私の天文グッズコレクション(第2回 古書(子ども向け天文書)編)
 
上原 貞治
 
 2回目は、昭和時代に発行された子ども向けの天文書をご紹介します。著者名はすべて敬称略とさせていただきます。
 
1.井田静夫 著 『不思議な天地』 弘文社 昭和3年 (1928)
これは、比較的最近にネット古書店で買った本です。表紙の絵が現代風なのと、内容がおもに惑星天文学と地球科学を中心にして天地の事象を網羅しようとする著者の思い入れが感じられる本だったので、購入しました。通り一遍の知識の普及を目的とした明治時代の啓蒙書ではなく、青少年へにこういうことを知ってほしいという熱意が感じられる本です。内容的には、小学校の高学年向けというところでしょうか。著者の井田静夫については未詳ですが、昭和初期にすでに多くの子ども向け科学書を書いていて、そのテーマの着眼も現代的であったようです。この本のはしがきには、「私の好きな少年少女の皆さんよく読んで下さい。よくしらべて下さい。そして実物をしらべ、実験し製作し工夫をして下さい。」とあります。もっとも、この本は、天文や地学の知識を述べた本なので、実験、製作の内容はほとんどありませんが、それでも、作図で理解したり、地球の現象を身近な現象で喩えたりするような工夫が見られます。
 
 

箱と本の表紙では、少年、少女のイラストが左右反転している(芸が細かい)。
 
2.山本一清 著 『天体と宇宙』 偕成社 昭和16年(1941)
 プロの天文学者でありながら、アマチュア天文学の育成や天文知識の一般への普及に努めた山本一清の好著です。山本一清は京都帝国大学花山天文台の初代台長でしたが、大学を辞職したのちも天文普及に力を入れました。この本は、近所の古書店で奇跡的に見つけたものです。内容は、星座の説明から始まっていて、天体のロマン性を賞賛していますが、科学的に未解決の問題については自説を披露するなど科学者らしいところも見せています。内容的には、小学校の高学年から、当時の高等小学校レベルではないかと思われます。星図やイラストはいろいろな描き方がされていて、オリジナルのフリーハンド、妙に現代的なイラスト、海外の絵画から取ったものがごちゃまぜになっています。
 
  

2.と3.の本の大きさは同サイズである。
 
3.野尻抱影 著  『天体と宇宙』 偕成社 少年科学文庫4 昭和28年(1953)
 2.と同じ題名、同じ出版社で、内容のレベルもほとんど同じの別の本が、12年後に出版されました。ただし、著者は野尻抱影です。山本一清と野尻抱影は、ともに昭和の天文学普及の大功労者ですが、山本一清がプロの天文学者であったのに対し、野尻抱影は文学者でしたから、出身のところがまったく違います。ただ、天体のロマン性を讃えながらも、基礎的な科学的な知識をおろそかにしない点で、両者は共通しており、こちらの『天体と宇宙』も山本著と大きな姿勢の違いはありません。同じ偕成社から出ていることから、何らかの両人の錯綜とか仲違いとかそういうことを勘ぐらせますが、終戦の頃の一清と抱影は、いわば普通の天文の学界仲間のつきあいをする間柄で、特に近くもなければ仲が悪いわけでもなかったといいます。偕成社が抱影に乗り換えたのは、昭和28年当時は、一清が青少年向けの著作を手がける状況になかったからかもしれません。こちらの抱影の本は、順序が違っていて、望遠鏡、太陽といった手近な所から始まって、恒星にいたり、星座は終わりのほうで解説されています。
 この2.と3.の12年の出版時期の差は私自身にとってはたいへん大きなもので、一清の本は大人になってから知った「戦前の書物」ですが、抱影の本は私が「現役」の小学生であったときに実際に読んだ懐かしい本です。この本は、西中筋地区の遷喬小学校の図書室の書庫にあって3度くらい借り出しました。私が現在持っている本は、もちろん遷喬小学校の本ではなく最近に古書店から買ったものですが、今読んでも45年前のことがありありと思い出されます。
 
 

表紙は、2.参照。パロマー山天文台の望遠鏡に入る人や木星大赤斑のスケッチなど印象深い海外の書物からのイラストや写真が豊富。ただし、出典の記載は無し。
 
4.鈴木敬信 著 『暦と迷信』 恒星社厚生閣 昭和44年 (1969)
 この本は、本当は青少年向けの本ではないかもしれません。しかし、鈴木敬信の軽妙で飄々とした独特の語り口は年代を超えて親しみやすく、また、私はこの本を大学に入った頃に書店で買って初めて読んだのですが、きっと中学生の頃に読んでも十分楽しめただろうな、ということで、ここで取り上げました。鈴木敬信は、天文年鑑のもっとも主要な著者として長い間執筆をしてきた人で、暦算に詳しい天文学者です。Wikipediaによると、『暦と迷信』は最初1935年(昭和10年)に出版されたことになっていますが、昭和44年版では当時の時事問題にも触れているので、相当書き換えられていることと思います。私は、この本によって、暦の基礎と、太陰暦(日本の旧暦)の不合理な迷信について知りました。今でも、天文学に入門する人には、ぜひ鈴木敬信の天文書を一冊は読んでいただきたいものだと思っています。
 
 
 

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5.相島敏夫、餌取章男著 『月を歩いた二時間十五分』 ポプラ社 昭和44年(1969)
  これも私が「現役」の小学生の時に読んだ本です。アポロ11号が月に着陸した1969年7月の4カ月後の11月に発行されました。相島敏夫は朝日新聞学芸部、餌取章男 はテレビ会社から日経サイエンス編集長になった人でジャーナリストだけあって出版が早かったようです。私は、この本を同級生のT・O君に借りて読みました。出版直後に貴重な本をよく貸してくれたものだと今でも感謝しています。T・O君は、ロケットと恐竜に詳しく、特に宇宙開発については私の師とでもいうべき人です(この方面では、私には彼のほかに師はいません)。もちろん、本はT・O君に返却しましたので、現在持っているのは比較的最近にネット古書店で買った物です。定価は500円と安いもののたいへん立派な作りの本で、カラーの図版、白黒の図版、イラストはどれも鮮明で内容も充実しており、アポロ小事典という用語集までついています。
 
 
  

最後の写真の右上は、帰還した隔離部屋の3飛行士を迎えるニクソン大統領(「銀河鉄道」前号(WWW版47号)の 「編集後記」の終わりのほうを参照して下さい)
 

 

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