私の天文グッズコレクション(第5回 星図編(上))

                        上原 貞治
 
  今回ご紹介するコレクションは、星図です。星図は、ひょっとすると私のコレクションの中ではもっとも充実したものかもしれません。数がちょっと多いので上下の2回に分けます。ここでの「星図」は、原則として、全天の恒星の配置の様子がいくつかの図版に分けられて印刷されたもの、ということにします(原則に沿わないのも出てきます)。
 
1.「最新版 全天恒星図」広瀬秀雄、中野繁 共著(誠文堂新光社、1968)
 これは私にとっての最初の星図です。たぶん、天文年鑑の広告で見つけたのでしょうが、それまで星図というものがこの世にあることすら知りませんでした。肉眼星図のベストセラーというべき名著で、この星図を買って本格的に天文の世界に踏み込んだ子どもたちも多かったことと思います。恒星のフラムスティード番号が教科書体の数字で書かれているのが子どもにも親しみやすかったです。この星図のシリーズは、多少の改訂を加えながらロングセラーとなりましたが、私の持っているのは、1969〜70年頃に買った第2版です。当時の小学生に1,000円は高かったので親にお金を出してもらいました。1950.0分点です。

  
 
2.「スカルナテ・プレソ星図」(「ベクバル星図」)(チェコスロバキア天文学会、1948)
 歴史上、世界でいちばんポピュラーであった星図は何かといえば、この「ベクバル星図」が候補に挙がることでしょう。現在のスロバキアにあるスカルナテ・プレソ天文台にちなんで名付けられました。ベクバルは星図を描いた人の名前です。この星図の優れている所は、16枚という比較的少数の枚数にも関わらず多くの星(32,571) が描かれていることで、つまり効率が良いということです。双眼鏡や低倍率の望遠鏡で星空散歩するにはこれで十分でしょう。世界でいくつかの種類が出ています。ここで紹介する私が持っているものは国内で出たリプリント頒布版で冊子にはなっていません。1950.0年分点です。星の数のわりに印刷サイズが小さくて見にくいこともあり、私が実用にした期間は短かったです。

  
 
3.SAO星図(スミソニアン天体物理観測所、1969
 これは、上の2つとは比較にならないほど規模の大きな星図で、9等までの星が152の星図に分けられています。でも、この星図はなかなか使いづらく、不運の星図と言えるかもしれません。それは、星や星雲の名前が振られていないこと、枚数が多く星図上に星を探すだけの作業すら大層なことが実用性を損ない、またあまり「楽しく」ないのです。SAO星図は、新しく作ったSAO星表を機械的にプロットするという現代的新技術の計画であったにも関わらず、星表自身はその前のヘンリー・ドレーパー星表とその後のヒッパルコス衛星による星表の狭間にあって特に相対的に実用的利点が見いだせず「過渡期の商品」として埋もれてしまった感があります。私の持っているのはリプリント版ですが、それでも、私には高価な買い物でした。1950.0年分点です。現在は、比較的安価で中古書が売られているようです。 


 
4.35mmカメラによる写真星図 (誠文堂新光社、1979)
 私にとってSAO星図よりずっと利用価値があったのがこちらの写真星図です。普段から天文ガイドに写真を投稿するようなアマチュアが35mmカメラで撮った星野写真をまとめたユニークなもので、あらかじめ各葉のフレームを決めて写真が募集されました。35mmの高感度フィルムなのでどうしても粒子の荒れが見えてしまいますが、それでも11等くらいまでは識別できます。赤道座標が読めないのは、ベクバル星図などと照合すればカバーでき、眼視観測のチャートとして使うには十分でしょう。白黒反転した写真がおもになっていて、通常の印刷技術で十分使える性能になっています。 惜しむらくは、赤緯マイナス28°くらいまでしか写っていないことで、これはせっかくですから、多少の像の悪化を覚悟で、マイナス40°くらいまではカバーしてほしかったです。

  
 
5. 野外星図2000 (中野主一、大田原明 著、誠文堂新光社、1982)
 以上の星図ラインナップを所持していれば、私の天文人生は一生安泰と思いきや、そうはいかなかったのでした。1980年代中頃から、天体の位置を表す赤道座標は、常用されるものが1950.0分点から2000.0分点に改められることになったのです。彗星の位置予報も、新しい星図も2000.0分点を使えということになりました。ですから、とにかく2000.0分点の星図を一つは買わないといけなくなって、その最初の買い物がこの野外星図です。これは冊子ではなく、1枚の紙に12の星図が印刷された物になっています。ユポ紙という水に濡れても大丈夫なビニールシートのようなプラスティックに印刷されていて、それを折りたたんで使います。何回折っても破れたりするものではありません。7等までの星が載っているなかなかの優れもので、全天恒星図の代わりを果たすくらいの用途は十分にありました。今にいたるまでまったく損傷していないのもすばらしい。なお、最近の天文年鑑の巻末にある星図は、これを元にしています。

  
(星図編、次回(下)に続く)
 

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