流星群はどのように観察するか
上原 貞治
 
  流星群の観察方法が初心者向けに紹介されることは昔も今も盛んである。特に最近はテレビやラジオのニュースやネットで目(や耳)にすることが多い。その多くは、国立天文台からの情報に基づいていて、まずは信頼してよいと考えるが、科学のことは何事も自分で考えて確かめてみることが大事だから、私もちょっと考察してみた。
 
 国立天文台などが紹介する流星群の観察法は、「いつ、どちらの方向に注目するか」ということである。「いつ」というのは、観測好機のことであるが、それはどういう原理原則で決まるのか。また、「どちらの方向」という質問には、最近は「空のどこを見てもよい」ということに毎度なっている。これはどういうことか。天文ファンあるいは流星群についてある程度詳しい方は、それぞれの流星群には「輻射点」あるいは「放射点」というもの(どちらも同じ意味である)があって、それは星座の決まった方向にあり、そこから流星が放射状に飛んでくることをご存じであろう。それにもかかわらず「空のどこを見てもよい」とはどういうことか。「どこを見ても同じ」ということでないようだが、どういう意味だろうか。
 
 以下は、一般向けの解説であり、専門的な観測理論ではないので、ご留意お願いしたい。
 
1.流星群はいつ見るか
  個々の流星群の観察はいつすればよいだろうか。流星群には最も多く出現する極大日時というのがあり予報が出ている。その極大日の極大時刻に観測するのが良いと考えられるが、実は、それよりも重要な条件がある。まず、暗い夜であること。昼や薄明中はだめなのは当然だが、明るい月が出ていない方が圧倒的によい。(もちろん、天気がよくないといけないがここでは天気は除外する)しかし、それよりもさらに重要なことがある。それは、「輻射点」が空に昇っていることである。輻射点が昇っていないと流星群はまったく見えない。
 

図1:地球(実線の円)に降ってくる流星群(矢印)。破線の円は、流星が出現する大気圏の上層部。
 
 図1を見てほしい。流星群の流星(光り出す前は流星物質という)は、宇宙から束になって、まっすぐ平行に飛んでくる。この飛んでくる元の空の方向が輻射点である。これが空に昇っていないと場所では、流星群の束が地球に遮られてその地の空にやってこないとことになる。流星が光る場所は、流星物質が地球の大気圏に入ったあたりで、だいたい地上100kmくらいの高さであるという。100kmというのは地球の直径 12700kmと比べるとかなり低い。だから、図で感じられるように(図でも大気圏の高さは本当の比率よりかなり高く描いてある)、流星群が見られるか見られないかは、観測地の空に輻射点が昇っているかいないかでかなりくっきりと決まることがわかるだろう。
 それでは、輻射点の高度の影響はまったくないのであろうか? 輻射点が空に昇ってさえいたら、地平線ギリギリであっても天頂であっても同じだろうか? これは、図の矢印を太陽光線と置き換えて考えてみるとよい。流星群でも太陽光線でも、天頂近くから降ってくるときが地平に近いところから来るより断然強力である。いわゆる日差し強度の角度効果である。太陽電池パネルの効率のように幾何学的に考えれば、これは高度の正弦関数(sin関数)となる。流星群の場合は、地球大気の上面(高度100km)に地面に平行に適当な面積のパネルが置いてあると考えればよい(後出の図2参照)。表1に見るように、sin30°=0.5、 sin20°=0.34くらいだから、最大出力の1/3を要求するならば、輻射点高度は20°くらいはほしいところである。また、輻射点高度が30°より高ければ、50%以上の効率が得られて一応満足できるので、90°に近いことにそれほどこだわることはないことがわかる。
 
 
 表1:輻射点の高度と流星群の出現強度との関係。天頂に輻射点がある場合を1とすると輻射点の高度(°)流星群の出現係数正弦関数になる。
輻射点の高度(°) 流星群の出現係数
0 0.000
10 0.174
20 0.342
30 0.500
40 0.643
50 0.766
60 0.866
70 0.940
80 0.985
90 1.000
 
 
 図1のまっすぐな線を見て、重力の影響はないのかなと疑う人がいるだろう。でも、一応ここでは、重力の影響は無視できるくらい小さい、ということにしておこう。流星が飛んでいるのが見える時間は、せいぜい1秒くらいである。流星の速さは、たとえば秒速50kmくらいである。本当は、流星群によって、10km/秒〜80km/秒と様々であるが、おおむねとても速い。1秒間で重力の影響(重力加速度)で「落ちる」距離は、わずか5mである。流星の光路の長さに比べてとても小さいので完全に無視できる。ただし、「一応ここでは」と断ったのは、光っている1秒間だけを考えたからである。光る前の地球に近づいてくる時間まで入れると数分間くらいを考えないといけないので、重力の影響がまったくないわけではない。でも、いずれにしても小さな効果なので、とりあえず放っておいて後回しにする(最後の「おまけ」で議論する)。
 
2.流星群の観察は方角によらないのか
 これが、今回のメインの問題である。答えを先に言うと、「まったく方角によらないということはないが、流星の出現数は方角によらない」ということである。ここで、「方角」というのは、ある観測地における東西南北の方向の違いのことである。
 

図2:地球大気圏上層部における流星群の出現の区画と出現点の分布のイメージ。円弧が地球。四角の区画は高度100kmにある。
 
 流星の出現場所と出現数を考えよう。図2は、地球の上空、高度約200kmから見下ろした図で、四角い枠は高度100kmの平面(正確には地球が丸いので球面だが)でたとえば200km四方になっていると見てほしい。流星がこの高度100kmの面に突入するときの分布は、ほぼ一様である。流星群の空間分布にそんなに細かいムラはないからである。
 
 というのは、流星群出現のピークの継続時間を考えればわかる。流星群のピークは、短く見積もっても30分や1時間は継続する。地球の公転速度は秒速30kmだから、地球全体が1時間で10万kmくらい移動する(自転速度は公転よりずっと遅く、日本付近では400m/sくらいで無視できる)ので、流星群の束の太さは5万〜10万km以上あることになる。直径12700kmの地球よりもかなり大きい。従って、200km四方程度の範囲では、一様な絨毯爆撃となると考えて良い。このときに流星の飛んでいく方向まで考えると無駄に話がややこしくなって騙されるが、単に高度100kmの面を通過する「点」だけを考えてほしい。簡単には、高度100kmで発光すると考えればここが流星の「出現点」である。図2の点々は流星の出現点だ。これらの出現点を、正方形の枠の中心の真下の地上にいる観測者が見たらどうだろうか。東西南北の方向で差が出る理由はない。だから、流星の「出現点」が方角にはまったく依らないことがわかる。
 
流星群は輻射点から飛んでくる、という知識があるから、ついついそれにつられて、出現点は一様というのが信じられないかもしれない。しかし、上の説明に嘘はない。たとえば、次のように考えればよいかもしれない。ある地点の観測者にとって、輻射点からまっすぐ飛んでくる流星は輻射点に止まって見え、この流星が流星群の束の中心にある特別な流星であるように感じるだろう。しかし、それは完全な錯覚である。その観測者から50km離れたところにいる別の観測者には、その流星は輻射点とはかなり離れた方角に見える。そして、別の流星が輻射点から飛んでくるように見える。どの位置の観測者も平等であり、どこに飛ぶ流星も平等である。すべて個々の観測者が見た目でそう感じるだけであり、方角によって差が出るはずがないのである。
 
 なお、これは流星の「出現数」だけを言ったものである。「流星の飛び方」は方角に大いに依る。輻射点の近くでは、短く放射状に見える。輻射点から外れると、長く飛んで見え、輻射点から90°離れた方向がいちばん長く見えることが期待できる。
 
3.流星群の観察は高度によらないのか
  出現数が東西南北の方角には依らないことがわかったが、高度についてはどうだろう。これは答えを言うと「高度には依る」のである。なお、この節では、「高度」は仰角の意味(角度の°の単位で測るやつ)のことで、kmで計る高度のことは「高さ」と呼ぼう。もちろん、高度が非常に低いところは、雲やもやで空の透明度が悪かったり、視界を妨げられたりすることがあるが、そういうことを除外しても高度に依る。それは、流星群の流星は、発光点と消滅点の高さがほぼ決まっていて、たとえば、それぞれ120kmと60kmくらいになっている(流星群や輻射点高度で多少違う)。それらの高さの面(球面)は、地上から見た高度に依って、距離が違うのである。当然のことであるが、高度90°すわなち天頂方向の高さ100km点までの距離はちょうど100kmである。ところが高度45°の方向なら、約その√2倍、140kmくらいになる。地球が丸いので多少ややこしい式になるが、図3のような図を書いて計算すれば、円と直線の交点の問題になるので、2次方程式と三角関数(あるいは正弦定理、余弦定理)の高校数学で解けるはずである。答えは表2の1〜2列のようになる。
 


図3:地表から大気圏上層にある流星までの距離と高度の関係(実線が地表、破線が大気圏上層、黒い楕円が流星、▽が観測者)
 
 
表2:高さ100kmで流星が出現すると仮定した場合の観測点から流星までの距離とその視野区画での流星群の出現強度(天頂でのそれを1とする。距離による光度の減衰は考慮しない)
 
高さ100kmの流星の出現高度(°) 流星までの距離 (km) 流星群の出現係数
 
0 1133 733
10 477 93
20 277 20.2
30 196 7.32
40 154 3.61
50 130 2.18
60 115 1.52
70 106 1.20
80 102 1.05
90 100 1.00
 
 高度の低い空は、流星が遠いので暗くなって損である。しかし、メリットもある。目で見る視界あたりの流星数は増える。これは、距離が遠くなる効果と「出現面」を斜めに見る効果がある。行列をなす何百人もの人々の写真を撮るなら、行列の近くから行列の向きに直角に撮影してもだめである。それではせいぜい10人ほどしか写るまい。同じ場所から同じカメラで撮るにしても行列にほぼ平行にちょっと遠くの方を撮るとその10倍くらい大勢の人間が一度に写るであろう。これと同じことである。この見かけ上どのくらい流星が混んで見えるか計算したのが表2の最も右の列である。天頂を1としている。高度が低くなるほど、流星はどんどんたくさん見られる、とまで言ってしまうと半分はウソで、低い高度の流星は距離が遠いので、今度は暗くなって、人間の視力に捉えられない(見えたところで暗くては見栄えがしない)危険性が大きい。
 結局、どのへんの高度の空を見るのがよいだろう。人の好みにもよるが、流星までの距離が1.6倍くらい遠くなると、明るさは距離の2乗に反比例だから2.6分の1くらいになる。ほぼ1等級の低下である。この程度は我慢するならば、高度40°なら流星は天頂よりも1等ほど暗くなるが、数が3倍以上稼げる。流星群はまず数を稼ぐことが優先だろうから、やや低めの空を見た方がよいだろう。高度20°以下は距離が相当遠くなるのに加えて大気による光の吸収も問題になるので、30°〜40°付近を見るのがよいだろう。流星は暗いものほど多いのでそれとの兼ね合いになるが、それでも天頂より2〜3倍くらい数が稼げるだろう。表の数値の傾向から、がんばって天頂の近くにこだわる理由はないことがわかるだろう。60°と90°では大差はないので、楽な姿勢でベランダなどから中空を見ていただくのがよろしいようである。もっともこの点はまったく個人の趣味である。芝生に寝っ転がって天頂の空を飛ぶ雄大な流星の姿を正面に捉えたい人の気持ちには、もちろん何も申し上げることはない。
 
4.結局どちらの空を見ればよいか
  では、総合的に見てどちらの方向を見ればよいだろうか。これは、一概には答えが出ないが、普通に考えて長い飛跡で流れる流星をたくさん見たいなら、おおざっぱには輻射点の方向から約90°離れた方角の高度30〜40°のあたりを見るのがよいことになる。しかし、短い流星が見たいとか止まっている流星(停止流星)が見たい、あるいは下から上に飛ぶ流星が見たい(「おまけ」参照)ということなら、これは輻射点の近くを見ていただくしかない。もちろん、寝っ転がって天頂方向を見たいとおっしゃるならば、それもけっこうである。
 前提条件として、輻射点の高度が20°〜30°以上あること、日が暮れていること、月や人工の街灯、市街光がある方向は避けること、空が澄んでいる方向を見ることは当然である。輻射点から90°はずれた高度30°〜40°というのは2方向があるので、月や光害の条件の良い方を選ぶと良い。
 
 なお、以上の議論で、輻射点の高度と、観察に適した方向の高度とは意味も効果もまったく別なので、混同しないようにお願いする。輻射点の高度は、観測時刻が決まると決まるもので、個人が観察する高度とはなんら関係がない。いっぽう、観察に適した高度は、輻射点の高度に関係なく、その時々で同じ議論になる。輻射点の高度が変わるとベースとなる流星の出現数(総数)は変わるが、観察する高度の違いによる傾向の比率は、それとは関係がない。
 
5.おまけの議論
その1: 下から上に飛ぶ流星
 流星群の流星は輻射点から放射状に飛ぶという。それなら、輻射点が空の少し低いところにある時、輻射点より少し上に現れた流星は、下から上に飛ぶのであろうか。実際は、その通り。そういう条件の時に、輻射点より少し高いところを見張れば、案外あっさりと下から上に飛ぶ流星にお目にかかれる。でも、流星というのは宇宙から降ってくるものなのにおかしい・・・?? おかしいことはありませんよ。見かけ上そう見えるだけです(図4)。
 


図4: 輻射点の少し上では、流星は下から上に飛ぶ!?
 
 
その2: 輻射点の反対側は収束点
 流星群の流星は、輻射点から広がるように飛ぶ。では、輻射点の反対側の空ではどうでしょうか。さらに広がるように飛ぶと思いきや、実は、輻射点の180°正反対の点に向かって収束するように飛ぶのでした。輻射点が空に上っていないと流星は出ないので、輻射点の反対方向は、地平線よりも下、つまり地上の方向になるが、流星はそこをめがけて集まるように飛んでいく。踏切で鉄道の線路を見ると2本のレールが遠くで近づいてゆくように見えるが、それは右を見ても左を見ても同じである。電車が走る向きにはよらない。輻射点の正反対の側にある家のベランダから流星を観察すると、庭の犬小屋や植木鉢が流星群の収束点になるかもしれないので、楽しんでほしい。
 
その3: 輻射点の高度がかなり低い時と重力の効果
 最後に地球重力の影響の検討である。1秒間の重力(加速度)の効果はわずかに5mの余分の落下に過ぎないので、流星が光っている間の重力の効果は完全に無視できるが、光る前も考えると流星物質はすでに地球のそばを何万kmか飛んでいる。これには数分間かかるので、この間には流星は、重力で何百kmか「落ちる」ことになる。飛行距離と比べるとこの落ちる距離はなおわずかであるが、微妙なところにいる観測者にとって完全に無視できる効果ではない。
 重力がなければ図5の破線(直線)のように飛ぶはずだった流星が、重力のために実線(曲線)のように曲がるだろう。この効果は、輻射点の真下付近にいる観測者にはほとんど関係ない。問題は、輻射点の高度が低い観測者である。下向きに曲がることを考えると、輻射点が極端に低いギリギリの場所では、流星がより輻射点に近いところでドロップし、やって来にくい効果を与えるであろう。そして、輻射点が低いけれども一定の高度になっているところは、流星が飛んで来やすくなるはずである。しかもドロップにより輻射点より少し上からやってくるように見えるだろう。この効果のために、輻射点高度が極端に低いときは、東西南北の方角は平等ではなく、輻射点の方向の空を見るほうが、輻射点から遠い側のほうをみるより良いはずである。輻射点に近い側に流星が落ちるイメージである。でも、これは、半径6400kmの地球の大きさに対してせいぜい200km程度の場所の違いの効果なので、大きな差はでないものと予想する。
 


図5:重力の効果を考えに入れた場合(実線)。破線は重力を無視した場合で、それと地球の図は図1と同様の趣旨である。
 
 以上、総合しても、「流星群はどう見るべし」という鉄則はない。各人の都合や好みに従って、これを参考に、いろいろな見方を楽しんでいただくのがいちばんである。


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