星の歌曲(第2回)「冬の星座」
                         上原 貞治
 
 今回第2回は「冬の星座」(作詞 堀内敬三、作曲 ウィリアム・S・ヘイズ)である。これはこの連載の3曲に共通することであるが、作曲者はアメリカ人で、原曲にも英語の歌詞がついている。しかし、中学などの音楽の教科書に載せられた日本語の歌詞は英語の歌詞とはまったく違う内容で、訳詞ではなく作詞ということになる。
 
 まず、日本語の歌詞を引用する。
 
 木枯らしとだえて さゆる空より
 地上に降りしく 奇しき光よ
 ものみないこえる しじまの中に
 きらめき揺れつつ 星座はめぐる
 
 ほのぼの明かりて 流るる銀河
 オリオン舞い立ち すばるはさざめく
 無窮をゆびさす 北斗の針と
 きらめき揺れつつ 星座はめぐる
 
 堀内敬三(1897-1983)の著作権はまだ切れていないと思われるが、この歌詞は1947年に国定教科書に発表されたものなので、引用に問題はあるまい。2行目の「奇しき」は「くすしき」と読む。堀内は、理工系の出身で、実業もしていたが、途中から音楽のプロに転向した。『音楽之友』の創刊者であり、NHKや文部省関係の仕事が多い。この「冬の星座」もその一環と言えるだろう。堀内は、子どもの時に童謡作曲家の大家であった田村虎蔵のから直接指導を受けたことがあり、在学中に音楽を愛好していたそうで、それで教育に役立つ音楽を目指すことになったのかもしれない。
 
 原曲を作ったヘイズ(William Shakespeare Hays, 1837-1907)は、アメリカ合衆国ケンタッキー州の生まれでフォークソングの元祖の一人である。わかりやすく言えば、第二のフォスターと言ってもいいだろう。詩人でもあったが、ミドルネームの「シェイクスピア」は恥ずかしがってあまり使わなかったという。「冬の星座」の原曲になった曲は、"Mollie Darling"で、英語の作詞もヘイズによる。これは、日本でも「愛しのモーリー」の訳名で知られている(日本語訳詞の存在については知らない)平明な英語のラブソングで、恋人に語りかけるような軽いポピュラーミュージックとして唱われる。1872年に発表され、アメリカで多くの人に親しまれたという。英詩では冬の星座は描写されないが、2番の歌詞に、星と月が出てくる。堀内もここからヒントを得ることはあったろう。他のヘイズの曲として、日本では「故郷の廃家」(My Dear Old Sunny Home(1871)、幾年ふるさと来てみれば・・・ 犬童球渓 訳詞)もよく知られている。
 
 最後になったが、歌詞の分析である。題名はそのものずばりの天文楽曲「冬の星座」であるが、出てくる冬の星座は、正確には「オリオン座」だけである。すばるは星座ではなくおうし座の一部であるし、北斗七星はおおぐま座の一部で、しかもおおぐま座は、普通冬の星座とはされない(春の星座である)。「冬の星座」の「教育」としてあまり適切とは言えないだろう。
 しかし、オリオンが「舞い立ち」、すばるが「さざめく」というのは、動きのあるすぐれた描写である。それに加え、真冬において春を告げる北斗が指極星を先頭にすでに北東の低空に屹立していること、星座が「きらめき揺れつつ」「めぐる」ことは、星々は静止しているのではなく時間とともに変化しているという着目が一貫している。これが、堀内のオリジナルの視点であり描写なのか、他から何らかの影響を受けたものなのか気になるが、今回はこれを解くことを問題にせず、ただ特異な傑出した特徴として指摘するに留めたい。
 
  次回は、ダーナ・シンドラー作曲・スペイン曲、古関吉雄作詞の「追憶」を取り上げます。



今号表紙に戻る