知られざる原子核とハドロンの話(第4回)
                   〜 ハドロンは何種類ある? 〜
 
                                上原 貞治
 
バリオンの種類数
ご隠居(以下 I): おっ、八つぁんやっと来たね。待ちかねてたところだよ。
八つぁん(以下 H): ご隠居にそう言っていただけるとは光栄ですね。おいらもこう見えて忙しいんですよ。公私ともね。
I:なぁにを。芸能人みたいなことを言ってなさる。
H:いいじゃないですか。たまには言わせて下さいよ。
I:さてと、今日は、八つぁんに数学の試験をしてやろうと手ぐすねひいて待ってたんだよ。
H:あっ、いやだなぁ。試験ですか。まあ数学は商売柄、得意な方ですけどね。あと、古典も得意ですよ。古典落語ですけど。
I:はん、それは良かった。で、試験の前に前回の訂正があるんだ。前々回に、「超新星爆発の時に勢いよく原子核と原子核がぶつかって大きな原子核ができてしまったと言われているね」と言ったが、最近の学説によると、これは正しくないかもしれない。中性子星同士がぶつかって、大きな原子核が出来たらしいよ。
H:はぁ、そうなんすか。
I:何でも、ごく最近の重力波の検出で、この説が相当有力になったらしいね。
H:重力波なんて幽霊みたいなものだと思っていたんですが、物の研究に役立つとはね。
I:じゃ、問題だけどね。陽子や中性子のようにクォーク3個からなるハドロンを、バリオンと呼ぶんだけど、バリオンは何種類あるでしょうか。
H:バリオン? 初めて聞いたですよ。
I:説明していなかったね。陽子は、アップクォーク(u)2個とダウンクォーク(d)1個でできているんだ。クォークの組み合わせで表現すると(uud)だね。中性子は、この組み合わせの数が逆で、(udd)なんだよ。こういうふうにクォーク3つの組み合わせになっているハドロンをバリオンと言うんだ。
H:あぁ、そうだったんですね。じゃあ、何種類だろう。組み合わせなら、(uuu)、(uud)、(udd)、(ddd) の4種類ですね。
I:うん、問題の範囲ではそれで正解だね。
H:そーんな簡単な問題。なーんだー。そのくらいはできますよ。そんなことでおいらが来るをずーと待ってたんですか。馬鹿にしないでくださいよー。
I:今のはホンの準備体操だよ。じゃ、クォークが5種類あったら、どうでしょうか。
H:えっ、クォークは5種類もあるんですか。
I:うん、本当は6種類なんだけど、ハドロンを作れるのはとりあえず5種類と言われている。記号で書くと、u,d,c,s,b の5種類だね。
H:なるほどー。
I:さて、5種類のクォークの組み合わせは何種類でしょう。
H:おっと、5種類から3つ取る組み合わせだから、5×4×3÷3÷2÷1で10通りかな。意外と少ないな。
I:ブッブー、はずれ。同じクォークを2つ以上使ってもいいんだよ。
H:あっ、そうか。じゃぁ、5×5×5だ。えーと 125! エライ多いな、今度は。
I:それは順列で、組み合わせじゃないな。
H:うーん、場合分けして数えるのか。すぐには、わからん。
I:これは、重複組み合わせというのを使うんだけど、5H3というやつだね。答えは、7×6×5÷3÷2÷1で35だ。
H:そうか、そういうの数学で習ったな。20代までは覚えていたのに。ちきしょー。
 
中間子の種類数
I:じゃぁ、第2問だ。同じように考えて、中間子は、何種類あるでしょうか。中間子とは、クォーク1つと反クォーク1つからできています。
H:そのくらい覚えてます。なんで、中間子は漢字で、バリオンはカタカナなんだろ。
I:確かにおかしいね。中間子は、英語ではメソンだよ。
H:バリオンとメソンね。うちの息子夫婦は、新築計画中だけど、今は近くのアパートのメソン・フォレストとかに住んでいるよ。
I:そりゃメゾンだね。意味が違うね。メゾンはフランス語だね。中間子はメソンでいいんだけど、日本人の湯川博士が最初に考えたから、日本では漢字名で中間子と呼んでほしい。
H:じゃあ、バリオンは、漢字名はないの?
I:重粒子だな。
H:ほぅー。重い名だなー。
I:でも、重粒子は、単に重い粒子という意味で別の定義にも使われているので、ハドロンの分類としては紛らわしいので、とりあえず、バリオンと呼ぶことにするよ。
H:へぇ。ようがす。
I:で、中間子は何種類か。反クォークも5種類あって、 反u、反d、反c、反s、反bとあって、クォークと反クォークはどれも別物だ。
H:うん。ちょっと待って下さいよ。別物なら、これは、5×5=25でいいんかな。ちょっと簡単すぎるか。ちょっと待てよ。引っかけかぁ。
I:うーん。どーかなー。25で本当にいいんかなー。ファイナルアンサー!?
H:ちょっと待った。待った待った。25でいいか。うーん。
I:もう時間切れだよー。
H:いいや、25!
I:ピンポーン。正解でした。
H:やったーっ。
I:簡単だったかな。じゃぁ、第3問。中間子は、普通、粒子と反粒子を区別しません。ということは、(u、反d)と(反u、d)は互いに反粒子なので、同じ粒子と見なします。こういうふうに、粒子と反粒子を区別しない場合は、中間子は何種類でしょうか。
H:うんうん、これは、2で割ればいいんだね。25を2で割って、と、あれ、割り切れない。困ったな。ちょうど半分じゃないのかな。
I:はいはい、どうしました。
H:ちょっと待って下さいよ。割りきれんというのはおかしいな。まさか、12.5じゃないですよね。
I:小数の半端があったら、間違いだろうね。たぶん。
H:そうですね。ちょっと待てよ。(u、反u)というようなのは、反粒子にしても、同じ種類なんだ。そういうのが5つあるから、それをどけて2で割って、また足して、15種類!
I:ピンポーン。八つぁんすごいねー。
H:やったー。おいらは、本当に数学得意なんですよ。学校でも試験よくできたんだから。
I:ほーう。まあ、そういうことにしておこう。いくら嘘ついてもばれないからね。あたしがあんたの出た学校の試験の記録を見に行くこともありえないしね。
H:ご隠居、意地悪ですねー。本当ですよ。
I:はいはい。疑ってなんかいませんよ。わからないけど、信じてますよ。
 
本当のハドロンの種類数
H:ご隠居、ハドロンてたくさんあるんですね。バリオンが35種類で中間子が15種類。
I:今のはクォークの組み合わせを数えただけだけど、ホントはもっとたくさんあるんだよ。クォークの組み合わせが同じでも、内部のエネルギーが違うやつがあるから、そういうのがまた何種類もあるんだ。
H:えー、またそのパターンですか。何かと言えば、内部エネルギー。
I:同じ(uud)でもだね。uとuとdの間の軌道の取り方で、エネルギーの溜めこみ方が違って、質量の違うのが何種類もできる。だから、全部で、何百種類も考えられる。何千種類かもしれない。でも、全部見つかったわけではないんだ。見つかった物だけでも、何百かはあるけどね。
H:へー、どこまで行ってもそういう世界ですね。内部のエネルギーの溜めこみ方次第。
I:でもね。どうやら、ここで終わりらしい。クォークは、本当に6種類しかなさそうなんだよ。クォークそのものは、どれも点で、内部にエネルギーを与えて、質量が変わることはないんだ。
H:そうなんですか。これで、終わり。
I:うん、電子の仲間と、ニュートリノの仲間と、クォークは、点状で、エネルギーを与えて、質量を変えることはできない。だから、基本粒子と呼んでいるよ。基本粒子は、電子の仲間とクォークで6種類ずつで、合計12種類で、たぶんこれで終わりといわれている。
H:なんでも、終わりがあるんですねー。
I:まあ、たぶんね。本当に終わっているかどうかは、まだ、わからないけどね。ゲームセットが宣告されたわけじゃないんで。
H:はっ、どういうことですか。
I:うん、なぜ、クォークが6種類かということはわかっていないしね。まだまだ、わからないこともあるんだよ。
H:それはそうとして、ハドロンは、中間子とバリオンしかないんですか。クォーク2つとか、反クォーク1つにクォーク4つとかないの?
I:それは当然の疑問だね。そういうのもあるかもしれない。それについては、次回考えてみよう。ところで、八つぁん、思い出したけど、クォーク1つの状態、つまり、クォークを1人で嫁に出す方法を思いついたかい?
H:あぁ、それ。ヒマな時にかんがえてみましたけど。一つ脈のある方法がありましたよ。
I:ほーぅ。
H:つまりね。成長してから分離しようと思うから難しいんですよ。生まれた時に、さっと取ってしまえばいいんじゃないすかね。クォークを何とか1つ作って、その時に、さっと分離する。
I:残念でした。クォークは、必ず、反クォークとセットで作られるので、初めから、中間子のような組になっているのでした。せっかく、2問連続で正解だったのに、最後にはずれましたね。
H:ちくしょー。これは今日言うんじゃなかった。
                               (続く)


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