「いちばんぼし」は何という星か
                       上原 貞治
 
 いちばんぼし 見つけた
 あれ あの森の
 杉の木の上に
       (わらべうた)
 
 子供の頃、時のたつのを忘れて日が暮れるまで遊んでしまい、気がつくと空にはいちばんぼしが出ていた −−−  というような記憶をもっておられる方もいるのではないでしょうか。
 このいちばんぼし(以下、「一番星」と書きます)は、本当は何という星であるのか、といういささか無粋な問いかけが本論のテーマです。風景の一部としてみる限りは、正体は何であっても良いのですが、「一番星はいつも同じ星である」とか「一番星は、いくつかの星が季節などによって単純な周期で入れ替わっている」と考えている人にとっては、新たな発見があるかもしれません。
 
1.一番星の決め方
 
これから、どの星が一番星になる可能性があるのか、2001年から2003年の一番星は何という星かということについて調べます。でも実際に観察せずに「予測」するわけですから、ある程度の定義と仮定が必要になります。
 一番星とは、日が暮れてから最初に見える星のことですが、ことはそう単純ではありません。金星は昼間でも肉眼で見られることがあるからです。でも、日の暮れないうちから一番星も何もあったものではないでしょうから、日没後、空が暗くなり始める頃に、空にあるいちばん明るい星を一番星とすることにしましょう。ただし、高度15度以下の低い空にある星は暗く見えるので対象から外すことにします。また、同程度の明るさの星が2つ以上ある時は、条件の良い方、つまり、より高度が高い星、より東にある星を優先することにします。この辺は、適当にあんばいしてもよいでしょう。厳密な数値の比較にさほどの意味があるとは思えません。細かいことを言えば、星の色や恒星と惑星の違いも影響するかもしれません。実際のところは観測して決定するしかありませんが、観測したところで、天候や雲の配置の影響を受けたら公平な判断はできません。だいたいのめやすというわけです。これが気に入らない人は、実際に自分の目で一番星を探してみて下さい。あなたが最初に見つけた星があなたにとっての一番星です。
 
 
2.一番星になりうる恒星
 
 一番星になり得る星として、恒星と惑星があります。恒星は季節ごとに現れ方が決まっていますが、惑星は不規則です。正確には、個々の惑星の位置の変化はほぼ規則的なのですが、一番星は、多くの星の「競争関係」によって決まりますから、結果的に一番になる星は、不規則に決まっているように見えます。
 惑星はややこしいので、ひとまず惑星は忘れまして、つまり、惑星は無いことにして、恒星だけで一番星になる星を調べてみましょう。そうすると、これは季節ごとに一定になります。1年周期で、毎年、同じパターンが繰り返されるわけです。ただし、新星や超新星は一応出ないものとして下さい。
 恒星の光度表と星座早見で調べてみますと下の表のようになります。明るさは、シリウスだけがずば抜けて明るくマイナス1.6等ですが、あとの、カペラ、アークトゥルス、ヴェガは、いずれもプラス0等台前半で似たような明るさです。この他に、リゲルも候補に挙がりますが、私が見たところ、リゲルはカペラよりも明るくは見えないこと、仮にカペラより明るく見えたとしてもそれはシリウスが昇ってくるまでのごく短い期間に限られていること、から、単純のためにリゲルは除き、カペラに軍配を上げました。リゲルファンの方には謝ります。
 
 
    表1:恒星だけを考えたときの一番星





 
期間             一番星になる星(恒星のみ)
1月上旬〜 2月上旬  
2月中旬〜 4月下旬  
5月上旬〜 5月下旬
6月上旬〜12月上旬  
12月中旬〜12月下旬  
  カペラ 
  シリウス
   アークトゥルス
  ヴェガ
   カペラ





 
 
 
3.一番星になりうる惑星
 
 惑星さえなければ、上の表のように話は単純なのですがそうはいきません。水星、金星、火星、木星、土星の5大惑星は、上記の恒星よりも明るくなる可能性がありますから、当然、一番星の座を奪うことがあり得ます。しかし、水星は、日暮れ時の光度が15度を大きく超すことはありませんので除外します。ほぼ15度になることはありますが、一番星として認識するには無理があると思います。
 さらに、状況を複雑にしているのは惑星の明るさが一定していないことです。金星はマイナス4等台とダントツに明るいので、空の見えるところにあれば常に一番星ですが、木星と火星のどちらが明るいかは時によります。たいていの時は木星の方が明るいのですが、地球に接近したときは火星の方が明るくなる場合があります。また、火星と土星は、上に上げた4つの恒星より暗くなる場合もあります。
 火星が接近する時のその星空での方向とその明るさには関係があり(これは火星の公転軌道が楕円だからです)、従って、恒星と火星の明るさの優劣には一定の関係が生じます。簡単に言うと、秋に接近した火星は明るく、春に接近した火星は暗いという傾向があります。土星も、輪の傾きの効果が季節によっているというおもしろい事実があります。
 
 ここで明るさの順位関係をまとめますと、金星が一番、次に来るのが木星か地球に接近した火星、次がシリウス、そして、あまり明るくないときの火星、土星、残りの3つの恒星のいずれか、ということになります。
 
 
4.2001年から2003年までの一番星
 では、こうやって予測した2001年から2003年までの一番星の予想を並べてみましょう。表の通りですが、この21世紀最初の3年間には特徴的なことがあります。その一つは、シリウスが一番星にならないことです。これは、この期間、木星が、シリウスが空にある期間だいたいずっと出ていることに拠ります。もう一つは、2003年に火星が大接近することです。大接近時の火星の明るさは木星をしのぐのですが、残念ながら、火星が一番星の期間は木星は出ていないので「直接対決」は起こりません。
 では、あとは夕空でご覧下さい。
 
     2001〜2003年の一番星(予想)
  期間              一番星
2001年1月〜3月上旬    
   3月中旬〜4月     
   5月      
   6月          
   7月〜9月       
   10月〜12月上旬    
   12月中旬       
  12月下旬〜2002年1月上旬
    金星
    木星
  アークトゥルス
    ヴェガ
    火星
    ヴェガ
    カペラ
    土星
2002年1月中旬〜5月上旬  
   5月中旬〜7月中旬   
   7月下旬〜12月上旬  
   12月中旬〜12月下旬  
    木星  
    金星
    ヴェガ
    カペラ
2003年1月〜2月上旬    
   2月中旬〜6月     
   7月〜9月中旬     
   9月中旬〜12月中旬  
   12月下旬       
    土星
    木星
    ヴェガ
    火星
    金星

















 
 
                          (おわり)