図1:A ケース2で、土星環が球体の星くずで出来ている場合、それぞれは半月のように欠けて光る。B ただし、星くずの密度が混んでいるところでは、日陰ができて、日当たりがかなり悪くなる
それから、太陽は土星から見ても、点状の星ではなく、それなりの大きさの直径の丸い「日輪」に見えます。地球から見た場合の10分の1くらいになりますが、それでも、0.05度くらいの視直径に見える計算になります。だから、太陽が土星環の真横から照らすといっても、そこから見る太陽の見た目の大きさだけは、平行光線でない成分があるので、輪の上下面も、一部の星くずは一角が照らされると期待できます。だから、土星環の両面は、完全に真っ暗にはならないと期待できます(図2A)。
次に、真横になるという現象のタイムスケールの話ですが、真横でも半月状に見えることや、太陽の視直径が一定の効果をなして両面が照らされるタイミングがあるということうを考慮しますと、日当たりの角度の1度程度の誤差は、見た目に対して決定的な問題ではないかもしれません。そうしますと、このケース(日当たりの角度が1度以下の期間)は半年くらい、2度以下の期間ならなら1年くらい続く現象となります。あとでも触れますが、この解説のタイトルに2024年を含めたのは、この理由になります。
図2:A ケース2でも、太陽に視直径があることによって、環の両面は多少なりとも照らされるのではないか。B ケース3の説明図。地球(青い小丸)からは、太陽に直接照らされていない側の面を見る。
ケース3:太陽が照らす面が逆側
説明の便宜上、太陽に照らされる側の土星環の面を「表側」と呼びますと、地球からは「裏側」が見られる場合ということになります。いわゆる「逆光」で観察することになります(図2B)。土星の公転軌道は、地球の公転軌道の10倍くらい外側にありますので、土星から見ると、地球はいつも太陽の太陽の近くに見えますので、こういうことはめったに起こりません。しかし、環の消失のシーズンのはじめと終わりで、ケース1とケース2が連続して起こってその日時に多少の差があれば(順序は逆でもよろしいが)、その時間差の間はケース3が起こることになります。
だから、タイムスケールとしては、 ケース1とケース2の時間差程度(その逆順も含む)ということになります。典型的には2〜3か月程度になるようです。一瞬の現象ではなくそれなりの期間があることになります。また、一般に、ケース2の瞬間は、必ずケース3の期間の初めか終わりに相当することになり、ケース2とケース3は(順番は逆もありうる)連続して起こることになります。
ケース2で述べたように、土星環が光を通さない1枚ものの板であれば、裏面はまったく日が当たらずほぼ真っ暗ということになります。それでも、土星本体からの太陽光の照り返しがあるので、真っ暗にはなりません。しかし、実際は、土星環の正体は星くずですから、裏側から日が当たっても、個々の星くずは、三日月〜半月状に照らされてそれなりに見えることになります。ただし、星くずの密度の濃い部分は、星くず同士が日陰を作りますので、密度の薄い部分のほうが日当たりがよくなるという逆説的な効果が起こります。輪の「裏側」の画像は、土星探査機によって何度か撮影されているので、ネットで画像検索を掛けていただけば見つかると思います。ちょうど見慣れた土星環の「ネガ写真」のような感じで、白黒反転して写っていると思います。表が明るければ裏が暗い、表が暗ければ裏が明るいというわけです。このような「ネガの土星環」が地球から見られるチャンスが、このケース3の場合です。したがって、ネガになるのであって「消失」するわけではありません。
ネガになって、明るく見えるのは、A環の外周と、A環とB環の境目のカッシニ空隙と呼ばれる部分の付近と、それから普段は淡くしか見えない土星本体に近いC環の部分ということになります。ただ、残念ながら、地球から見えるケース3は、線状に近く、探査機の写真のような幅の広いネガの環は見られません。
2025年のケース1の現象
まず初めにお断りしておきますが、2025年の土星環の消失の観測は、あまり条件がよくありません。それは、ケース1が1回だけで、それが地球から土星が見にくい時期に当たっているからです。でも、これは14〜15年に1度の現象ですし、2038〜2039年の条件のよい現象まで悠々と待ってはいられませんから、条件が悪いながらも観察していただくのがよろしいと思います。
地球からみて、土星環を真横から望むことになるケース1は、国立天文台の暦Wiki(※)によると、 2025年03月24日04時(日本時)に起こります。上に書いたように、真横からになるのは、一瞬の現象と言えますので、できるだけこの日の時間帯に見ていただくのがよろしいのですが、残念ながら、土星は3月12日に合を迎えたばかりなので、この頃は土星は見られません。従って、2025年にはケース1の土星環の消失は見られないということになります。土星は、2025年3月中は、ほぼ見られず、4月上旬の明け方になると明け方の東の空低く見られるようになりますが、その期間は、ケース3の期間にはいっていることになります。従って、輪の光が当たっている「表側」から見る最後のチャンスは、2025年の2月末頃の夕方の西空低空となります。この頃は、地球から見ても太陽から見ても、1度くらいの傾きで輪に光が当たっており、それが見え、土星環は消失はしていないと思います。
また、この2月と同様に、2025年11月〜12月にも、地球から見る環の日の当たっている側の角度が再度1度程度になります。1度以下にはなりますが、0度にはなりません。今回のシーズンでは、この後者の期間がいちばん観察しやすいと思います。この間、土星の輪は、線のように見えるはずです。それをケース1に準ずる現象として見ていただくしかありません。
なお、この地球から見た環の平面の傾きの角度は、誠文堂新光社の『天文年鑑』の「土星のこよみ」のページにBという変数で紹介されています。
2024〜2025年のケース2の現象
土星環の真横から太陽の光が当たる現象は、2025年5月7日に起こります。上で述べたようにこれは一瞬の現象とは言えないと予想しますので、その前後、1〜2週間を観察して、どの程度の変化があるかを見ると面白いと思います。この期間は、土星は明け方の東の空にあり、日の出の1時間半〜1時間前に見ると、明けの明星・金星の近くにあって見つけやすいはずです。ただし、薄明中で、高度20度以下の現象ですから、細かい観察には好条件とは言えません。今回は全体として条件がよくないのでしかたありません。下に述べるように、5月6日まではケース3の「逆光」になり、ケース2の起こる5月7日からは日当たりの面が地球から見える側にスイッチすることになります。この日を境に見え方が劇的に変わるのか、ほとんど変化がないのか、そもそも手持ちの望遠鏡で土星環がずっと見え続けるのかが注目点になります。
上に述べたように、太陽が環をのどちらかの面を2度の角度以下で照らすという条件に緩めますと、2024年12月20日頃から、この条件が満たされることになります。だから、観察は、2024年の暮れの西空から始められるのがよろしいでしょう。また、2025年5月7日以降も、9月いっぱいくらいまでは、この条件が満たされることになります。土星は、2024〜2025年は秋の星座である「みずがめ座」か「うお座」にありますので、夏、秋、冬が観察の好機になります。
太陽が環の平面を照らす角度は、『天文年鑑』の「土星のこよみ」のページにB'(Bダッシュ)という変数で紹介されています。
2025年のケース3の現象
土星環を逆光で観察できる貴重なケース3の期間は、ケース1とケース2の間の期間、つまり。2025年の3月24日〜5月6日ということになります。明け方の東の空での観察になりますが、3月中は土星は太陽に近く観察できません。4月にはいって少し経った頃に日の出前の東の空の低空で観察できるようになります。その後でも、ほぼ1か月間の期間がありますので、この間に、土星環の裏側が「ネガ」状に光って見えるものか目をこらして観察してください。また、見えた場合は、線状の土星環の明るさの分布にも注目してください。『天文年鑑』の「土星のこよみ」のページで、BとB'の正負の符号が異なる期間がこれにあたります。
注目点とまとめ
ご紹介した期間(2024年12月〜2025年年末まで)、土星の環は見えるか見えないかのどちらかですが、ケース2か3の期間は、普段とは違って、明るさの対応が逆になるネガ状に見えたり、線状に見えても途切れ途切れとか左右非対称などに見えるかもしれません。また、時には、土星の衛星が線状の環に串刺しになり団子のように見えます。楽しみながら観察してみてください。
ハイライトの期間をまとめますと、
・土星環を逆光で見られる貴重な期間は、2025年4月上旬〜5月6日まで
・土星環がある程度傾いて見え、日は当たっているが、日当たりの角度が浅いのは2025年1〜2月と5〜9月
・逆に日当たりの角度は大きくなるものの、地球から見て真横に近づく(ちょうど真横にはならない)2025年2月下旬と11月〜12月
ということになります。今回は、ケース1の瞬間が見られないので、条件はよくありません。それで、性能のよい望遠鏡で見ると、(幸か不幸か)土星環がまったく消えてしまう完全消失を見るチャンスはないかもしれません。しかし、1年間にわたって変化を楽しめることに間違いはありません。
写真撮影
消失前後の期間の土星環は、望遠鏡で見えてもたいへん淡いもので、その写真撮影には、以前では数秒から数十秒の露光が必要となり、けっこうな難物でした。また、環が薄いので、ピント合わせや追尾もたいへんでした。この15年間で、デジタル撮影の機材が高感度になりましたので、撮影も気軽に挑戦できるようになったのではないかと思います。ただし、土星本体の撮影よりはかなり高感度、あるいは時間を掛けての露光が必要になると思います。動画モードで撮影できるのかなど、注目されるところです。また、時とともに土星環の明るさが変っていきますので、カメラの撮影条件の設定にはその都度の試行錯誤が必要と思います。
※(上記 暦Wiki)
https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/CFC7C0B12FB4C4A4CEBEC3BCBA.html
今号表紙に戻る