400年ぶりの大接近 木星・土星の会合
福井雅之
 
12月21,22日の木星・土星の会合は、約400年ぶりの大接近となりました。
1週間前の“ふたご座流星群”は強風を理由に観測を断念してしまったので、今年最後の天文現象としてこれを逃すわけにはいきません。いつもなら観測場所を求めて富士箱根伊豆国立公園内のどこかの山をさまようのですが、師走の寒さがこたえる歳でもあるので今回は2階の窓から望遠鏡を突き出しての観測としました。西向きの窓からは高度5度が限界、10〜15度には電話とCATVの電線・光ファイバーが邪魔をしています。また北極星が見えないので極軸は方位磁石を見ながらある程度のところで妥協せざるを得ません。ただこの真冬に暖かい場所で気軽に観測できるのはありがたく、年齢を考えるとこんな観測スタイルが永く続けられる秘訣なのかもしれませんね。

太陽を回っている惑星同士の会合は軌道の位置関係によるもので、動きの遅い外惑星同士の木星・土星は20年に1度の周期で発生します。軌道計算され尽くしている現在ではその学術的な価値はありませんが、それでも新聞などで騒がれるのは観測しやすく見栄えがよいことが理由でしょう。ならば見栄えのする画像にとことんこだわるのが今回の私のテーマ。計画段階からイメージした撮影画像は次の2つです。

1)最接近時に1つの画面内に収められた見栄えのする木星・土星の姿
2)最接近前後数日間の惑星の動きがわかる画像

1)については、ステラナビゲータを使ったシミュレーションの結果、12cm反射望遠鏡の直焦点撮影(焦点距離720mm)で同一視野内に収められることがわかっていたので、さらに高倍率にすることで土星の環や木星の衛星も見える画像に仕上げられないかと考えていました。私の望遠鏡の実力ではアイピースを付けた拡大法で土星の環の撮影が難しいので、以前銀河鉄道に掲載した直焦点+動画クロップ撮影+PCスタック・ウェーブレット処理で挑戦することにしました。望遠鏡が非力なところをPCアプリの力に頼ることになります。⇒動画とソフト処理による惑星写真への挑戦(土星)
2)は家の中からの撮影で望遠鏡も出しっぱなしなので連日の撮影でも苦になりません。ともかく撮影が途切れないよう連日晴れてくれることを祈るばかりでした。最終的には日々の画像を1枚の画像に合成しますがこれもPCアプリ(Adobe Photoshop)の力に頼ることになります。

観測は12/18から開始し12/23までの連続6日間行いました。高度が低いので連日大気のゆらぎとの勝負になりましたが、冬の太平洋側の利点でよく晴れてくれたことから様々な設定を試しながら本番を迎えることができました。

<6日間の撮影履歴>
12/18(金) 天候:全体的には晴れていたが西空は雲が多い
      雲に隠れがちでしたが、直焦点(静止画)で露出を変えながら何枚か撮影、衛星の写り具合を確認できました。
12/19(土) 天候:快晴
      直焦点(静止画)で露出を変えながら何枚か撮影。月がきれいだったので直焦点で静止画と動画を撮影しました。
12/20(日) 天候:快晴
      直焦点(静止画)で露出を変えながら何枚か撮影。木星・土星をそれぞれ動画クロップ(640x480)撮影しました。この視野角でぎりぎり木星と土星が一緒に入るようになったので2惑星同時の動画撮影を試みました。
12/21(月) 天候:快晴
      400年ぶりの大接近。角度にして0.11°です。設定を変えながら様々な静止画・動画を撮影しました。
12/22(火) 天候:快晴
      21日とほぼ同じくらいの距離。角度にして0.12°です。この日も設定を変えながら様々な静止画・動画を撮影しました。
12/23(水) 天候:全体的に薄雲がかかり、西空には暑い雲がかかっている部分あり
      雲に隠れる時間が多く、ほとんど静止画が撮れませんでした。合成写真の最後がピリッとできなくなり残念ですが仕方ないです。これまで天気が良かったことに感謝。
12/24(木) 天候:曇り
全体に厚い雲がかかり全く撮影できず。
6日間の総撮影枚数は、おまけの月の画像を除いて直焦点静止画158枚、動画クロップ56枚になりました。

<成果>
最接近時に1つの画面内に収められた見栄えのする木星・土星の姿
上述したとおり、土星の環にこだわって動画クロップ+PC スタック・ウェーブレット処理で仕上げます。
ただ、木星の明るさに比べ土星や木星の衛星はかなり暗いです。木星に合わせれば土星の環や衛星は見えなくなるし、土星に合わせれば木星の縞模様が見えないばかりか真っ白で巨大な球に写ってしまします。何とか露出調整でのコントロールを試みましたがやはり無理があります。そこで木星・土星・衛星それぞれ最適露出で撮影したものを後から合成するという力技で仕上げることにしました。見映え重視ということでご容赦いただければと思います。各惑星の位置や大きさはベースになる画像を元に合わせています。

図 2_2 図 3_3

最接近前後数日間の惑星の動きがわかる画像
6日間にわたって撮影した画像を合成処理して動きを表現します。元画像は直焦点静止画を使います。ここで何を基点にして何を動かすかで悩みました。それぞれ一長一短があり、今回は木星基準と恒星基準で2種類の合成画像を作ってみました。
木星基準:一番明るい木星を基準にするので肉眼で見るイメージに近いと思います。ただ木星の衛星は6日間分が重なり20個くらい見えてしまいます。
土星基準:一番明るい木星の動きがわかります。ただ木星の衛星は日毎の移動量では前日と重なり合ってしまいます。
恒星基準:木星・土星両惑星の移動量が見やすい反面、日毎の位置関係はわかりにくいかも。木星の衛星の重なりは少ないですが完全には分離できません。

図 4_4 図 5_5

図 6_6 図 7_7

次に木星・土星の大接近が起こるのは約60年後とのこと。我々世代にはもう見ることができそうにないですね。


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