編集後記
上原 貞治
 
 いきなりのお断りで恐縮ですが、今号では連載の「偉大なる天体の周期」はお休みとさせていただきました。これは、ほかの原稿が多いためで、今後もときどき連載に穴があくことがあるかもしれません。次号には掲載する予定ですので、よろしくお願いします。
 
 お断りだけになってしまってはさみしいので、私の時事向きの文句を書かせていただきます。ここで書く批判は、政治的な主張というよりは政治以前の文化時評とご理解下さい。
 
 昨今の日本の政治はひどいものです。日本の政治は、知性の片鱗もない政治家に乗っ取られてしまいました。出来の悪いテロリストにハイジャックにあったような心持ちです。愚か者に政治をまかせてよい世の中は古今東西どこにもないでしょうから、現在の日本は最悪の状態にあるのではないでしょうか。
 
 今の政治家には、知性がないと書きました。まず、彼らは、憲法が読めません。時に憲法の解釈に苦しむ場合もあるでしょうが、その場合のために、前文があり、99条もあるわけです。憲法は、前文の趣旨に即し、国会議員や内閣は99条に従ってそれを擁護する方向、つまり憲法の全構成に対して安全サイドで解釈すべきです。与党政治家はどうもこれがわからないらしい。わからなければ、専門家に聞けばよいのですが、彼らは学者のいうことも聞かない。愚か者の常で、自分が専門家よりが良くできるつもりでいて、自分勝手な判断をする。どうやら彼らは、土木の専門家が落ちる危険があるという橋を渡り、建築の専門家が倒壊する危険があるという住宅に住むらしい。こんな愚か者といっしょに暮らしていると、早かれ遅かれ命を危険にさらすことになるでしょう。
 現憲法を守らない政治、あるいは知性を重視せず自分勝手な考えでやる政治がしたければ、ハイジャックの真似事はやめて、これまで民主主義で衆知を集めて実績を挙げてきた政権与党からいったん離れ、国会議員も辞職して、そのようなおかしげな主張の新党を立ち上げてゼロからやりなおしていただくのが筋だと思います。
 
 彼らの学問軽視は、これに留まりません。ちょっと細かい問題になりますが、「大学改革」というのがまたそうです。国は、元来、大学の判断に任されている研究予算や人件費の使途に縛りをかけ、予算利益で誘導をし、軍事研究を大学に持ち込もうとしています。また、国立大学の多くで、文系学部を廃止しようと考え、さらに、最近、国歌・国旗についての調査を始めました。これらは学問の自由を定めた憲法23条違反ですが、かれらは学問の自由も大学の何たるかも屁とも理解していないことを公言してはばからないということでしょう。大学の学長がしっかりしておれば心配ないのですが、はなはだ失礼ながら今や学問の尊さよりも国のトレンドに従うことを重視する学者の中では特に下等な部類の人が学長の多くを占めているようなので(ウソだと思う人は、「国立大学協会」のWebページの「各学長からのメッセージ」を読んで下さい。何か左前の企業か市町村議会の町おこしのレベル以下のように読めます。学問へ敬愛と志がなく、学生も読んであきれるでしょう)、たいへん心配な状況です。日本全体の学問レベルが阿呆な政治家や役人へのお付き合いで取り返しのつかないことにならないよう、国民全体で注視し、声を上げ行動しなければならないと思います。
 
 いろいろありますが、もう一つだけにしましょう。それは、政治家の使う言葉の幼稚さです。これは、小学生以下です。小学生に失礼なことを言ったかもしれません。小学生の発言や作文でも、気持ちがこもっていて読む人を感動させるものはあります。しかし、与党政治家の国会答弁は、質問にも答えていないし、単に自分の主観的な願望を述べているだけです。科学的な分析も論理の積み上げもありません。憲法違反が疑われているのに防衛戦争の必要性を訴えるばかり、これは無免許運転で捕まって、仕事でクルマをどうしても運転をする必要があったのだ、と抗弁するようなものです。戦争には巻き込まれない、と断言しますが、相手のあることでどんなもめ事になるか断言ができようはずがないことはすぐにわかることです。弁論大会や研究発表会だったら高校でも落第になるでしょう。
 それから首相の終戦70年談話もひどかったです。春から準備してあの程度の作文しか書けない。何か、夏休みの最終日に人から聞いてまとめて書いた日記のようでした。内容は無難でそれはそれで措きますが、あれだけの戦争があって、終結して70年ですから、せめて世界の人を感動させる言葉の一つでも入れられないものでしょうか。奥歯にものがはさまったような言葉や意図不明の言葉が多いのも致命的にいただけません。その点、8月15日12時の追悼式の天皇と首相の言葉はまだ良かったです。これらはわかりやすいものでした。天皇のあいさつと首相の70年談話はそれこそ雲泥の差で、比べること自体、陛下にたいへん失礼を申しました。
 昔ラジオで良く聞いた聖パウロの言葉に「心に愛がなければ どんなに美しい言葉も相手の胸に響かない」というのがありました。心に愛があっても口べたなので相手の胸に響かないこともあるでしょうが、口べたの政治家ということは考えづらく、ただひたすら心に愛がないためではないでしょうか。
 
 天文同好会とは関係のない私の個人的評論を載せて、失礼いたしました。でも、宇宙や自然や人間の真理の追究をするためには、知性のある世の中であることが大前提ではないでしょうか。政治家に知性がない国は、国民の才能や能力を生かせない国です。また、国の指導者のレベルが低いときは、それだけであらゆる面から国を滅ぼすことになります。とても座視していられない状態になったと感じましたので、及ばずながら、日本の学問、文化を応援する一国民として、政治以前の問題として言及をさせていただきました。ご寛恕のほどをお願いいたします。
 

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