編集後記
発刊部 上原
 
  ゴールデンウィークだというのに、世の中新型コロナのための自粛一色である。そんな話題は面白くもなんともないので、ここでは、疫病と天文との関わりの話をしたい。
 
 現在の長期の休校に関連して、17世紀のペストの流行時にイギリスの大学が休校になり、その休暇中に学生ニュートンが万有引力の法則や微積分学のための決定的な研究を進められたことが話題になっていた。だから、今の学生さんもこの期に学問をせよというわけである。今の学生さんに外部雑音を断っての研究ができるかどうかはさておき、17世紀のヨーロッパは幾度もペストが流行った時代であった。イタリアにいたガリレオも影響を受けたらしい。ブレヒトの戯曲「ガリレオの生涯」では、ガリレオがペストが蔓延した市街に地動説の研究を優先するため、疎開のための馬車が迎えに来たのにわがままを言って留まるシーンが出てくる。ブレヒトは20世紀のドイツの作家なので、これが史実かどうかは私は知らないが、ガリレオがペストにも人間の誘いにも屈せずに、ひたすら自身のために研究を続けたことは事実なのであろう。科学者はこうあってほしいという作家の願いなのであろう。確かに、ガリレオは現代的な意味での科学者の嚆矢となった人であった。
 
 なお、17世紀のヨーロッパでペストが流行したのは、この時期、太陽活動が極端に低下していて、そのために気候の寒冷化がおこったためである、それによって近代科学が誕生した、というのは太陽物理学者の桜井邦朋氏の説である。
 
 また、昔のヨーロッパには、空に出現した彗星のしっぽから疫病の元となる毒気が地上に撒かれるという説があった。荒唐無稽な迷信のようであるが、現代では、地球上の初期の原始生物は宇宙を飛んできた隕石に載って地球にやって来たという科学的な学説もあるくらいなので、一概に馬鹿にしたものではない。
 
 以上の話から何らかの教訓を引き出したいわけではないが、今回の新型コロナの騒動も現代特有の事象というわけではなく、歴史の中で相対化して見ることが必要であろう。おそらく、過去にも何度も「新型コロナ(今回のとは別種としても)の大流行」はあったに違いない。
 
 
 我らが同好会誌「銀河鉄道」は、今号が通巻111号に当たる。もちろん、同じ数字が3つ並ぶのは初めてである。いわば「銀河鉄道スリーワン」である。長年の執筆者、読者の方々に感謝するとともに、今後もできるだけ長く発行を続けたいと思っている。
 


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