「ボーデの法則」とその見直しについて II
上原 貞治
衛星系へのボーデの法則の拡張は過去にも試みられているが、ここではそれらを参考にせずに独自の計算を行った。ここで参考にしたのは、惑星についてかつてより提唱されている本家本元のボーデの法則のみである。
1.ボーデの法則の一般式
ボーデの法則の一般式は、
a + 2n×b (n=−∞,0,1,2,3,・・・) (2nは、2のn乗)
と書ける。衛星系についてもこの式の形を維持する。上のnの数列を適用すると、惑星または衛星の中心の星(太陽または惑星)からの距離は、a,a+b,a+2b,a+4b,...となる。
衛星系については、ボーデの法則のようなものが成り立っていそうに見える比較的、大きめで(半径100km程度以上)惑星から遠くない衛星を選択する。太陽系の惑星の中で、ボーデの法則がチェックできるこのような衛星を5個以上保有するのは、木星と土星と天王星だけである。
2.a と b の決定
以下の方法で、aとbを決定する。ボーデの法則に従うなら最内3星の軌道半径が等間隔に並ぶ(a,a+b,a+2b)ことを利用して、これらの実際の軌道半径のデータから、直線へのフィット(一次回帰)からaとbを求める。そして、それを4番目以降(すなわちn≧2)に適用し比較する。まず、練習として、太陽系の惑星でこれをやってみると、以下のようになる。単位は、伝統にしたがって天文単位にとる。
水星、金星、地球の軌道半径データから、a=0.40、b=0.31 が求められる。(知られているボーデの法則の a=0.4、b=0.3 に近い値になった) 以下、次のような比較になる。天王星まではよく合っている。b=0.3のほうが外惑星にはよく一致する。4番目以降の星に対する一致は操作されたものではなく、この良い一致は、何か意味があるか、さもなければ、偶然と見なされねばならない。海王星の一致が悪いのは昔から指摘されていることであるが、これについては冒頭で引用した前作「『ボーデの法則』の見直し」をご覧いただきたい。
太陽系 |
n |
軌道半径 |
ボーデ計算 |
一致度(ずれ)(%) |
水星 |
-∞ |
0.3871 |
0.40 |
3.3 |
金星 |
0 |
0.7233 |
0.71 |
-1.8 |
地球 |
1 |
1.0000 |
1.02 |
2.0 |
火星 |
2 |
1.5237 |
1.64 |
7.6 |
ケレス |
3 |
2.7653 |
2.88 |
4.1 |
木星 |
4 |
5.2026 |
5.36 |
3.0 |
土星 |
5 |
9.5549 |
10.32 |
8.0 |
天王星 |
6 |
19.2185 |
20.24 |
5.3 |
海王星 |
7 |
30.1104 |
40.08 |
33.1 |
3.木星の衛星への適用
木星の大きい5衛星、アマルテア、イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストに適用すると、以下のようになる。以下、衛星については、親惑星の半径を距離の単位にとっている。ここで、単位の選択はまったく本質的ではない。ただ単に、aとbの単位として解釈すれば単位はなんでもよい。なかなかよく合っている。a=2.52,b=3.43となる。
木星系 |
n |
軌道半径 |
ボーデ計算 |
一致度(ずれ)(%) |
アマルテア |
-∞ |
2.536 |
2.52 |
-0.6 |
イオ |
0 |
5.900 |
5.95 |
0.8 |
エウロパ |
1 |
9.387 |
9.38 |
-0.1 |
ガニメデ |
2 |
14.972 |
16.24 |
8.5 |
カリスト |
3 |
26.334 |
29.96 |
13.8 |
4.土星の衛星への適用
ヤヌス、ミマス、エンケラドゥス、テティス、ディオーネ、レア、ティタン、ヒペリオン、イアペトゥス、フェーベとなんと10衛星もある。これでは、一致がよくない。(a=2.46,b=0.72)
土星系 |
n |
軌道半径 |
ボーデ計算 |
一致度(ずれ)(%) |
ヤヌス |
-∞ |
2.513 |
2.46 |
-2.1 |
ミマス |
0 |
3.078 |
3.18 |
3.3 |
エンケラドゥス |
1 |
3.949 |
3.90 |
-1.2 |
テティス |
2 |
4.889 |
5.34 |
9.2 |
ディオーネ |
3 |
6.262 |
8.22 |
31.3 |
レア |
4 |
8.745 |
13.98 |
59.9 |
ティタン |
5 |
20.274 |
25.50 |
25.8 |
ヒペリオン |
6 |
24.58 |
48.54 |
97.5 |
イアペトゥス |
7 |
59.09 |
94.62 |
60.1 |
フェーベ |
8 |
214.78 |
186.78 |
-13.0 |
|
|
ヤヌスを無視して、ミマスから始めると次のように多少改善するが、ディオーネより外側は全体的にあまり良い一致とはいえない。(a=3.07,b=0.91)なお、n=7に対応する衛星は存在しないので、そこはスキップした。
土星系 |
n |
軌道半径 |
ボーデ計算 |
一致度(ずれ)(%) |
ミマス |
-∞ |
3.078 |
3.07 |
-0.3 |
エンケラドゥス |
0 |
3.949 |
3.98 |
0.8 |
テティス |
1 |
4.889 |
4.89 |
0.0 |
ディオーネ |
2 |
6.262 |
6.71 |
7.2 |
レア |
3 |
8.745 |
10.35 |
18.4 |
ティタン |
4 |
20.274 |
17.63 |
-13.0 |
ヒペリオン |
5 |
24.58 |
32.19 |
31.0 |
イアペトゥス |
6 |
59.09 |
61.31 |
3.8 |
フェーベ |
8 |
214.78 |
236.03 |
9.9 |
5.天王星の衛星への適用
ミランダ、アリエル、ウンブリエル、チタニア、オベロンに適用すると、a=4.99,b=2.66となる。一致は悪くないだろう。
天王星系 |
n |
軌道半径 |
ボーデ計算 |
一致度(ずれ)(%) |
ミランダ |
-∞ |
5.078 |
4.99 |
-1.7 |
アリエル |
0 |
7.482 |
7.65 |
2.2 |
ウンブリエル |
1 |
10.406 |
10.31 |
-0.9 |
ティタニア |
2 |
17.052 |
15.63 |
-8.3 |
オベロン |
3 |
22.794 |
26.27 |
15.2 |
6.まとめ
衛星系にもボーデの法則を適用してみた。やり方からみてそれほど恣意性のない、公平なテストができたと思う。木星と天王星についての5衛星についてはまずまず成立しているように思われる。土星はあまり良い一致とはいえないが、衛星の数が多いことも考慮すべきかもしれない。ボーデの法則は、衛星系にもある程度は成り立っていて、惑星系にだけ見られる現象とはいえないのではないか。何らかの意味を秘めた法則として存在するようだが、偶然とまったく考えられないほど良い一致ではない、という控えめな結論にしておきたい。