”と“土星(天体撮影)”の撮影ができましたので、その画像をふまえて小口径反射/屈折望遠鏡比較の最終報告とさせていただきます。あくまでも私の所有している個体で撮影した感覚的な比較であり、データに基づいた論理的考察はできていません。実践撮影時の傾向としてお読みいただければと思います。また焦点距離の差により見え方に違いがあることもお含みいただければと思います。
前回記事で「期待以上」と報告した「ミザールの中国製15cm反射望遠鏡」については、ドローチューブ伸縮範囲内で直焦点結像ができず、残念ながら今回の比較対象から外すことにしました。したがって今回の比較機材は前回同様「ミザール12cm反射」と「ビクセン8cm屈折」の2種類、撮影対象は帰省時に撮影した“福知山城”と“土星”です。

2.観測機材
 −天体望遠鏡−
  @AR・SPシリーズ120SL 口径12cm反射 焦点距離720mm …ミザール
  Aスーパーポラリス80M  口径 8cm屈折 焦点距離910mm …ビクセン
 −カメラ−
  @EOS Kiss X4 …キヤノン
 −その他−
  @カメラ・アダプター …ミザール
  AETL-2 長焦点変換用レンズ …ミザール
  Bor6mm アイピース …ビクセン

3.“福知山城(地上撮影)”での比較
前回は静岡の自宅から見える“高圧鉄塔”の撮影で比較を行いました。今回はお盆帰省時に望遠鏡を 持ち帰ったので、地上撮影の被写体は“福知山城”とすることにしました。実家から“福知山城”までの距離は直線で1.0km。大きさをイ メージいただくため50mmで撮影した“福知山城”画像を最初に添付します。
なお銀河鉄道第40号でも“福知山城”で望遠鏡テスト記事を掲載しています。ご参考まで。 ⇒リンク
   
    写真1   

      写真1:50mmで撮影した福知山城(直線距離1km)

この“福知山城”を私がよく使う3つの天体写真撮影手法で撮影したのが以下画像です。(左:ミ ザール12cm反射 ⇔ 右:ビクセン8cm屈折)
@直焦点(写真2,3) A直焦点+長焦点変換用レンズ(写真4,5) B拡大法−ビクセンor6mmアイピース(写真6,7) *手法は補足を参照ください。

写真2

写真2:ミザール12cm反射 直焦点
 

写真3
               
 写真3:ビクセン8cm屈折 直焦点
写真4 

写真4:ミザール12cm反射 直焦点+長焦点変換用レンズ
 
写真5
 
写真5:ビクセン8cm屈折 直焦点+長焦点変換用レンズ
写真6

写真6:ミザール12cm反射 拡大法(ビクセンor6mm
アイピース)

写真7

写真7:ビクセン8cm屈折 拡大法(ビクセンor6mm
アイピース)


<考察>
@直焦点 A直焦点+長焦点変換用レンズ は反射・屈折それぞれの焦点距離による画角の違いはあるものの画質に大きな差はありませんでした。
しかし“直焦点+長焦点変換用レンズ+トリミング”や“拡大法”を比較するとそれぞれ光学系の違いがわかります。「ミザール12cm反射」は色収差がなく自然な画像ですが少しシャープさに欠けます。「ビクセン8cm屈折」は色収差が見られますが明暗がはっきりしている分画像が引き締まった感じがします。地上勝負はどちらに軍配を上げるか微妙なところですがそれぞれ一長一短があり、前号同様五分五分の引き分けといったところでしょうか?

4.“土星(天体撮影)”での比較
天体望遠鏡ですので、やはり天体での比較がほしいところです。
今回は、惑星写真のなかでも特徴の出やすい“土星”の撮影で両者の実力をみることにしました。 「環の形や空隙を正確に表現できているか?」「表面の模様はどの程度表現できているか?」福知山実家近くに2つの望遠鏡を並べ“静止画” “動画のスタック処理(640x480ピクセル約2300フレーム)&ウェーブレット処理”でそれぞれ比較しました。
“動画とソフト処理による惑星写真”については、銀河鉄道第51号をご参照ください。 ⇒リンク
@直焦点+長焦点変換用レンズ+トリミング(写真8,9) A動画をスタック処理した画像(写真 10,11) BAをウェーブレット処理した画像(写真12,13)  *手法は補足を参照ください。

 −静止画−
<ミザール12cm反射>

写真8

写真8:ミザール12cm反射 直焦 点+長焦点変換用レンズ
+トリミング

<ビクセン8cm屈折>

写真9

写真9:ビクセン8cm屈折 直焦点+長焦点変換用レンズ
+トリミング
 −動画−
<ミザール12cm反射>

写真10

写真10:ミザール12cm反射 直 焦点+長焦点変換用レンズ
+スタック

 
<ビクセン8cm屈折>

写真11

写真11:ビクセン8cm屈折 直焦 点+長焦点変換用レンズ
+スタック


写真12

写真12:ミザール12cm反射 写 真10をウェーブレット処理

写真13

写真13:ビクセン8cm屈折 写真 11をウェーブレット処理

  
<考察>
惑星撮影など高倍率での分解能が求められる場合、撮像素子面に大きく像を結ぶ“拡大法”が有利です。しかし、口径8cm・12cmクラスで土星の動画を撮影する場合、私のカメラ(EOS Kiss X4)のISO感度6400では光量不足になってしまいその後のPC処理がうまくできません。そこで解像度よりも光量確保を優先し“直焦点+長焦点変換レンズ”でクロップ640x480(60フレーム/s)動画撮影としました。静止画も同条件での比較としたかったので“直焦点+長焦点変換レンズ”をトリミングしました。
静止画ではわかりにくいですが、動画による処理画像では「ミザール12cm反射」に比べ「ビクセン8cm屈折」のほうが土星本体の模様や環の空隙がはっきり出ています。この画像で比較する限り、土星のような明るい惑星撮影では「ビクセン8cm屈折」のほうが優っているというのが私の判断です。
高倍率ではピント合わせが命ですが「ミザール12cm反射」はコマ収差が影響してピントがきっちり追い込めていないのかもしれません。また焦点距離が短い分像が小さくなり、土星本体の大きさに対してドット分解能が不足気味であることも1要因と考えています。
「ビクセン8cm屈折」の“木星”眼視観測で“横縞”や“大赤斑”がくっきりと見えたことや、“福知山城(地上撮影)”の“直焦点+長焦点変換用レンズ+トリミング”“拡大法”でも画像が引き締まって見えることから、ビクセンのレンズ精度が優れているのは間違いないところでしょう。

5.まとめ
今回テストした高倍率での撮影では、口径が小さいにも関わらず「ビクセン8cm屈折」の健闘ぶりが目立ちました。「12cm反射」と「8cm屈折」、当時同じような価格帯で売られていたように記憶していますので、口径は違うものの性能面で両者の差は少ないと言えるのかもしれません。
しかしf値は口径が大きいほうが有利であるのは言うまでもなく、今回の比較でも「ミザール 12cm反射」は「ビクセン8cm屈折」に比べシャッター速度を上げるかカメラ感度を落とすかで光量調整しています。このことをふまえると次のような望遠鏡選定が望ましいのではと考えています。
 8cm屈折 :明るく小さな天体(金星・火星・木星・土星)
 12cm反射 :暗くて大きな天体(彗星・銀河・散開星団・球状星団・星雲)
いずれ大口径望遠鏡を持てることを夢見て、当分この2つの小口径を使い分けて観測を続けます。暑い夏はもうすぐ終わり過ごしやすい季節を迎えます。望遠鏡2本を車に積んでたまには遠くに出かけたいと思っています。


[補足]
 <直焦点と拡大法の撮影手法(望遠鏡へのカメラ取付け方法)>
 −直焦点−                         
図1

  

 −拡大法−


図2


*図はミザール訪問時にいただいた撮影法資料から抜粋しました。
*長焦点変換用レンズは必要により挿入します(文中写真に記載)。
*コネクターはアイピース焦点距離・被写体までの距離によって挿入要/不要を判断します。
 
 


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