恒星間彗星の数についての考察
上原 貞治
1.やりたいこと
太陽系外から太陽系内にやってきたといわれる恒星間彗星、太陽系外彗星あるいは恒星間天体などと呼ばれるものが話題になっている。彗星だろうとは思うが、宇宙人の作った飛行体だという人もいる。そういうことに参考になりそうな考察をしてみた。ちょっとした計算が中心になる。
彗星の外観なのだから、他の恒星系から放出された彗星なのであろう。彗星は、炭素、窒素、水などを含むので、ビッグバンの直後には存在せず、一度は恒星の中で作られた物質だ。ということで、まずは、他の恒星系にオールトの雲のようなものがあって、そこからはじき出されたと考えるべきである。そこで、我らが太陽系で、
太陽系外からやってきた彗星数/太陽系から出て行った彗星数 = NX/NO
という比率を考える。ここで、NX、NOは、(地球の)1年当たりの個数としよう。それらは、天体の大きさや存在場所に依存するが、ここでは、太陽系の土星軌道より内側を通過して地球から観測できるものを考える。ここで重要なのは、太陽系から出ていく彗星は、土星や木星の引力で弾き飛ばされるのであるが、それらは、木星軌道より内側までいったん落ち込み、地球で観測される可能性のある近日点を通った後で放り出されるということである。また、太陽系外からの彗星数も地球から観測できるということで、土星軌道より内側を通るものに限る。こちらは双曲線軌道で太陽系を素通りすることになる。明るさによる違いや検出効率の違いはあるが、上記の比率においてはおおむねキャンセルするものと仮定しよう。どうせ、精度の高い計算にはならない。1桁程度間違ってもよいという計算である。
NX/NOの地球からの観測値は、NX=1〜0.1、NO=10〜100 とすると、
NX/NO〜0.01
くらいであろう。地球から観測される彗星のうちの半分くらいがオールトの雲から初めて落ちてきた彗星で、その半分が大惑星の影響で、放り出されるのだという。繰り返すが、1桁程度は間違ってもぜんぜんかまわないという計算である。以後、「〜」は、1桁制度の一致の推定を表す。
2.計算
今度は、計算で、太陽系外の彗星からどれほどの数の彗星が太陽系に飛んでくるものか計算してみよう。仮定として、銀河系内に太陽のような規模の惑星と彗星を連れた恒星がたくさんあって、そのそれぞれが、NOと同等の数の彗星数NO'を放出し(平均値である)、そのうち、我らの太陽系の内域(土星軌道より内側)を通過する総数NX'を計算する。この計算には、銀河系内のそのような恒星の密度ρが必要である。銀河系は密度一定の球体ではないが、計算を単純にするために恒星が密度一定で詰まった球体としよう。すると、計算式は、地球からの距離がrであるそれぞれの恒星についての総和になり、実際にはこの距離に依存した関数の密度の積分になる。
NX'=∫ NO' ρS/(4πr2)dV
ここで、Sは太陽系の土星軌道より内側の断面積で、
S=πaS2、(aSは、土星の公転軌道半径)であり、
dVは銀河系内の体積要素で、
dV=4πr2dr であり、積分は銀河系内での定積分で、太陽系からの距離rの積分範囲を0〜銀河系有効半径aG とすべきである。結果は、
NX'=πNO'ρaS2 aG
となる。銀河系内の太陽に匹敵する恒星数をNTとすると、
NT=(4/3π)aG3ρ の関係から、
NX'=(3/4)NO' NT (aS/aG)2
となる。
ここでザックリだが、NT=100億個、aS=10天文単位、aG=5万光年とすると、
1光年は約63200天文単位だから、
NX'/NO'≒0.75×10−7 〜10−7
となる。
NO'〜NOと仮定するなら、太陽系での観測値は、計算値と比べて5桁も大きい。
3.考察
5桁も合わないというのは、通常、観測誤差とか近似が悪いとか数値が不適切とかでは済まない問題である。また、太陽系外からの彗星の現実の観測数のほうが多いというのは、実際にソースを探さねばならない方向だから、自明には解決が付かない。彗星を多数持っている恒星があると仮定しても、全体で5桁の開きになると、完全否定はできないにしても、説得力のある説明は難しいだろう。都合のよい無茶な仮定を積み重ねても有益な議論にはなりそうにない。現役の恒星だけを考えたのが悪いことになりそうだが、ビッグバン以来の恒星を総動員したところで、宇宙の年齢というものがあるので、せいぜい1桁〜2桁しか稼げない。恒星間を飛行する彗星の速度を気にする人もいるかもしれないが、それは計算個数が減る方向だし、実際には、銀河系内の彗星は宇宙の寿命より短い10億年以内には太陽系に到達する計算になるので、これは話に影響しない。銀河系より外は考える必要はないだろう。外からの飛来は、銀河の重力や、到達時間から考えると非現実的なことになる。また、恒星間天体の中に宇宙人の乗り物が含まれているならば、銀河系の宇宙人は、太陽系から出ていく自然の彗星の何万倍以上もの数の恒星間飛行体を飛ばしていることになる。これも、宇宙人仮説以上に荒唐無稽な話になる。
なんとか折り合いが付きそうなのは、かつて太陽系の比較的近傍に巨星がいくつかあって、それらの恒星のオールトの雲に彗星がたくさんあり、その恒星本体は今は完全に吹っ飛んで消滅し(例えば超新星爆発)、太陽の近傍には恒星間彗星が多く存在しているという説明ではないか。観測された3個の恒星間彗星がいずれも太陽の銀河系内での固有速度よりは低速であること、また太陽近傍の恒星の相対速度が比較的低速であることが、そのような太古の近傍巨星の存在を肯定するものかもしれない。結論としては、あまり面白くないが、今後の恒星間彗星や太陽系近傍の星間雲などの観測の進展に期待したい。
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