日本の古典で学ぶ天文学(第2回)
原著 J. Keill, 蘭語訳 J.Lulofs
翻案著者
志筑忠雄、現代語訳・監修 上原貞治
第1回(前号)では、中心力による物体の運動の解説と証明として、ケプラーの第2法則の証明と、円運動の幾何学を扱った。また、「円軌道と楕円軌道における周期の一致のための定理」のための「第一の定理」を証明したが、「周期の一致の証明」自身は、本稿の当面の目標からははずれた脇道になるので、中途であるが以下省略ということにさせていただく。
今回は、いよいよ本流であるケプラーの第1法則(惑星の楕円軌道)から万有引力の法則の証明のため、楕円の幾何学的性質の証明にかかる。
5.第四の定理:楕円の焦点間距離配分の比例関係(全9段)(下編上巻「求心常経張本」より)
・[図]5-15]
[図5-15]第三紙(二)
SA:SK=FA+SA:FS
図の解説は第9段にある。
第1段:外接円と楕円の比例関係
・[図5-5]
[図5-5]第二紙(一)
Sは楕円とその外接円の中心である。GIは楕円の長径(長さ2a)であり、外接円の直径である。DSは楕円の半短径で
ある。(以後、aを楕円の半長径とし、bを半短径とする)これにおいて、HK:HB=FE:FC=
SD:SA=2b:2a。(図の左右のHKBのそれぞれにおいて成り立つ)2aは外接円の直径で
ある。ゆえに、MD:LA=SM:SL=2b:2a。
第2段:内接円と楕円の比例関係
・[図5-6]
[図5-6]第二紙(二)
GDは楕円の長径(2a)である。ASは楕円の半短径(b)であり、内接円の半径である。これにおい
て、FK:FC=HI:HB=SE:SG=2b:2a。2bは内接円の直径である。
ゆえに、また、KC:IB=FC:HB=FK:HI。
また、たとえばSRを延長して、SL=SDとなる点Lを定めると、RT:LO=RT:PT=ST:SO=SR:SL=(内接円半
径):SL=2b:2a。
第3段:出心線
・[図5-7]
[図5-7]第二紙(三)
Rは楕円の中心である。RC⊥IG。また、CD=CS=aとすると、点Sと点Dは2つの焦点である。ここで、RD あ
るいはRSの長さを「出心線」と呼ぶ。(今後、これをeで表す)半長径、半短径、出心線は直角三角形の各辺の関係にある。{a2=b2+e2 }
第4段:中心からの距離の2乗の差
・[図5-8]
EA2−CA2=AI2,(CA=b)
[図5-8]第二紙(四)
ASは外接円の半径であり、楕円の半長径に等しい。DI⊥AS。Dは焦点の一つである。第1段によって、AG:AT=2b:2a。
よって、GH:TS=2b:2a。TS=GE。ゆえに、
GH:GE=2b:2a ・・・ @
直角三角形の辺の関係から、
AH2=GA2+GH2。
第2段より、 AH=AC=b。 ゆえに、
AC2=GA2+GH2。 一方、
AE2=GA2+GE2
AE2−AC2=GE2−GH2 ・・・ A
@より、GE2−GH2:GE2=a2−b2:a2
第3段により、a2−b2=e2
GE2−GH2:GE2=e2:a2 ・・・ B
AS=a。 ST=GE。 DI⊥AS。 AI:AD=ST:AS。
AI2:GE2=e2:a2 ・・・ C,
(GE2=ST2,e2=AD2,a2=AS2 だから)
B、Cより、
GE2−GH2=AI2
Aより、 AE2−AC2=GE2−GH2
よって、 EA2−CA2=AI2
ということがわかる。(点Eがどこにあってもこれが成り立つ)
第5段:平均距離との比例関係
・[図5-9]
AI:AV=AE:a, (BAを「平均距離」という。これは半長径aに等しい)
[図5-9]第二紙(五)
VD⊥AE。 QM⊥TA。ここにおいて、2つの直角三角形 △AVDと△AIDは、斜辺を共有している。また、
△AVD∽△QMA。△AID ∽△STA。(AS=AM)
ゆえに、AI:AV=ST:MQ である。ST=EGだから、
AI:AV=EG:MQ ・・・ @
また、EG:MQ=AE:AM ・・・ A, AM=a
@、Aより
AI:AV=AE:a
第6段:焦点からの2直線の和は一定
・[図5-10]
ED+FD=2a
[図5-10]第二紙(六)
直線EFにおいて、EA=FAとする。Eは物体がある点、Dは焦点、Aは楕円の中心である。AC=bで AC⊥AD。
三平方の定理により、
CD2=CA2+AD2
ED2=VD2+VE2 ・・・
(甲)
FD2=VD2+VF2 ・・・
(乙)
VD2=DA2−AV2 ・・・ @
VE2=AE2−(AV2+2AV・
EV), ( (AV+EV)2=AE2 だから)
第4段より、 AE2=CA2+AI2
VE2=CA2+AI2−(AV2+2AV・
EV) ・・・ A
@+Aより、
ED2=a2+AI2−2AV・AE
, (ED2=VD2+VE2・・・(甲),a2=DA2+CA2,
2AV・AE=2AV2+2AV・
EV だから)
VD2=DA2−AV2 ・・・ @
(前に出た)
VF2=
(VE+2AV)2
これより、VF2=VE2+4AV2+4AV・EV
Aをこの右辺に代入すると、
VF2=CA2+AI2+3AV2+2AV・EV
・・・ ○
FD2=VD2+VF2 ・・・
(乙)
@+○より、
FD2=a2+AI2+2AV・AE
(a2=DA2+AC2 だから)
また、第5段から、
AI:AV=AE:a。 だから、AV・AE=AI・a
ED2=a2+AI2−2AI・a
FD2=a2+AI2+2AI・a
だから、ED=a−AI, FD=a+AI
これより、ED+FD=2a
第7段:2焦点からの直線の和は一定
・[図5-11]
DE+SE=2a
[図5-11]第二紙(七)
点Sと点Dは2つの焦点である。SE//DF、SF//DEである。だから、SE=DF、SF=DE。ゆえに前段によると、2つの焦
点から引いた楕円周上の一点への直線の長さの和は、
DE+SE=2a, DF+SF=2a
どの点でもこのようになる。楕円を描く方法は次に出てくる。
第8段:楕円周の垂線の所在
楕円周上の点の接線に対する垂線は、2焦点からの直線の間の角を二等分する
楕円の描法として、2焦点に1本ずつの針を立て、長径に等しい長さの糸を2つの針に付けて、1つの小柱で糸を引っ張り、糸を張ったま
ま、2つの針の外側を囲むように回すと、楕円を描くことができる。(第7段による)
[図5-12]
[図5-12]
図(1)の点Eのように、2つの焦点から等距離になっているときは、接線//DSなので、垂線EAが∠DESを2等分するのは明らか
である。
小柱が糸を引く力は、必ず焦点と小柱を結ぶ直線上にかかる。2焦点のそれぞれの反対方向に引く力の合力は、図(2)で点Bの方向に向
かうので、それはEBの方向になる。ゆえに小柱が(楕円を描く時に)動く方向はこれに垂直な方向で、接線RTの方向になる。
ここで、たとえ1つの焦点が、Gにあっても、Cにあっても、糸を引く力は常にEBの向きなので、垂線EAの向きは変わらない。
たとえば、円において、
[図5-13]
[図5-13]
大きい円の中心Kに対する大きい半径の円弧EDであっても、小さい円の中心Iに対する小さい半径の円弧ECであっても、小さい円の接
線RTを接線としてEKを垂線とすることについては同じである。あたかも、その中心の場所を知らないかのようである。大きい円でEまで来て、
あるいは小さい円でCまで来ると、その時に初めて違いがわかる。
前図[図5-12(2)]の点Eの接線も、焦点までの距離を知らないようなものである。だから、つねにRT//DSである。ゆえに、
その焦点がCにあろうがGにあろうが、それには関わらず、常に垂線が楕円周上の点から2焦点に引いた2直線の間の角を2等分することがわか
る。つまり、次の通りである。
・[図5-14]
[図5-14]第三紙(一)
Aは物体のある点である。ADを延長しその長さをASと等しくすると、前の図[図5-12(2)]と同様になる。だから、垂線AKが
∠SADを2等分することがわかるだろう。
第9段:焦点間距離配分
・[図5-15]
SA:SK=FA+SA:FS
[図5-15]第三紙(二)
Aは物体のある点である。点Sと点Fは焦点である。ここにおいて、前段によると、点Aでの接線の垂線は、2焦点への直線の間の角を2
等分する。ゆえに、AKを延長し、2つの垂線、SB⊥AK、FC⊥AKの足、それぞれ、点Bと点Cを定めると、直角三角形の相似関係から、
FK:SK=FC:SB ・・・ @
FC:SB=FA:SA ・・・ A
@、Aより、 FK:SK=FA:SA
ゆえに、 SA:SK=FA:FK
よって、 SA:SK=FA+SA:FS, (FS=FK+SK)
第7段によると、この比は、 =2a:2e。 (焦点間距離は、出心線の2倍だから)
楕円の焦点等に関する幾何学の証明は、次回にもう少し続くが、ほどなくニュートンの力学、重力の議論と融合される。
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付録:原典資料紹介(その2)
志筑忠雄「暦象新書」(1798-1802)下編上巻「求心常経張本」「第四楕円出臍底分比例解」より図の多いページ
(『暦象新書』写本、早稲田大学古典籍総合データベースより)
(つづく)
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