編集後記
              上原 貞治
 
 またしても面白くない時事問題で、あまり書きたくないのであるが、逃げるのもよくないので書くことにする。言うまでもなく、ロシアのウクライナ侵攻である。私は、これまで、ロシアの文化に親しみを持ち、ロシアの人には仕事でお世話になり、さらにプーチンの政治家としての手腕と実力を高く評価していたので、ますます面白くないことである。なお、仕事では、ウクライナ人にもソ連時代のウクライナ出身のロシア人にもお世話になった。ますます、ますます、面白くない。以下、ここに書くのは、すべて私見であり私憤であるが、僭越ながら文化や科学技術を築き上げる努力をされている人たちへの応援のつもりである。
 
 今回の理不尽な侵攻によって、世界じゅうの人々の政治家プーチンへの信頼が地に落ちたものと思う。しかし、これによっても、ロシアの文化やロシア人の優秀さや性格や人情への評価はなんら変わるべきものではないので、地に落ちるのはロシアの現政権だけということにしていただきたい。
 
 そもそも、文化、科学、スポーツといったものは、お国柄はあるにしても、そもそも政治とは無関係で、それは人類全体の財産のはずである。だから、世界の一部で戦争が始まっても、人類全体の財産保全の観点からそれを諫める世の中であるべきなのだが、現状はそうはなっていない。それどころか、政治の加重が増して、へたをすると数十年前よりも文化水準が後退している感じである。プーチン憎けりゃロシア文化もロシア代表スポーツチームも排除という方向に動いている。また、有事だから文化活動の後退もやむを得ないという雰囲気になっている。主客転倒というのはこのことである。これは、現今、どこの国でも、政治が文化を支配しつつあるからであろう。これは、専制主義、共産主義、資本主義を問わず大問題である。政府の権力が肥大しすぎているのである。逆にいえば、各国民が経済活動が出来るのを国のおかげと勘違いし、さらに何でもかんでも政府に支えてもらうことを期待し過ぎているからとも言えそうだ。
 
 実際は、国家や政治は、我々人類全体が築いた文化や科学の上に乗っかってそれを運用しているだけである。そこで使われるすべてのお金やものについても、結局はすべて世界の市民(労働者)が働いて生産したものを売った利益を貯め込んだ結果である。日本のような資源に乏しい国の経済を支えているのは、詰まるところ、文化と科学技術に基づく生産物である。こういう時こそ、我々は、文化、科学、スポーツといったものを、意地でも国家から切り離して考えるようにしなければならないと思う。政治家を持ち上げすぎてはいけない。そもそも、プーチンはこれまで長きにわたって世界でも能力にたけた国家指導者として讃えられていたではないか。それがこの最悪の事態である。政治家を持ち上げることによって、政治家はとんでもない勘違いをして、市民の生活や文化活動を見下し、平気で戦争を起こすことにつながっていると考える。
 
 今回のロシア政権の暴挙について、こういう見方をしている人は少ないように思うので、敢えて書いた次第である。このままでは、人類が営々と築き上げてきた文化や科学がおしなべて無能な政治家によって烏有に帰すことであろう。今すぐどうにかなるものとは思わないが、良い方向に向かわせるためには、世界の人々が日頃からこのように(政治を文化その他、生産活動の上位に置かぬように)世の中の見方・考え方をするよう改めないといけないと思う。もちろん、これには、文化や科学ではそれに携わる人が自由に力を発揮するのがその発展にベストであるのに対し、政治は政治家の私利私欲で進めては絶対にうまくいかないという困難があるのはその通りだが、そんなことは小学生の知識で最初から百も承知のことである。これに照らして、現在、政治に関わっている人たちは、速やかに己のやるべきことを再考し、あるいは無力と無能を反省し、勘違いをしていた政治家は直ちに退陣していただきたいものである。
 

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