「いちばんぼし」は何という星か[II]
                    上原 貞治
 
  今から18年前、「銀河鉄道」WWW版第4号(2001)に 「『いちばんぼし』は何という星か」という短い解説記事を書きました。当時はなかなか好評だったようです。現在でも、いちばんぼし(以下「一番星」と書く)に興味を持っている人が多いかどうかはわかりませんが、夕方あたりが薄暗くなってきた頃、空を見上げて星を探すのは風情のあることなので、ちょっと続きを書いてみたいと思います。
 
 「一番星は金星である場合が多い」という説明があります。この説明は正しいとも言えるし間違っているとも言えます。矛盾しているようですが、これは日本語の解釈の問題なのです。日本語の文章はけっこうあいまいですよね。
 
 「一番星は、多くの場合が金星である」と言ってしまうと、これは間違いです。一番星を、それぞれの日の夕方の空で最初に見える星、と定義しましょう。これが金星なら、この時の金星は「宵の明星」でなくてはなりません。 ところが、金星は、太陽の西にある「明けの明星」の時と、太陽の東にある「宵の明星」の時があります。その期間は、ほぼ同じで、さらに、太陽の方向にごく近くて、明け方にも夕方にも見られない時期もあります。だから、一番星が金星である場合は、日数の比率では半分未満なのです。一番星が金星の場合と金星でない場合を比べると、後者が多いことになります。
 
 でも、これを一番星となる可能性のあるいくつかの星の競争と捕らえると、話は変わります。星々の中で一番星になる機会がもっとも多いのが金星です。つまり、金星は過半数はおさえていないけど、相対的に第1位というわけです。「一番星は何という星か? 金星の場合がいちばん多い。」 これなら正しいです。
 
 一番星の定義や推定のし方については、前回の記事(いちばん上の行のリンク先)をご覧下さい。下に、2020年から2024年までの予測を載せます。この5年間で金星が一番星になるのは、40%くらいの期間です。金星がいったん一番星になると、それが5〜6カ月続きます。ヴェガの見えている期間も意外と長いのですが、この頃は木星に座を奪われることが多いです。あとは実際の夕空でご確認下さい。
 
2020年 1月〜5月 金星
  6月〜7月上旬 ヴェガ
  7月中旬〜12月 木星
2021年 1月上旬 火星
  1月中旬〜2月上旬 カペラ
  2月中旬〜4月 シリウス
  5月 アークトゥルス
  6月上旬 ヴェガ
  6月中旬〜12月 金星
2022年 1月〜2月上旬 木星
  2月中旬〜4月 シリウス
  5月 アークトゥルス
  6月〜9月 ヴェガ
  10月〜12月 木星
2023年 1月上旬 木星
  1月中旬〜7月中旬 金星
  7月下旬〜11月上旬 ヴェガ
  11月中旬〜12月 木星
2024年 1月〜4月中旬 木星
  4月下旬 シリウス
  5月 アークトゥルス
  6月〜10月上旬 ヴェガ
  10月中旬〜12月 金星


今号表紙に戻る