アイソン彗星に思う

                                田中 邦明



 約1カ月前の2013年11月29日、太陽に接近したアイソン彗星は、メディア等で紹介された予想の雄姿とは大きく異なる姿で太陽の裏側から現れた。

 先の「西中筋天文同好会40年の思い出」の中でも何度か述べたが、メディアで大騒の後は空振りが増える。

 1972年のジャコビニ流星群への期待、1973年のコホーテク彗星への期待、然りである。

 何とかの法則と言いたいところだが、これは私たちの期待の裏返しでもある。

 天文現象ではないが「1999年7の月」に恐怖の大王の登場の予告も、何処か雰囲気が似ているところがあった。


 方や、メディアの大騒ぎもなかったが、1976年のウエスト彗星、、1996年の百武彗星、1997年のヘール・ボップ彗星は、予想を超える見栄えであった。

 これらは肉眼でも見られる彗星、つまり肉眼彗星となった。

 1994年のシューメーカー・レヴィ第9彗星の木星への衝突、ジュピターインパクトも大方の予想にはなかった。

 衝突後も暫く小望遠鏡でも黒っぽい衝突痕を見ることができた、とんでもない一大天文現象であった。

 しかし、この衝突を予測した中野主一氏も少数派であり、大多数の予想は「木星に接近通過」であった。

 2001年しし座流星群も凄かった。

 イギリスのデイヴィッド・アッシャーが、流星群が出現する時刻と規模を予測することに世界で初めて成功したと言われている。

 よく調べてみると、今回のアイソン彗星は、早くから天文物理学者は、太陽接近によって分解してしまうと考えていたようである。



 私たちは、メディアも含めて、どうやら希望的観測が好みらしい。

 いろいろな現象を希望的に「こうなる可能性がある」「こうなれば良いなあ」「いや、こうなるはずである」「こうなるべきである」と…。

 天文現象は意見や有権者数の多少によらず、冷酷にも事実だけを突きつける。

 そう考えれば、天文学者や科学者というのは厳しい職務である。

 今年、福知山では、災害が相次いだ。来年は良い年になることを願うばかりである。

                                    2013年師走

 
 

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