私の天文グッズコレクション(第9回 周辺分野編)

上原 貞治
 
 今回は、科学博物館等のミュージアムショップで販売されていたり、国立の研究所などが提供している科学グッズのうち、天文学の周辺分野とも言える地学、物理学に関連するものをご紹介します。特に、天文学とは直接関係ない物に限定しました。だから、天文グッズとは言えないのかもしれません。でも、どれも実は天文に間接的には関わりのあるものばかりです。下で「購入したもの」とあるのは、いずれも科学博物館等のショップで、数百円〜2000円程度で買ったものです。
 

1.テレビ石

 これは、紙に印刷した文字の上に置くと、上の表面上に字が浮かび上がって見えるという不思議な鉱物です。透明で向こうが透き通って見えるのではなく、下の画像が上面に移動するのです。確かにテレビの液晶パネルを見ているのと似た質感です。これは内視鏡などに使われているファイバースコープ(光ファイバーの束)と似た構造になっているということで、横から見ると細かい縦縞の構造が見えます。カリフォルニア州の塩湖に結晶として産するといいます。こんなものが自然に産するというのは信じられないほどの驚きです。購入したものです。
 




(左)上から見ると文字が浮き上がっている。(右)側面を見ると繊維っぽいのが縦に走っている。

2.鉱物の缶詰

 福袋を衝動買いするのはおばさんの趣味で、何とかの缶詰というものをついつい買ってしまうのは少年の趣味かもしれません。これは3種の鉱物がはいっている缶詰です。鉱物の組み合わせは多数の種類があり、開けてみないとわかりません。運が良ければレア物がヒットするみたいです。これは珪孔雀石、ブルーカルサイト、水晶の三種でした。どれも宝石のように見えてお買い得です。ただし、ブルーカルサイトは装飾品にして売られているもののそんなに珍しくもない方解石です。購入したものです。廉価でした。
 




3.石炭

 これは、地質調査所の提供による九州で生産された石炭のサンプルです。おそらく現在のつくばの産総研の地質標本館のイベントで配布されていた物と思います。現在では石炭は地球温暖化のやり玉に挙げられて目にすることも少なくなりましたが、火力発電で恩恵を受けています。実は、太古の植物の変化した物ですから、過去の森のめぐみに感謝せねばなりません。西中筋地区の小学校では、私が2年生のころまでは石炭をストーブの燃料として使っていて、上級生が重いのにバケツに1杯入れて教室まで運んで火を付けてくれたものです。そのあともっと軽いコークスに取って代わられました。
 


4.一億年前の石

 これは入手経路は不明になってしまいましたが、内容から見て、石炭と同様もともとはやはり地質標本館のイベントで配布されていた物ではないかと思います。ネーミングが派手なので面白いと思います。しかし、ただの泥岩っぽい物です。ティラノサウルスが近くに眠っていて同時代というのは本当なんでしょうが、それが貴重な物なのかどうかは疑問です。パワーストーン同様、希少価値ではなく気持ち的グッズですね。
 


5.ソーラーカーのおもちゃ

 これは、イージーキットとして組み立てるソーラーカーのおもちゃで、光を当てると走り出します。ただし、室内の照明ではなかなか動かず、直射日光を当てるくらいでないといけません。向きが変えられるようになっている前輪を多少曲げてループを描かせますと野外では(日が当たる限り)いつまでも回っています。直線の道路を晴れた日に走らせますとどこまでも走っていって行方不明になるかもしれません。購入したものです。タミヤが京セラの実機を模したブランド商品で今回の中ではけっこう高価でした。
 


6.泡箱写真しおり

 これは、かつて高エネルギー物理学研究所(現在のKEKつくばキャンパス)で素粒子原子核実験に使われていた液体水素泡箱の撮影フィルムをしおりにしたものです。原子核の性質を研究するための貴重なデータなのですが、研究が終わったのでしおりとして無料で配布されました。水素泡箱は液体水素を満たした特殊な実験装置ですが、ライトを当てて普通に光学的に撮影できるので、フィルム自体はまあ普通の感じのものです。拡大して見ると、水素泡箱中に入れた金属標的に高エネルギーの粒子が当たり原子核が破砕されて中から陽子やパイ中間子が飛び出てくる様子が写っています。このしおりは原板ですので同じコマは1つしかなく、反応がまったく起こっていないのもあります。どれも一期一会の素粒子と原子核の出会いです。
 




7.3枚の偏光板

  最後のは私の自作品です。同じ偏光板(偏光フィルター)を3つのピースに切ってうち2枚を偏光の方向が垂直になるようにして光が通らないように重ねた後、3枚目をその間に45度の角度で挿入すると光の透過が復活するという常識では考えられないようなことが起こります。光はただの物ではなく、ただの波でもなく「振動面の方向が量子化される」という不思議な性質を持っていることが衝撃とともに体感できるものです。偏光について知識のある人の多くは、この現象について何となく知っているものと思いますが、本当にこんなにあっさりと視認できることは意外と知られていません。
 最初は、私の職場(KEK)の一般公開での演示実験用に思いついて用いましたが、のちに、福知山高校での出前授業(講演)でも利用しました。ネーミングは、つくば科学フェスティバルでの工作実験用に名付けたものです。小学生から大人まで、まったく同じ感覚で驚いてくれました。

いんちき写真でも合成写真でもございません。本当にこのように見えるのを撮影しただけです。


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