シューメーカー・レビー第9彗星、木星に衝突
        −−観測結果の速報−−
                    1994年7月26日  
                     上原 貞治

 すでにご承知のように、シューメーカー・レビー第9彗星(SL9)が、7月
17日から22日にかけて、本星に衝突しました。ここでは、新聞・テレビ・コ
ンピュータネットワーク等で公表されている報告および私自身による観測をもと
にして、観測結果を中心にお知らせしたいと思います。

0.現象の概略
 SL9は、杓20個の「核」に分裂した状態で木星の周りを回っていましたが、
7月17日から22日にかけて、そのすべてが木星に衝突しました。衝突したと
ころは、地球から見て木星の裏側で、衝突の瞬間を地上から直接観察することは
できませんでした。しかし、裏側といっても、ほとんど側面というところで、角
度にしてほんの4度から9度くらい裏に回ったところでした。さらに、この衝突
場所は、木星の自転により、衝突後わずか10〜20分で、「表側」に回ってく
るところでした。衝突したところは、どの「核」についても木星面の緯度にして
南緯44度くらいで、比較的ベルトなどの模様のないどころでした。経度は、木
星の自転により、「核」によって違うところに街突しましたが、2つ以上の「核」
がたまたま近くに衝突するということが、結果的に多く起こりました。衝突した
「核」の直径は、様々ですが、1km前後と予想されていました。

1.衝突の瞬間
 衝突は、木星の裏側で起こったわけですが、一部で期待されていたような衝突
の瞬間の閃光は、地球からは観測されませんでした。衛星(イオとユーロパ)に
反射した閃光が、観測できるのではないかといわれていましたが、はっきりした
増光は観測されませんでした。K核(「核」には、アルファベットの名前が付け
られている)の衝突時には、衛星ユーロパが、木星の影にはいっており、かつ、
地球から見える好位置にあったのですが、増光は認められませんでした。どうも、
衝突の瞬間、衝突点が(木星の外から見て)極端に明るく輝いたというわけでは
なかったようです。木星探査機「ガリレオ」は、木星に行く途中でしたが、衝突
点を直接観測することができました。木星の明るさの4%程度の増光があったと
いいます。一部の予想にあったようなマイナス2等程度の閃光は、なかったよう
です。

2.キノコ雲の発光
 衝突の直後、彗星の「核」は、大爆発を起こし、彗星と木星のガスが一緒にな
った巨大なキノコ雲が発生しました。衝突のあった部分は、太陽の光の当たらな
い「木量の夜」のところでしたが、キノコ雲は、数千度から3万度という高温の
ため、自ら発光し地球から観測されました。衝突場所が、ほとんど「側面」であ
ったため、衝突地点の上空は、地球から見通せる範囲にすぐ入ってきました。そ
れで、キノコ雲は、衝突数分で地球から観測できましだ。ハッブル宇宙望遠鏡
(HST)の観測によると、可視光や紫外線でキノコ雲が観測されてします。ま
た、大きな「核」の場合は、地上の40cm程度の望遠鏡でも、眼視でキノコ雲
が観測できたようです。
 もっとも衝撃的だったのは、赤外線による観測でした。波長2μm程度の赤外
線は、通常、木星の大気で吸収され、木星は、赤外線で見るとかなり暗いのです
が、衝突直後のキノコ雲は、この波長の赤外線では、木量全体より明るく輝きま
した。赤外線の発生は、キノコ雲の熱によるものですが、このエネルギーは、予
想をはるかに(5倍程度?)上まわるものでした。この観測後、大きな「核」の
直経は、3km程度と発表されました。

3.衝突の痕(こん、または、あと)
 衝突点は、地球から見える状態になっても、まだしばらくは「木星の夜」でし
だが、その18分後に「木星の朝」を逮え、太陽の光で観測できるようになりま
した。そこで、観測されたのは、「あっ」と驚くような惨状でした。衝突点に、
かなり大きな黒い斑紋が残されていたのです。衝突のあとにこのような大きい黒
い斑紋が生じることは、事前にはほとんど予想されていませんでした。大きな
「核」の場合は、直径1万kmを越す(大赤斑の大きさに匹敵)、大きな、非常
に暗い斑紋ができ、10cm以下の小さな望遠鏡でも見えるほどでした。この点
では、小さな望遠鏡で見て認められるような変化は起こらない」という事前の
大方の予想は、完全にはずれました。衝突痕の形や構造さえ、私の観測(20c
mニュートン式反射による)で、簡単に認めることができました。
実は、衝突痕は、メタンバンド(特定の波長の可視光。メタンガスにより吸収
されるため、木星の背景光をカットできる)では、輝いて、白く観測てきると予
想されていました。確かににこれは予想通りでした。しかし、可視光で見て、黒く
見える原因は今のところはっきりしていません。
  この斑紋は、その後数日を経て、少し薄くなっだり、広がったりしていますが、
相当の期間残るといわれています。数百年残るという人もいます。あなたも望遠
鏡をのぞく機会があれば確かめてください。次ページに、日本時間における、衝
突痕が木星中央の経線を通過する特刻の表を掲げます(これは、IAUC6037に発
表された中野主一氏のデータをもとにしています)。実際には、木星面の中央よ
りかなり南よりのところ(南緯44度)に見えます。木星は、9時間55分くら
いの周期で自転していますので、この時刻の前後2時間くらいが観測好期です。
L,G+S+D,K+Wは、大きな斑紋で、H,Qがこれに次ぎます。他のもの
はよく見えないかもしれません。なお、ガリレオ衛星やその影が、しばしば木星
面を通過しますが、これは当分の間は木量の北半球を通過するので、衝突痕とま
ぎれることはないでしょう。8月も後半になると木星は、タ方でも西に低くなり、
今シーズンの終わりを迎えますので、早めに見てください。