動画とソフト処理による惑星写真への挑戦
−12cm反射による土星−
福井 雅之
1.はじめに
銀河鉄道創刊100号おめでとうございます。同好会40年にもおよぶ長い歴史はそう簡単に達成できるものではありません。会長の上原さんの地道な努力の賜物であり心よりお祝い申し上げます。
先日部屋の片づけをしていたら1994年8月発行の“最後の印刷版銀河鉄道”を発見しました。「シューメーカーレビー彗星木星衝突」や「ハレー彗星観測記」など興味深い記事が並び、最後の「時間とは何か」はさすが上原さんの原稿だと感じました。www版に変わってから私もいくつか寄稿させていただきました。今後も大した記事は書けそうにありませんが微力ながら原稿作成に協力させていただきたく思います。
前回の銀河鉄道発行時、上原さんに宛てたメールで「100号は必ず原稿書きます」と申し上げ、
1)火星接近の写真
2)国立天文台副台長:渡部潤一先生講演「『新しい太陽系』 〜冥王星の姿から〜
のいずれかの内容での寄稿をお約束しました。
ところが、もたもたしているうちに火星は地球から遠ざかり、渡部潤一先生のご講演は仕事で聴講できずじまいでどうしようかと思っていた矢先、上原さんより“原稿募集のお知らせ”のはがきとメールを頂戴しました。そこから慌てて準備して書いたのが今回の内容です。“火星”が“土星”に変わりましたが一応惑星写真撮影の顛末記で書いてみます。
2.初めての惑星写真の挑戦(惑星撮影初心者が無謀にも最新の撮影方法に挑む)
お約束どおり火星接近の写真に挑戦したかったのですが、コンポジット法という言葉は聞いたことがあるくらいで、自分では惑星写真をまともに撮ったことがないことにふと気づきました。久しぶりに購入した天文ガイドの“本格派のための惑星撮影ガイド”という記事(6月号から連載)で、最近は惑星撮影の手法が動画ベースに変わっていることを知り、惑星撮影の初心者が無謀にもこの新手法に挑戦する体験談を紹介させていただくのが面白いではないかと考えました。“本格派”には程遠い機材しか持っていない私がどこまで本格派に迫れるか奮闘してみましたのでご参考にしていただければ幸いです。
3.望遠鏡・カメラなど撮影機材(いつもながらの35年前の古い望遠鏡)
何をおいてもまず動画を撮らなければ始まりません。“本格派”では専用のPCカメラを使うようですが1台5万円もするカメラをおいそれと購入することはできず、今回は愛用のデジタル1眼レフカメラCanon EOS Kiss X4の動画機能を使用してみることにしました。望遠鏡はいつものミザール120SLニュートン式反射望遠鏡(口径120mm、焦点距離720mm)で、ミザールAR-1型赤道儀に搭載し、銀河鉄道www版30,31号“赤道儀自動ガイドの自作”で紹介したモータドライブで追従させます。カメラはミザールのカメラ・アダプタで望遠鏡に取り付けました。
4.初挑戦!動画の撮影(これが口径12cmの限界か?)
撮影を始めた7月30日(土)、最初に狙ったのは当初予定していた火星です。しかし、地球から徐々に離れていく姿を私の機材では何の模様も写し出すことができませんでした。早々にあきらめ、火星・さそり座アンタレスとの間でちょうど2等辺3角形を形作っている土星にターゲットを変更し挑戦することにしました。撮影方式は倍率を確保するため15mmのアイピースを使った拡大法とし、カメラの動画はクロップ640x480(30万画素)という通常の7倍での撮影を可能にするモードを使用しました。土星の環はかなり大きく拡大されるのですがISO1600でも撮影した動画は映っているのがかろうじてわかるくらい暗く、その後のソフト処理でもまともな画像に復元することができず断念しました。このままでは失敗記事で終わるので(このほうが面白いかも…)、光学系を変更し翌週8月7日(土)に再挑戦、満足とは言いがたいですが何とか形になりましたのでその全貌を紹介させていただきます。
まずは光学系の変更です。拡大法で失敗したので直焦点での撮影に変えてみることにしました。ただ、私の愛用の望遠鏡は720mmの短焦点であり、カメラがクロップ640x480で通常の7倍での撮影とはいえ拡大率が足りません。そこでミザールの長焦点用・変換レンズを接眼部に追加し、焦点距離を1440mmに拡大します。
前回の拡大法に比べ明るさはかなり改善されましたが画像はちょっと小さ目、まあこれくらいならよしとして60秒程度の動画を何回か撮影しました。この日は北極星が雲に隠れていたので“カン”に頼った極軸合せしかできませんでしたが、60秒程度の動画なら手動補正を使わず画角の中だけの移動に抑えることができました。(こんな動画でもスタックソフトがちゃんと追いかけてくれるようです)
ピントはカメラのライブビューで懸命に追い込み、環らしきものがなんとなく見えたもののカッシーニの空隙のかけらもなく、もっと昔は見えていた筈なのに…と思いましたが現状ではこれが限界。こんな動画でソフト処理してもダメではないか…この後の展開が心配になりましたがこれでやるしかありません。
写真1.動画撮影でのワンショット
品質はともかく動画ファイルはなんとか作成できましたのでこれを元にソフトでスタック処理⇒ウェーブレット処理へと進めていきます。
5.動画型式変換⇒スタック処理⇒ウェーブレット処理(ソフト処理で魔法のように浮かび上がった土星)
今回使用する画像処理ソフトは天文ガイド記事のなかでおすすめの「AutoStakkert!2(スタック処理)」と「RegiStax(ウェーブレット処理)」です。「AutoStakkert!2」は、EOS Kiss X4の動画ファイルである“mov”型式を処理できませんので、音声無しの“avi”型式に変換する必要があります。この変換に「Xmedia Recode」というソフトを使いました。今回使った3つのソフトはすべてフリーソフトでインターネットからダウンロードできます。
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動画型式変換 「Xmedia
Recode」
“mov”から“avi”への変換は、「Xmedia Recode」というソフトを使いました。フリーソフトで、http://www.xmedia-recode.de/ (外部リンク)よりダウンロードできます。
“mov”ファイルを読み込み、音声無しの非圧縮で“Raw
Video”コーデック変換します。
「Xmedia Recode」は、開始・終了の位置が指定できるので、録画スタート・ストップ時カメラに触ったときの大きなブレをカットすることもできました。
<“mov”ファイルの読込⇒型式・保存先設定>
<映像設定(コーデック)>
<クロップ/プレビュー>
<リスト>
これで指定フォルダに非圧縮の“avi”型式ファイルが作成されます。
A スタック処理「AutoStakkert!2」
動画を静止画に変換するスタック処理はウェーブレット処理で使用する「RegiStax」でも可能ですが、さらに良い結果が得られると定評な「AutoStakkert!2」を使ってみることにしました。
こちらもフリーソフトで http://www.autostakkert.com/ (外部リンク)からダウンロードできます。
数千フレームの動画をいとも簡単にスタック処理してくれます。
<OpenとAnalyse>
<Alignment Points>
同時に開いている“Alignment Points”設定画面で次の通り設定します。
“Alignment Points”は“Single”を選択しました。“Multiple”のほうがきめ細かく設定できるようですが元動画の質がよくないので“Single”を選んでいます。惑星の位置を囲まないとスタックした画像が2重になることがあるので要注意です。
<Stck Options⇒Stack>
Stack Optionsを設定します。今回は3689フレーム中1500フレーム(41%)で設定しました。フレーム数もしくは抽出%どちらかで設定します。ソフトが自動で悪いフレームをカットし、使えそうなフレームだけを選んでくれるようです。
最後に“Stack”をクリックしてスタック処理を実行します。
これで設定したスタック数をフォルダ名にしたフォルダが自動作成されその中にスタック処理されたTIFファイルが作成されます。
写真2.スタック処理後の画像
B
ウェーブレット処理「RegiStax」
最後に使用するのは動画処理ソフトの定番「RegiStax」です。Aのスタック処理で作成したTIFファイルを読込み、画像を分析・加工(ウェーブレット処理)します。
「RegiStax」もフリーソフトで http://www.astronomie.be/registax/ (外部リンク)からダウンロードできます。
<Select>
“Select”をクリックしAでスタック処理したファイルを読み込みます。
写真3.ウェーブレット処理後の画像
6.まとめ
以上、動画画像の撮影から動画型式変換⇒スタック処理⇒ウェーブレット処理のソフトの使い方をご紹介しました。
特にスタック処理・ウェーブレット変換2つの処理で、最初の動画の画像からは想像できないくらいの写真に仕上がることが体験できました。動画を使った惑星写真がソフト処理で劇的に進化している一端を感じていただければと思います。
最近の天文雑誌の応募作品は、200mmから300mmの口径でこの方法を使ったものが主流になってきており、天文台の写真と引けをとらない鮮明な惑星写真が掲載されています。動画さえ撮影できればソフト処理だけの簡単な処理ですので、是非挑戦していただき、自身の望遠鏡能力を見直すきっかけにしていただければと思います。
今回は120mmでの挑戦でしたが、今回テストできなかったミザールCX-150(口径150mm 焦点距離1310mm)での作品も今後公開していければと思っています。
写真4:ミザール120SL+AR1と自作モータドライブ
(裏に見えるのがCX-150)