2001年しし座流星群の眼視計数観測
                          上原 貞治
はじめに
 2001年のしし座流星群の注目点は、「はたしてダストトレイル理論による予報が当たるか?」ということに集中した。すでに、1998年2月の母彗星テンペル・タットル彗星の近日点通過からは、4年近くが経過している。普通に考えると、大規模な出現はもはや期待できない状況であった。しかし、ダストトレイル理論は、流星物質が何本かのひも状の狭い領域に集まっていることを予言する。そして、マクノートとアッシャーの予報によると、11月19日の午前2時31分と3時19分(日本時間、以下同様)に、地球がこのひもの中心付近を通過することになっていたのである。アッシャーらの予報は、1999年、2000年と2年続けて、ヨーロッパでの出現の状況を的中させている。流星群の大出現を期待する人は、この予報が3たび当たることを信じ、11月19日の2時〜4時に観測をする計画を立てることになった。
  2度ならまぐれ当たりもあるだろうが、3度当たればこれは予報の計算法が正しいことを意味する。しかし、はずれた場合はどうなるのだろうか。2001年のしし座流星群の極大時刻はいつでどの程度の出現規模になるかは、全くわからない状況となる。私は、アッシャーらの予報が当たるとは信じていなかったので、真の極大時刻と規模を確かめるべく、前夜から観測を開始することにした。
 
観測法
 いつ極大になるかわからないので、同じ場所(自宅の南側のベランダ)から、同じ時間(5分間)だけ空を眺め、その間に(私1人で)いくつ流星が見られるかを数えた。ベランダからとはいえ、身を乗り出して観測したので、80%以上の視界は確保できた。
 この5分間の観測を、11月18日未明と19日未明に何度も繰り返した。18日はしばしば雲が多かったものの、空は澄んでおり5等星くらいまで見えた。19日は快晴であったが、多少透明度が落ち、細微星は4〜5等であった。
 
 
11月18日未明の観測
 アッシャーらの予報がはずれるにしても、この日に大出現する可能性は低いだろうと思い、フルタイムには観測しなかった。天気もあまりよくなく、一応「晴れ」ではあったが、視界の半分程度を雲が覆っている場合が多かった。1時47分から5時33分までの間、5分間の観測を10回繰り返した。合計50分の間に、4個のしし座群流星が見られた。うち、10分間は、すでに薄明の空がかなり明るくなっていたがこの間には流星は1個も見られなかった。多少の活動は見られたものの「並のレベル」の出現であった。
 
11月19日未明の観測
 翌19日は、同様の観測を1時15分から開始した。この日は天候に恵まれた。最初の(1時15分からの)観測では、雲がわずかにあったが、1時25分以降、夜明けまで雲が全くない快晴となった。南東の中天、うみへび座頭部付近を中心とした視界内を見張った。4等星は楽に確認できた。以後の観測における1分間あたりの流星数をグラフにまとめた(下の図)。観測時間は、すべて5分(実は1時56分開始の観測だけ間違えて4分)であるが、1分あたりの個数に直してある。 2時42分の観測だけ、近くの公園に移動して行った。公園はベランダと違って天頂付近が観測可能であるが、1人で1度に見られる視界に大きな差があるわけではないので、グラフに同じようにプロットした。
 流星群の勢いが衰えるまで観測を続けるつもりだったが、空が明るくなり始めても、まだかなりの出現が続いていた。
 


極大時刻
 図を一見してわかるように、しし座流星群の出現のピークは、19日の 3時20〜35分であった。アッシャーらの予報は、15分以内の精度で当たっていたようである。一方、2時台に特に極大は見られないようである。なめらかに増加しているように見える。出現の後半の3時30分以降、出現数に増減の波があったように見える。しかし、統計的に有意なレベルではない。統計誤差は、5個/分の場合で20%(つまり1個/分)である。
 
同時に出現の流星
 2個ないし3個の流星が全く同時に(目で見る限りの精度で)空の比較的狭い領域(数度から10度くらいの範囲)に出現するという現象が何回か見られた。出現数の少なかった18日にも出現したことからして(4個のうちの2個!)、偶然の時間の一致とは考えられない。流星間の距離から考えて、大気圏に入ってから分裂したものとは考えにくく、宇宙空間にあるうちから、何らかの関係があって、並行して飛んでいたものと思われる。多数の流星が同時に流れたことを木下正雄氏が1997年にハワイでのしし座流星群のビデオ観測で見つけているが、これと同じ理由による現象かどうかはわからない。私のビデオ観測でも3個同時の流星が写っている(ビデオ観測の項を参照)。
 
感想、その他
 11月19日は、最初の5分間で5個、次の5分間で7個の流星が見られ、「今夜は来る」ということが確信された。極大付近の時刻では、暗い流星が増えると聞いていた。確かに暗い流星も多かったが、明るい流星もけっこう出現しており、比率として大きな変化は無かったように思う。前日の朝から夕方にかけては、晴れたり曇ったりの天気であったが、ここいちばんで天候に恵まれたことはたいへんな幸運であった。もっと空の暗いところに出かけていたら、とも思うが、約4時間に渡って系統的に観測を続けることができ、その上、大出現も見ることができたので、たいへん満足している。有り難いことであった。