2001年しし座流星群のビデオ撮影観測
 
                          上原 貞治
 
 2001年11月19日未明、しし座流星群の大出現が確認できたので、かねてより準備していたビデオ撮影観測をすることにした。この観測は、輻射点付近の流星をビデオで動画として撮影し、これから種々の測定をすることを目的としている。ここでは、輻射点の決定についての結果を報告する。
 
 装置:
 ビデオ撮影装置は、図1のような構成となっている。写真が銀河鉄道の前号にある。主要な部分は、I.I.付き単眼鏡である。I.I.とはイメージ・インテンシファイアーのことである。I.I.付き単眼鏡は、元々は軍事目的の暗視鏡として開発されたものであったが、近年では「ナイトスコープ」などの名前で商品として売り出されており、国産品で性能の良いものが出されている。国産品はかなり高価であるが、ここで使ったものは、ロシア製の廉価(国産品の1/10くらいの値段)なものである。基本的な仕組みは、対物レンズで集めた光をフォトカソードで電子の流れに変え、高電圧で電気的に増幅した後、蛍光板を使ってもう一度可視光に戻すというものである。この際、電子の流れる方向を制限して、もとの映像の通り蛍光面に結像するように工夫されている。この蛍光面を接眼レンズで拡大して眼視的に観察する。
 ビデオ撮影においては、接眼レンズをはずして、代わりに一眼レフ用標準レンズ(30年以上使っているニッコールレンズ。1972年の幻のジャコビニ流星雨の時にもニコマートに付けて使い、1998年のジャコビニ群の大出現でビデオ用とリベンジし、そして今回また、 という因縁モノである)を逆に置き、光量を稼いだ上で光を平行光線(つまり無限遠焦点)にしている。これによって、普通のビデオカメラ(ソニーハンディカム8mmビデオカメラ)で蛍光面を撮像可能とする。
 実視界は、約10度で中程度の望遠である。当日、このビデオで写った最も暗い恒星は7等星であった。
 この装置は、1998年に初めて組み立てられ、同年のジャコビニ流星群としし座流星群の観測にも使われた。

図1:撮影装置の概念図

 
撮影:
 つくば市吾妻の自宅ベランダにおいて、2001年11月19日02時10分から04時10分までの120分間に渡って、しし座の大鎌付近を連続撮影した。10分に一度程度手動で向きを変え、輻射点の近くにずっと向いているようにした。
 
データ解析:
 ビデオをモニタで観たところ、52個の流星が写っていることが確認された。これらの流星を出現時刻20分間ごとに6つの集団に分け、そのそれぞれについて輻射点の決定をした。輻射点を決定する方法は以下の通りである。明らかにしし座群流星でないものが2個含まれているが、これらは輻射点の決定に用いない。
 
(1)モニタで観た流星の経路を星図に手で写し、その後、星図上で、経路を逆に延長して2つの流星の組ごとに(総当たりで)交点を求める。 
 
(2)交点が集中している部分を目分量で求め、「輻射点の範囲」とする。
 
(3)「輻射点の範囲」内の交点の重心を目分量で求め、「輻射点の中心」とする。「輻射点の中心」は、「輻射点の範囲」の内部にあるが、その中心とは必ずしも一致しない。
 
 図2に結果の星図を示す。赤い矢印が流星の経路、濃い青の大きい円が「輻射点の範囲」、赤色の小さな円が「輻射点の中心」を示す。 この図は、手書きで(1)−(3)の処理をしたものをスキャナでパソコンに取り込み、それをドローイングソフトウェアを用いて手動でベクトル化したものである。
 「輻射点の範囲」の大きさが、ほんとうの輻射点の広がりを示しているものなのか、それとも測定誤差を反映しているものなのかはわからない。流星の経路が短いものが多く、輻射点の決定の精度はそれほど上がらなかった。「輻射点の中心」の決定精度は、赤経・赤緯のそれぞれで0.5度程度である。

図2:流星の経路と決定された輻射点
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(星図 Distant Suns より)
 
 輻射点の決定:
 時刻ごとの輻射点の中心の赤道座標(2000年分点の赤経・赤緯)を求めた。結果は表にまとめてある。ここで、天頂引力の補正(地球付近での地球重力による流星軌道の曲がりの補正。低高度ほど大きい。)と日周運動の補正(地球の自転による流星の飛来方向の見かけ上の変化)を施した。補正量は0.4度程度であるが、時刻の違いによる変化は小さく、輻射点の移動を見る際にはこの補正はそれほど重要ではない。これは、しし座流星群の対地速度がおよそ秒速70kmとたいへん速いことによる。
 
表: 時刻ごとに決定されたしし座流星群の輻射点の中心
















 

時刻
11/19JST

 赤経(度)
 2000.0

 赤緯(度)
 2000.0

2:10 - 2:30

 154.4

  +21.5

2:30 - 2:50

 154.8

  +21.2

2:50 - 3:10

 154.4

  +21.1

3:10 - 3:30

 154.8

  +21.3

3:30 - 3:50

 154.6

  +21.0

3:50 - 4:10
 

 155.0
 

  +21.3
 















 
 
 
 結果と考察:
 今回の大出現時の輻射点は、従来のしし座流星群のよく知られている輻射点より1度以上東に寄っており、ししの大鎌の境界(ししの首?)に近いところにあったことがわかった。また、時刻ごとの輻射点のはっきりとした移動は確認できなかった。0.5度を大きく超えるような輻射点の移動は無かったようである。
 輻射点が東寄りであるのは、今回の出現がしし座流星群の活動期間の終わりの方で起こったため、地球の公転の方向が多少変わったことで、ある程度説明できる。そのほかに、ダストトレイルごとの輻射点の微妙な方向の差による効果もあるかもしれない。アッシャーらは、ダストトレイルごとの輻射点を計算しているらしいが、その計算結果は入手していないのでわからない。1699年放出と1833年放出(マクノートとアッシャーの予報では、それぞれ、2時31分と3時19分に極大)の2つのダストトレイルが観測時間内に活動していたはずであるが、これらの輻射点の違いは検出できなかった。
 
 同時出現の流星について:
 眼視観測の項でも触れたが、ビデオにも3個同時出現の流星が写っていた(タイトルページの写真)。ビデオを繰り返し動画で見ても、出現時刻は全く同時である(たぶん0.1秒以内)。この3つの流星は、発光時の高度を70kmとするとその時2〜3km程度互いに離れていたことになる。
 
 感想:
 望遠で撮影したが、輻射点に近いため流星の経路が短く、方向を決めるのに苦労した。停止流星が写るのではと期待したが、まったく移動が認められないような停止流星は1個も確認できなかった。
 ビデオ撮影観測は、撮影中は、たまにカメラの向きを修正する以外は放っておいてよく、また、映像を液晶モニタで確認できるので撮影に失敗する心配もない。非常に気楽である。しかし、あとでモニタを見るときは、流星が写っているのを見逃さないようにずっと慎重に見つめていないといけないし、流星らしいものが見えれば巻き戻していちいち再確認しないといけない。また、モニタの画面を見るのは実際の星空を見るよりよほど疲れる。
ビデオからどのような情報を得るか、十分な動機付けをしておかないと、実際の解析はなかなか苦しいものになると感じた。
 今後、できれば、光度分布についても解析をしてみたい。暗い流星は、写っていても見逃しているものがあると思う。
 
おまけ:
 最後にビデオに写っていたいちばん明るい流星をお見せする(図3)。目で見た記憶がないので、何等かわからない。マイナス5等くらいだろうか。ゴーストが出ている。 たぶん、I.Iの光学部分の鏡筒から出たものであろう。

図3:たいへん明るい流星