編集後記
上原 貞治
 
 馬齢を重ね、寒がりになって久しいですが、今年もようやく暖かくなってきました。
 
今年は、1月、4月と海外出張が入って、それぞれ、天文に関係ある施設を訪れてきましたので、その時に撮った写真を紹介したいと思います。私は、なぜかそういう施設に恵まれたところに出張することが多いのですが、これはたまたま出席せよと言われた会議に参加するために訪れているに過ぎず、そこに天文に関係する施設があるのはまったくの偶然です。ホントですって・・・
 
 1つめの街はストラスブールです。フランスのドイツ国境近くにある古い街で、そこにあるストラスブール大聖堂には有名な天文時計があります。今回の来訪は実質二日間しかなく、その二日とも会議だったので、会議終了後の大聖堂閉館前の短い時間に訪問しました。というのは、この天文時計は屋内にあるのです。 大聖堂は外から見ても立派ですが、天文時計はまったく見えません。写真は、今号の『銀河鉄道』の表紙にあります(このページのいちばん下のリンクをクリックして下さい)。天文時計の主要部分の構成は、いちばん下が地球の昼と夜、中央が惑星の公転(太陽中心説による)、その上が月の満ち欠けとなっています。多くの観光客に人気があるのは、これにカラクリ人形が動く部分が付いているためのようです。
 
 2つめの街は、米国のワシントン・ダレスです。ワシントンと言えばアメリカの首都、ダレスというとその玄関口の国際空港ですが、ワシントン・ダレス空港はワシントンDCではなく隣のヴァージニア州にあります。これは、東京国際成田空港が千葉県にあるのと似たようなものです。さて、そのダレス空港のすぐ南側にスミソニアン国立航空宇宙博物館の分館(ウドバー・ハジーセンター)があります。ワシントンDCモールにある本館は2年前の出張の時に行きまして『銀河鉄道』WWW版42号でご紹介済みですので(偶然ですってよぉ)、今回は分館に行きました。ダレス空港から徒歩で行くことはできませんが、路線バスが利用できます。
 
 さて、ここは飛行機の展示がすばらしく、特に世界の軍用機のコレクションが豊富です。まさにアニメ映画の「風立ちぬ」の世界です。広島に原爆を落としたB-29「エノラ・ゲイ」号もここにあります。日本軍の「紫電改」の貴重な機体もすぐそばにありました。ここでは、宇宙関係の展示に話を絞りましょう。
 ここにある展示物で、いちばん目をひくのは、スペースシャトル「ディスカバリー」号の本物です。「コロンビア」号と「チャレンジャー」号は飛行中の事故で失われてしまったので、これがスペースシャトルの最古の機体になります。1枚目の写真はどこかわかりますか。宇宙飛行士の出入りに使われるハッチの上半分あたりです。2枚目の写真は、スペースシャトルのお尻のほうの腹側の部分のタイルです。(腹側でお尻というのはおかしいですので、下腹部というべきでしょうか。失礼!)見ての通りボロボロで、よくここまで飛行をつづけたものと感心いたしました。


  


 ここで、私がもっとも感激したのは、「ホーネット+3」と題されたアポロ11号宇宙飛行士が用いた移動用の隔離部屋です。バスのようなかたちをしていますが意外に小さいもので、背の高い人なら天井まで頭が届くのではないかという程度の大きさでした。私はこの隔離部屋が太平洋上のホーネット号に載せられて、帰還したばかりのアポロ飛行士がそこへ入っていく時の実況生中継をはっきりと憶えています。せっかく帰ってきたのにみんなとお祝いすることもなく、伝染病にかかった人のように隔離されてしまうんだ、と残念に思いました。我らがヒーローだったニールもバズもマイケルも背は高くなかったので、天井で頭を打つことはなかったしょう。あの隔離部屋がこの博物館にあるということは来るまで知らなかったので、見つけて一瞬にして、あっ、こんな小さかったのか、と思いました。45年間、まったく会うことを期待していなかった旧知に会った瞬間でした。


 


ところで、欧米の博物館では多くの場合、写真撮影は自由のようです。民間の美術館では、高価な財産を入手して公開しているというスタンスなのと対照的に、スミソニアンを始めとする博物館では、人類の重要財産をたまたまうちで預かって置かせていただいているだけ、ということなのでしょう。

 

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