「北斗寺」と「北斗岩」

                上原 貞治
 
 私が住んでいる茨城県つくば市には、北斗七星に関係する「名所」が2つあります。「北斗寺」と「北斗岩」です。
 これらは、北斗七星を見るのに良い場所だというわけではありません。北斗七星が信仰の対象になっていることを示す場所なのです。私は、昨年(2001年)の11月に北斗岩を訪れ、今年の正月元日に北斗寺を訪問しましたので、これらの紹介を書かせていただきます。
 

 北斗寺:

 北斗寺はつくば市栗原にあります(あとに交通案内を書きます)。私の自宅から自転車で行きました。栗原にはお寺が2つあったので、はじめは間違ってしまい、たどり着くのに少々手間取りました。
 そんなに大きくない何の変哲もないお寺です(写真1)。案内板(写真2)によりますと 平安時代初期の821年の建立だそうですが、現在の地で本堂が建てられたのは、江戸時代の前期のことだということです。境内には、特に北斗七星を思わせるような石碑や図柄は見あたりませんでした。
 そもそも、なぜ北斗七星が仏教のお寺と関係あるのか、という問題ですが、これは一筋縄ではいきません。このお寺の場合は、妙見菩薩を奉ったものであるということに発しているようです。妙見とはもともとは北極星(北辰)を神聖化した古代の信仰につながっています。また、これとは別に古代中国に北斗七星の信仰があり、北斗は人命を司ると考えられていました。また、北斗のおのおのの星が神格化され、戦争や勝負事の神様として崇拝されました。その後、北極星と北斗七星が混同され、妙見信仰と北斗信仰も融合し、「妙見寺」が「北斗寺」となったようです。 いずれにしても、星に関係あるものが、多くの人の崇拝を集めたということですが、実際の天体を拝んだという話はあまり聞きません。 ということで、この寺にも直接天体の北斗に関係するものはありません。「星曼陀羅(ほしまんだら)」の絵図があるそうですが、これは、惑星や二十八宿(古代中国の黄道星座)を図案化して描いた一種の観念的宇宙図です。
[写真1] 
[写真2]
 

 北斗岩:

 北斗岩は、筑波山の登山道にあります。筑波山の東側の山腹にある「つつじヶ丘」に発する登山道を女体山頂上(筑波山には男体山と女体山の二つの峰がある)に向けて登る途中にあります。丁度、登山道をふさぐように巨岩が2つ組合わさっており(写真3)、登山道の低い側に祠が建っています。人は、その山側を通って登山を続けます。
[写真3]
 特に解説のようなものは書いてありませんが、昔、弘法大師が「北斗の秘法」の修行をしたところだと伝えられています。「弘法大師がここで××をした」という言い伝えのあるところは、全国にあまたあり、多くは作り話だと考えられます。弘法大師は、中国から真言密教を持ち帰った際に、北斗の秘法なるものも持ち帰ったのでしょうか。それがどんなものかはわかりませんが、古代中国で北斗を神聖化したのち、その信仰によりいろいろな効果(たとえば勝負事に勝つとか)を得る方法が伝えられたのかもしれません。日本の中世には、戦に勝つために武士が北斗を信仰したといいます。
 よく見てみると、この岩は升を下にして柄を振り上げている北斗七星と形が似ています(イラスト)。北斗岩は、星座に似ていることから信仰を集めるようになったという、けっこう珍しい岩なのかもしれません。
 筑波山には、名前の付けられている巨岩・奇岩がいくつもあり、有名な「弁慶の七戻り」や「ガマ石」などに比べると、北斗岩はマイナーな方の部類に属するのでしょうが、実際の北斗七星に似ていることを見つけて以来、私にとって忘れられない岩となりました。
 

 交通案内:

 北斗寺は、つくば市の東部を南北に走る2本の道路、「学園東大通り」と「国道125号」の間にあります。土浦駅からバスが出ていると思いますが、あまり便利の良い場所ではないので、車を利用される方がよいでしょう。筑波大学の東側、あるいは、「テクノパーク桜」を経由してアクセスされるのがよいでしょう。
 北斗岩は、つつじヶ丘から女体山山頂までの登山道の途中の、やや山頂に近いところにあります。つつじヶ丘までは車で行けますが、登山道は徒歩だけです。北斗岩まで行くだけなら、いちどロープウェイで山頂まで行って下山する方が早いでしょう。いずれにしても坂が急なところがあるので、それなりの服装や靴で出かけることが必要です。土浦駅や東京駅から出ているバスを利用すれば、筑波山の麓のバス停まで行けます。ここから、徒歩でつつじヶ丘を経由して女体山山頂まで行けば、かなり本格的なハイキング+登山が味わえます。