偉大なる天体の周期(第7回)
上原 貞治
 
 今回は、本連載で始めて太陽系を飛び出して、恒星界へ行く。取り上げるのは、変光星である。偉大なる天体の周期というのは、もちろん変光星の明るさが変化する周期である。ここで、第1回に宣言した「偉大なる天体の周期」の選定基準を再掲する。  
 
1.人間の一生のうちに確認できる
2.肉眼での観察で確認できる
3.多少の天文の知識を要する
 
 つまり、肉眼で見えて、かつ、人間の一生のうちに周期性が確認できる変光星でないといけない。 ここで周期が4日とか1週間とかでは、あまりに短くて「偉大」そうではないので、周期は、1年程度〜30年程度というところから選びたい。そうすると、変光星では、適当なものは非常に限られてくる。それは、一般に、周期の長い変光星は、周期性が明瞭でないのである。本連載は、周期が明瞭に確認できる天文現象が対象なので、周期が短めの変光星が多くなるのはやむを得ない。もちろん、肉眼で観察できるというのも制約になる。以下、このようにして選んだ1個の食変光星と、3個の脈動星(ミラ型長周期変光星)を取り上げる。
 
1. 食変光星ぎょしゃ座ε(イプシロン)星
 変光星には多くの種類があるが、非常に大雑把に分けると、星自体の明るさが変わるものと、星が連星になっていて、地球から見て暗い星が明るい星の手前に来たときに暗くなるものとがある。後者を食変光星と呼ぶ。厳密に言うと、この両者の中間のような、星から黒いガスかホコリの雲のようなものが吹き上げられて、それがかなりの上空を漂い星の明るさを遮っているらしい変光星もある。しかし、こういうのは周期が一定しないので、「偉大なる周期」からはほど遠い。
 さて、その食変光星の代表格は、アルゴル(ペルセウス座β(ベータ)星)である。これはとても有名で観測もしやすい変光星であるが、周期は3日ほどにすぎない。短周期の明るい食変光星が多い中で唯一周期がとても長いのがぎょしゃ座ε星である。その変光周期は、27.1年とされている。この星は、通常は3.0等くらいであるが、27.1年ごとにやってくる極小期(すなわち地球から見た食の時期)には、3.8等くらいまで暗くなる。極小は約2年間続く。
 この星が変光星であることがわかったのは1821年のことで、それ以後、27年ごとに極小が観測されているので、観測史上8回の極小が観測されていることになる。この変光星は、極小光度がほぼ一定で2年間も続くことが、通常の食変光星の幾何学な説明では説明困難とされていたが、2009〜11年の極小期のスピッツア宇宙望遠鏡の観測によって、伴星(主星の光を遮っている星)の回りに円盤状に暗いチリが分布することによって説明されることがわかったという。
 ぎょしゃ座ε星は、カペラのすぐ近くにある「子山羊」と呼ばれている小さな三角形になった3星のうちのもっとも鋭角の頂点の星で、この3星の明るさを比べると、εの減光の際には容易に識別ができる。我々の世代はこれまでに2度の極小の観測チャンスがあった。私も肉眼で暗くなっているのを見たことがある。下にAAVSO発表の光度曲線を載せる。次回は、2036〜38年に極小が起こる。(以下、図はいずれもAAVSOのWebページの観測データベースからライトカーブ作成ソフトを使ったものである)
 
2.脈動星ミラ(くじら座ο(オミクロン)星)
 脈動星というのは、恒星自身が膨張と収縮を一定の周期で繰り返し、その全体としての明るさを変えるものである。特ににミラ型変光星と呼ばれているものは、赤色巨星で、そもそもの星のサイズが大きい。変光範囲も大きく、周期も規則正しい。 脈動星は、収縮したときに内部からのエネルギー放出が増加して明るくなり、膨張したときに暗くなる。逆ではないのでお間違えなきよう。収縮したときに内部のエネルギー放出が減るような星なら縮むばかりで脈動はしないであろう。
ミラは、ミラ型変光星の代表格で、2.0等から10.1等の間で変更する。周期は、約332日である。もっとも明るいときは、肉眼ではっきり見える明るさであるが、暗くなると望遠鏡でないと見えない。もっとも、最も明るくなる極大のたびに必ず2等になるわけではない。周期は比較的正確であるが、極大光度は、時によってかなりのばらつきがあるのである。その明るさはその都度観測してみないとわからない。2.0等まで明るくなることは、かなりめずらしく、3〜4等止まりのことのほうが多い。それでも、肉眼で十分見える明るさである。下に最近のAAVSOが集計した変更曲線を示す。2004年に2.0等近くまで明るくなったが、この時はけっこう話題になったものである。肉眼で見ても赤っぽく見える。 周期が11カ月に近いので、極大の季節は毎年1カ月ずつ早くなる。くじら座は秋の星座なので、極大が観測しやすい期間とそうでない期間が数年ごとに繰り返されることになる。
 
3,他の脈動星(はくちょう座χ(カイ)星とうみへび座R星)
  極大の明るいミラ型変光星として、ミラ同様有名なものにはくちょう座χ星がある。はくちょう座の中心部の首が胸のあたりにあるので、明るいときにはミラよりもずっとこちらのほうが見つけやすい。 極大等級は3.3等、暗くなると望遠鏡でも見えづらい14等になってしまう。周期は408日である。この星も必ずしも3等まで明るくなるわけではなく、これよりもずっと暗いところで極大になることもある。
 うみへび座R星は、うみへびの尻尾の部分にあるミラ型変光星で、極大光度ははくちょう座χ星にほぼ等しい3.5等、暗くなると11等級になる。周期は、389日である。ミラ型変光星の周期は極大が肉眼でも見えないような星も含めて、1年程度のものが多い。うみへび座の尻尾は赤緯がかなり南によっているので、日本からは南に低く、晩夏から秋にはほとんど観測できない。
 下に、両星それぞれの変光の様子の図を示す。AAVSOの集計によるものである。はくちょう座χ星(上)の極大は最近明るくなることが多いが、うみへび座R星(下)はここ数年は5等より明るくなったのが観測されていないようである。これは、近年、極大が明るかった年が運悪く季節的にそれが観測できない年に当たってしまったことが理由かもしれない。
 
これらのミラ型変光星の位置を憶えておいて、時々夜空に探し、どのくらいの明るさになっているか確認すると、これらの星に親しみが湧くのではないだろうか。
 
 偉大なる天体の周期もだいたいネタが尽きてきた。この連載は今回が最終回かもしれない。
 何か思いついたら、もう1回くらいやるかもしれません。長い間お読みくださいましてありがとうございました。
 

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