2017ふたご座流星群撮影記
 
−合成手法を駆使した画像処理−

福井 雅之
 
1.はじめに
今回も、天体写真の撮影と画像処理方法の紹介とさせてい ただきます。
今年は春から夏にかけてずっと天候不順で望遠鏡の出番がありませんでした。一転、秋以降は晴れの日が多く、ならば…と選んだのが極寒時期の「ふたご座流星群」です。月齢も申し分ないので背景の富士山と暗い星空を求めて朝霧高原まで足をのばすことにしました。しかし、初めてのデジカメでの流星撮影に四苦八苦、ISO感度は?バルブ開放時間は?マニュアルでのピント合わせは?など基本的なことから手探りで、流星を写し出せるまで随分時間を要しました。ただ最近のデジタル画像処理は多少の失敗を許してくれるくらい進化しており、最後はそれなりの作品に仕上げることができました。
やはり定番は富士山と流星との共演。富士山と一緒に撮れた唯一の流星写真をデジタル処理して銀河鉄道の表紙とさせていただきます。

2.いざ朝霧高原へ
「裾野まで富士山をきれいに撮るなら朝霧高原」という私なりのこだわりがあり、前日の準備段階から撮影地はここに決めていました。朝霧高原は富士山の西麓に位置した平原で東から登ってくる星々を富士山と一緒に撮影することができる絶好のポイントです。
極大日を迎える12月13日は仕事から帰宅できたのが19:00、夕食を済ませて新東名高速・西富士道路を車で移動し朝霧高原に到着したのが21:00とかなり遅めの撮影開始となりました。
到着して空を見上げるとさすが街明かりのない朝霧高原、満天の星空から多くの流れ星を見ることができこれだけで寒い中やってきた価値がありました。富士山を入れた固定撮影から赤道儀に同架しての自動追尾撮影と進めていきましたが、事前の下調べが不十分で我流の試行錯誤となりなかなか納得がいく結果が得られません。それでも淡いながらも数枚のカットに流星を残すことができたので3時過ぎに撤収・帰途につきました。でも12月の朝霧高原は本当に寒かった〜

―撮影条件―
<三脚固定撮影>
カメラ:Canon EOS Kiss X4
レンズ:EOS Kiss付属18-55mmズーム F4.5 ⇒焦点距離18mm F4.5で撮影
感度:ISO 800
シャッター速度:30秒(32秒間隔でインターバル撮影)
<12cm反射望遠鏡赤道儀に同架した追尾撮影>
感度:ISO 12800
その他は固定撮影に同じ

失敗談含め現地試行錯誤で撮影してみての反省点を備忘録で記します。
@ピントリングは回し切ったところが無限遠∞ではない。(AFなので常識?)
 このことに途中で気づきましたので、それ以前に撮影した富士山の固定撮影はピンボケ。
 しかしピントがずれた分星の軌跡に太さが加わったので結果OKかな?
A感度はできる限り上げること
 明るい流星は肉眼ではっきり見えるので低感度でも楽に撮れそうですが、横切る速度が早
 いため十分な光⇒電荷の蓄積が得られず大変写しにくい被写体であることを実感。これが
 わかってから順次感度を上げた結果、最後は私のカメラの限界値ISO 12800での撮影で
 ようやく淡いながらも流星をとらえることができるようになりました。
Bシャッター速度は短めに
 Aの教訓から高感度で撮影するので、シャッターを開ける時間が長すぎると、真っ白な写
 真になってしまいます。追尾撮影であってもほどほどの開放時間とし、後からPCで合成
 したほうがきれいな写真に仕上げることができます。
@Aの条件から、流星撮影においてはISO感度の高いカメラと明るい広角レンズが欲しくなります。次回流星群撮影までに何とかしたいのですが先立つものが…

3.PCによるデジタル画像処理
ピント合わせや露出時間設定ミスなどの失敗写真含め画像処理でどう見せるか腕の見せ所です。今回撮れた流星画像はどれも暗くて見栄えがしません。
どうしたらきれいな流星写真になるのかネットで調べると独特の画像処理が施されていることがわかりました。ポイントは、恒星像と流星の画像を一旦分離させ、それぞれ最適な画像処理を施してから再び重ね合わせるという手法。撮った画像の一部のみを抽出して強調するという一見邪道のように思える処理ですが、昔の銀塩写真時代の覆い焼きの一種と考えればこれもありと思いました。処理に使ったソフトはいつものADOBE PHOTOSHOP ELEMENTS 9。レイヤーを使った様々な合成処理と各種画像処理フィルターに加え、前号銀河鉄道で紹介したGoogle Nik Collectionを駆使して今回3枚の作品に仕上げてみました。

-画像処理のポイント-
@固定撮影での日周運動の合成は、「加算平均」ではなく「比較明」を使う
 「比較明」とは、レイヤー間2枚の同一箇所の画素を比較して明るいほうを採用する合成
 手法です。
 花火を豪華に見栄えよくするときなどに使われる合成手法で、日周運動による星の軌跡を
 つなぎ合わせるときに有効です。「比較明」の特徴から周囲の景色(例えば富士山)を白
 とびさせることはありません。
A元画像から流星を分離するには、流星のない画像との減算合成する
 流星が写っている画像と前後どちらかの画像を減算合成すると、同じ位置の星は打ち消し
 あって画面から消え、流星のみが浮かびあがります。これを使って流星のみの画像を強調
 処理します。恒星像も流星を見やすくするための処理を施した後、2枚を「加算合成」で
 重ね合わせると流星に迫力が出て見栄えが良くなります。
BAの画像処理はADOBE PHOTOSHOP ELEMENTS 9フィルターとGoogle Nik Collection。
 2つの効果の特徴を活かして恒星と流星のバランスとりました。私はまだまだ画像処理初
 心者ですが美しい画像に仕上げるにはここが腕の見せ所なのでしょうね。
 
4.おわりに
流星写真への挑戦は、WWW版6号にその感動を寄稿した2001年のしし座流星群大出現以来です(リンク)。
この時はまだデジカメを持っておらず銀塩写真での撮影でしたが、流星写真の難しさは現在の機材でもあまり変わらないことを痛感しました。ただソフトでの画像処理技術は格段に進歩しています。今回撮影と画像処理ノウハウがある程度蓄積できたので次回ペルセウス座流星群で再チャレンジしてみたいと思っています。
今回のふたご座流星群で作成した3つの作品を掲載します。

   
  
    写真1:日周運動と流星  30秒露出×60枚「比較明」で合成
デジカメ時代になってあまり見られなくなった日周運動のなかの流星です。富士山が一緒だと美しい構図になります。
これは、今号の銀河鉄道表紙に載せました。
 

   
      写真2:写真1で流星が写っていた1カット 30秒露出
写真1の合成60カットのなかで唯一流星が写っていた画像です。撮影時には気が付かなかったのですがISO 800で写っていたので結構明るい流星だったと思われます。(時刻23:33)
 


       写真3:ふたご座からオリオン座 にかけて追尾撮影
せっかく望遠鏡を持参したので、モータードライブによる自動追尾撮影を行いました。
方角はふたご座からオリオン座にかけての領域で多くの流星が見えていましたが写真に収められたのはこの4枚。流星画像のみを抽出し恒星像の写真に重ね合わせました。



         写真4:写真3に流星の飛んだ時刻を入れてみました
 
今回300枚以上シャッターを切りましたのでまだまだ流星像の見落としがありそうです。
再度一枚一枚じっくり調べ、いい作品ができましたらまたご紹介します。
ご参考までに今回の作品の元画像を掲載します。画像処理のお化粧で随分変わることがお判りいただけると思います。
  
   


   


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