私の天文グッズコレクション(第6回 星図編(下))
                        上原 貞治
 
星図のコレクションの続きです。
 
6.ウラノメトリア2000.0 (全2巻)(Tirion, Rappaport, Lovi著、Willmann-Bell, Inc.,1987-88)
 この星図は、2000.0年分点で発行された最初の大規模な星図といえるでしょう。2巻でそれぞれ北天と南天をカバーしていて(オーバーラップ有り)全天が473枚の星図から構成されています。米国で作られたもので、9等までの星が載っています。明るい星や星雲・星団には、名前や番号が振られていて、実用上、とても便利にできています。この星図に載っていないほど暗い天体でもその2000年分点の座標がわかれば、載っている恒星からたどることができるでしょう。そのための透明の座標シートが付属しているのがとても親切です。現在に至るまで、この2巻があれば小望遠鏡での星空散歩には十分でしょう。バイエルの歴史的な星図の名を借りているだけのことはあります。
 値段のことばかりで恐縮ですが、この星図は驚異的に安く、2巻で2万円程度だったと思います。コンピュータが星図を描くようになって、一財産はたかなくてもこれほど詳しい星図が買えるようになったのは時代の進歩でした。でも、その進歩は、詳しい星図の印刷物そのものの息の根を止めることになったのです。だって、コンピュータが星図を描くなら、そのソフトを売れば良いわけですから・・・、印刷した星図を売ることはないんですね。
 この星図は、現在でも新品(あるいは中古)で購入可能で、値段が2万円程度というのは今も変わらないようです。

 
 
7.星雲・星団ガイドマップ(西条善弘、誠文堂新光社、1999)
 これは、天文ガイド編集部編の「実用全天星図」の姉妹編で、14枚からなる8等までの全天星図に、西条氏によって星雲星団のカタログと解説、それに、多数の星雲、星団が密集している方向の詳細のチャートが付けられたものです。おそらく、日本で発行された全天の星図本でもっとも星数の多い物ではないかと思います。ページ順が季節別になっているので、星図の順番がややこしいことになっていて、全天星図として使うのはこの点が不便ですが、見たい星雲星団を探し出す場合や、その付近の星の配置がどうなっているかを知るためにはとても便利です。これが、今までのところ、私が買った観測の実用のための紙の最後の星図となりました。以後は、パソコンソフトの星図を併用しています。もう紙の星図を新たに買う必要は(手持ちのものが破損しない限り)ないものと思っています。その後、「ミレニアム」という11等までの印刷物の星図が出ました(今までのところ最新で最大)が、買っていません。
 本書程度の紙の星図は、望遠鏡を操作して天文普及に努める若い天文ファンのために、国産で今後も出版を続けてほしいものだと思います。

 

 
 
8.立体で見る[星の本](杉浦 康平、 北村 正利 著、福音館書店、1986)
 以下2点、少し毛色の変わった星図を紹介します。
 この星図は、天文書というよりは絵本の形式を取っているもので、赤青の立体メガネで、各恒星までの距離が3Dで体感できるようになっている趣向のものです。絵本と言いましたが、それでも、全天が23の星図に分割され、赤道座標系や星座境界とともに4等までの星が載っていますので、立派に星図の条件を満たしています。各星に距離の情報も含ませている点で画期的な優れもので、天文の解説もついています。眺めて楽しい星図という意味では、独特のものがあります。共著者の杉浦氏が芸術家で北村氏は天文学者というコラボ作品になっています。

 
 
9.「大宇宙の調和」(セラリウス著)の複製・解説本(The finest atlas of the heavens, Cellarius harmonia macrocosmica. Introduction and texts by Robert H. van Gent, Taschen GmbH、2012)
 これは、17世紀ヨーロッパの星図制作者セラリウスによる名著『大宇宙の調和』(Harmonia Macrocosmica、1660)の複製・解説本で、29cm×58cmという超大判のとても立派な本です。いわゆる観測用の星図ではなく、太陽系、地球の世界地図、恒星天 がいろいろな視点やデザインで描かれた全宇宙のビジュアル解説本で、喩えれば、竹内均先生が始められた科学雑誌ニュートンの別冊ムック本の元祖のような本です。いくつもの目を惹く宇宙図がありますが、例えば、恒星天をその外側から見て、裏返しの星図の隙間から地球が見えているという突拍子もない発想の絵も含まれています。

 
右が恒星天を外側から見て地球を透視するという図です。この天球を支える地面や人間たち?はどこにいることになるのでしょうか!?

 
この星座図はシラーのキリスト教星図に基づくものです。はくちょう座、わし座、やぎ座付近ですが、いずれも聖人、十字架などに置き換えられています。
 
10. Sky Catalogue 2000.0 (全2巻) (A.Hirshfeld R.W.Sinnott, F.Ochsenbein 著、Cambridge University Press、)
最後の1つは星図ではないのですが、星図をつくるにはその元となる「星表」が必要で、その星表の紹介というわけです。星表というのは、各行が一つの星のデータになっていて、その位置や明るさやその他の属性が書かれています。星の数だけ行があるわけです。このカタログは、2巻あって、1巻目が普通の恒星、2巻目は、二重星、変光星、星団などとなっています。このような星表は、かつては、星図ではわからない、星の正確な等級やスペクトル型、実距離などを調べるには不可欠なものでしたが、現在では、このような数字の表は、ネット上のデータベースに完全に取って代わられ、それを使うと、複数の星表の対応まで含めて瞬時に検索できますので、このような紙の本を買うメリットはほぼ完全になくなりました。それでも、この本の第2巻の星団のところには、擬似星団(アステリズム)まで載っており、ユニークさを見せています。紙の星図はもとより、星表も「読み物」として楽しむ余地はまだじゅうぶんに残っているのかもしれません。

 
 
 
 

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