編集後記
                       発刊部 上原 貞治
 
 私達は、双眼鏡や望遠鏡での観望であれ、天体写真の撮影であれ、天に天体を探していることになるが、地上に天体を探すことも可能である。そう「隕石探し」、そしてこれは、地上に落ちている隕石はいままで誰も隕石として認識していなかったことになるだろうから、「新天体捜索」に直結する。ここでは、私が体験した「隕石探し事件」について書く。前号の発行の直前のことで少し古いことになるがお許しを。
 
 今年の夏、2025年7月4日に、うちの近所(住所と同じ町内だが丁目が違う)の道路で真っ黒けの石を拾った。 写真は拾った直後に撮ったものである。本当に真っ黒で光沢もなくつや消し色である。少しひび割れ部分がめくれ上がっていて、内部を覗いて見ると内部は黒くなく土色をしているらしい。隕石の候補として持ち帰ることにした。周りを見回すと、この石は駐車場の整地のための砂利として運ばれたようにも見えるが、他に似た黒い石は一つもなく、他の石は割ってごりごり角張った普通の灰色の砂利である。この黒い石だけここに降ってきたことも十分考えられる。これは、つくばにある「地質標本館」で後日尋ねることにした。
 
 私の隕石調査は、これが生涯二度目である。一度めはすでに相当の過去で、1996年の「つくば隕石」が多数の破片になって落下したときのことであった。この時も地質標本館を設置する産総研の地質調査の研究所が一般向けに隕石採集を呼びかけていた。私は、その時も駐車場(2度ともつくば市の中心部のつくば駅から遠くないところだが、今回と前回は別の場所)で拾った黒い石を持っていったことがある。これは、隕石落下以前にはそこにはなかった石である。1996年の石は、金属光沢があり、磁石に感じたので鉄質と思われた。が、地質調査研究の専門家には、溶鉱炉などから出た「スラグ」であると鑑定された。なるほど、金属光沢とともに表面に無数の小さい穴が開いているようで、このあたりはあまり宇宙生成的ではない。しばらく保管したが、ただの大地から出てきて人工的に加工されたものなので、その後大地に返してしてやった。さて、今回、2025年の黒い石は、内部が薄茶色で石質である。自宅の磁石にも感じなかった。炭素コンドライトなら石質隕石よりもレアものである。

 

 幸い、8月23日に地質標本館で「地球なんでも相談」というイベントがあった。おもに子ども向けに、なんでも石や鉱物や化石を持って来てもらって研究者が鑑定する趣旨である。そちらに持っていった。当日の朝の開始後1時間後くらいに私の順番が回ってきたが、すでに見てもらった人待っている人を含めて20件くらい問い合わせが来ており、盛況で、私も何十分か待たされた。

   地質標本館(産総研・つくば)より

 さて、私のお待ちかねの黒い石の正体は・・・、というと、即座に「わからない」と言われた。専門家に即座に「わからない」と言われるのは一種爽快である。私も職業がら一般の人から科学知識を聞かれる機会があるが、この即座の結論「わからない」の爽快さから、この対応を見習いたいものだと思った。専門家でも新たな特徴のものは、わからないである。特に、こういう黒い色は見たことがないとおっしゃる。金属光沢がなく、つや消しスプレーのような顔料塗色にみえて粉を吹く印象だが、粉が手に付くわけでないし、黒い部分は一定の厚みがあるので、もちろん塗装とは異なる。また、石自体が凸凹していて、土をこねたような感じがしているのが黒い石には珍しいタイプであるとおっしゃる。隕石は指で押してくぼんだような凹みのなめらかな凸凹があるのが特徴であるが、この石はどちらかというと寄せ集めの凸凹であるが、角がすり減ったほどのなめらかさはない。
 
 ということで、どうにもわからず、隣の研究者にも回されたが、「わからない」という返答であった。臭いを嗅ぐと焦げたような臭いが残っているらしく、焼けたものには違いないが、スラグかもしれない。人工的に焼けたもので自然に焼けた隕石である可能性は低い、と言われた。私も受け取って臭いを嗅いでみたが、たしかに、工場の薬的な焦げ臭さがする。なんの臭いかはわからない。しかし、内部が石質で砂岩か土塊みたいに見えるので、なんでこんなものを人が焼くのかと問うと、私の質問は肯定も否定もされず、やはり、わからないということで、隕石説は完全否定はされなかった。とにかく、専門家がわからないことに価値が見いだされるということで、持ち帰って保管することにしたのである。こうやって、専門家のコメントも文章に残したので、これと現物をセットにしておこう。
 
 おかげさまで、今号も充実した内容で発行できました。ありがとうございます。来年もよろしくお願いいたします。

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