数物系7神コンテンツ

田中邦明  

 今回の記事が「星」からズレてしまって感想文になってしまったことは、いささか申し訳ない思いですが、田中は、ゆる〜い天文ファン「ゆる天」だから仕方ないと、お許しください。

NHKスペシャル 数学シリーズ3作

  最近、NHKで3つの特徴的な番組が放送されました。
・「数学者はキノコ狩りの夢を見る ポアンカレ予想・100年の格闘」
・「素数の魔力に囚(とら)われた人々 リーマン予想・天才たちの150年の闘い」
・「数学者は宇宙をつなげるか abc予想証明をめぐる数奇な物語」の3本です。


 『ポアンカレ予想・100年の格闘』は2007年の再放送、『リーマン予想・天才たちの150年の闘い』は2009年の再放送コンテンツでした。『abc予想証明をめぐる数奇な物語』は、新たに制作され今年放送されました。

 ここで、ポアンカレ予想、リーマン予想、abc予想について、(私は)解説したりする力は持ち得ないので、専門的な解説を知りたい方はネット検索等で適切なコンテンツを見つけてください。

 このNHKの3本のコンテンツは、数式や専門用語を極力減らし、これらの3予想を、実に分かりやすく、かみ砕いて動画を作り、解説しています。また、その予想を証明するために難解なテーマに取り組んできた多くの数学者の生き様をコンパクトにまとめています。

 私は、この3本のコンテンツを録画・再生して見ている間に、ふと気づいたことがあります。それはメインテーマのほかに、サブテーマとして「数学、物理学の枠を越えると新たな世界が見えてくる」ことを暗示しようと考えたのではないかということです。

 「数学者はキノコ狩りの夢を見る」、「素数の魔力に囚われた人々」、「数学者は宇宙をつなげるか」の題名からわかるように、「数学者」の生き様をメインテーマとして一般向けコンテンツを構成しています。

 一方で、各予想の証明の重要な部分に物理学との関係があり、物理学や数学といった専門分野の壁を越えて、融合的な発想を持てば、新たな可能性が生まれることを表現したかったのではないかとも考えています。

 「ポアンカレ予想」の解説では、物理分野の解説は行っていないが、視聴者への説明では宇宙空間へロープをつないだロケットを飛ばし、宇宙の形を想像させる解説を行っています。

 「リーマン予想」の解説では、フリーマン・ダイソン氏が登場し、ウランなどの重い原子核のエネルギーレベルに係る数式と素数に関係がありそうだと説明しています。数学と物理学には共通の何かがあると認識させられます。

 「abc予想証明をめぐる数奇な物語」で取り上げた望月新一氏の(査読を終え専門誌掲載が決まったにも係わらず賛否両輪が続いている)「宇宙際タイヒミューラー理論」の解説では、ふたつの宇宙が登場します。望月氏の理論に反論する学者に「一つの宇宙の2が、他方の宇宙の4に対応する。その4とは別の4が、元の宇宙に存在する。じゃあ元の宇宙と他方の宇宙の4は、どう区別するのか?」と語らせています。その画面を見ながら思ったのは、物理学者なら「最初の宇宙の4は青色で、もう一つの宇宙の4は赤色です」と答えそうな気がしました。


NHKスペシャル 神の数式

 足かけ16年に及ぶ数学シリーズですが、3本とも語りは小倉久寛氏でした。NHKのプレミアムカフェでは渡邉アナウンサー、(黒木アナウンサー、久野木アナウンサー)が、「数学シリーズ」と語っていましたが、私にとっては、小倉久寛氏の語りとして直ぐに思い出す、NHKスペシャル「神の数式 第1回〜第4回」の4本とともに「数物系7神コンテンツ」となっています。(もちろん全て録画済みです。)

 NHKスペシャル「神の数式」は、「第1回この世は何からできているのか」、「第2回宇宙はなぜ生まれたのか」、「第3回宇宙はなぜ始まったのか」、「第4回異次元宇宙は存在するか」の4本構成ですが、上原氏の専門分野である素粒子から、宇宙の果て(何処が果て?)、ブラックホールの底までを取り上げた面白いコンテンツでした。

 多くの興味をそそられるコンテンツを含んでいましたが、中でも超弦理論を唱えたシャーク氏とシュワルツ氏、完全数496が計算の過程で登場する場面などは強く印象に残りました。さらに、南部陽一郎氏の対称性の破れや超弦理論において摩擦熱の発想が生まれるなど、物理学者の発想は、やはり一味も二味も違うなあと感じざるを得ませんでした。


NHK特集、NHKスペシャル 大紀行シリーズ

 ここまでは、ハードディスクにデジタル録画したコンテンツですが、ここからは、VHSテープに録画し、再生に難が出始めているコンテンツです。

 今から35年前、1987年1月から始まったNHK特集 「地球大紀行」は、毎月1回の放送で、第1集から第12集までの1年を通じた超大作でした。新鮮なコンテンツで、地学の教科書には載らない濃い内容でした。「水の惑星・奇跡の旅立ち」、「引き裂かれる大地、残されていた原始の海」、「奇岩にひそむ大気の謎」、「巨大山脈の誕生」、「巨木の森・大地を覆う」、「恐竜の谷の大異変」、「氷河期襲来」、「移動する大砂漠」、「資源を産んだマグマ噴出」、「多重バリアーが守る生命の星」と、私たちが常識として知っておかなくてはならない内容が多く含まれていました。似非科学や危機意識だけをあおるメディアに騙されないように身につけておくべきコンテンツであったと記憶しています。コンテンツの中で流れていた音楽も新しい感覚で、ハル高内氏の曲でした。ハル高内氏は松坂慶子さんの旦那らしいのですが、松坂慶子のファンだった私はチョット複雑な思いでしたが、まあ大して関係ないことでした。

 その後、干支が一周して、21世紀を迎え、NHKスペシャル「宇宙 未知への大紀行」が放送されました。2001年4月から9回シリーズで、「ふりそそぐ彗星が生命を育む」、「地球外生命を探せ」、「火星へのはるかな旅」、「惑星改造〜もうひとつの地球が生まれる」、「150億年の遺産〜生命に刻まれた星の生と死」、「もうひとつの地球を探せ」、「ブラックホール〜銀河を揺るがす謎の天体」、「宇宙に終わりはあるのか」、「宇宙は生命に満ちているか」と、21世紀になったことを意識してのことか、発見や新たな事実よりも、これからの宇宙計画のコンテツが多かったのも印象的でした。音楽担当は東儀秀樹氏であり、こちらは癒やし系でありながら斬新さを感じました。


NHK理数系科学番組

 NHKの受信料は高いなあと思いながら、偶に好奇心をかき立てられるコンテンツが登場するので、NHKとの契約解除に踏み切れないですが、こういった番組が放送されなくなったら、そのときは、いよいよNHKの受信機を搭載していないTVに買い換えるときかも知れないです。

あれ!偏っている?

 十数年前から、仕事上、発達障害や高機能アスペルガー等、人の脳の特性について学ぶことが増えましたが、知れば知るほど、どうやら自分の脳もかなり偏った興味を示しているのかも知れないと思うことが増えてきました。
 例えば、高校時代にオイラーの公式  
 oiler
 を見て、なんと美しく整理できるのか、と感激した自分は少しズレているらしいのです。普通は数式に美しさは感じないらしいのです。
 え〜そんなこと今更言われても、と困ってしまいましたが、思い当たる節は多くあります。
 麻雀をしていても、確率的に極めて希な場面に出くわすと、普通は「いかさま」ではないかと考えるらしいのですが、私は、その偶然の美しさに見入ってしまいます。
 月を撮影していても、月面に鳥がふわりと浮いている景色を見る偶然や、反射望遠鏡の鏡面に結露が生じて結像時に月面には存在しない巨大なクレーターに見える偶然の方が、より魅力を感じて惹かれるのです。

 約65年偏ったまま生きてきましたので、今更、どうにもなりませんが、おそらく西中筋天文同好会メンバーの皆さんの多くも、類は友を呼んだのではないかなと強く感じています。(違っていたらゴメンナサイ)
 
   2022年 卯月


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