「食」と「掩蔽」について (第2回)


                                    上原 貞治
 
 「掩蔽」とは、ある観測者から見たとき、1つ天体が別の天体を背後に隠すように見える現象のことです。天体Aが天体Bを隠すとき「AによるBの掩蔽」と呼びます。前回では、月による掩蔽である「日食」、「星食」について書きましたが、今回は、月以外の天体による掩蔽について書きます。
 
 

4.惑星による掩蔽

 
 4-1 大惑星による掩蔽
  水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星の7つの大惑星は、いずれも小望遠鏡で見て容易に直径があることがわかります。ですから、これらの惑星の背後に恒星が隠される場合があることはすぐに想像できるでしょう。冥王星は、遠くにありかつ比較的小さいので、望遠鏡でその直径を見ることは困難ですが、有限の直径がある以上、その背後に星が隠され得ます。これについては、次のセクションをご覧下さい。
 大惑星による恒星の掩蔽は、めったにおこりません。かつて、天王星が恒星を掩蔽したとき、その前後における恒星の明るさの変化から、天王星の輪が発見されました。また、衛星のない惑星にとっては、大気による減光の観測ができる貴重なチャンスとなります。
 木星の衛星が木星に隠される現象は珍しいものではありません。土星や天王星の場合は、その赤道面が地球から見て大きく傾いているので、衛星の掩蔽が見られる時期は限られてきます。また、土星の場合は、輪が邪魔になる場合が多くなります。
 
 4-2 小惑星による掩蔽
 小惑星は小さく、多くの場合、望遠鏡でその直径を測定することは不可能です。でも、有限の直径がある以上、掩蔽は起こります。しかし、小惑星の多くは、直径が数十kmから100km程度であり、地球上で同時に掩蔽見られる区間もこの程度のサイズの領域となります。つまり、関東地方で掩蔽になっても関西地方では掩蔽にならない(場合がほとんどである)わけです。逆にこのことを利用すると、これは小惑星の大きさを直接測る非常に信頼性の高い手段となります。近年、小惑星の掩蔽の観測は、アマチュア天文家の恰好の観測テーマとなっています。
 小惑星が、恒星よりずっと暗い場合は、小惑星が恒星に近づいてくると恒星と分離ができなくなりますが、掩蔽中は恒星が暗くなったように見えるため、明瞭に掩蔽を確認することができます。ですから、小惑星が暗いことは観測上支障になりません。逆に、恒星が小惑星よりずっと暗いと、観測は困難になります。
 小惑星には、メインベルト帯と呼ばれている火星と木星の公転軌道の間にあるものの他、トロヤ群と呼ばれている木星軌道上にあるもの、ケンタウロス群、カイパーベルト天体と呼ばれている、さらに遠くに存在しているものがあります。遠くの小惑星の掩蔽は軌道の測定精度が悪いことなどから、観測されるチャンスが減っています。今までに、トロヤ群小惑星による掩蔽は観測されていますが、ケンタウロス群、冥王星やカイパーベルト天体による掩蔽の観測は今後の課題です。
 彗星による恒星の掩蔽も起こり得ますが、彗星は、そのコマの大きさに比べて核の大きさが小さいため、コマによる減光ばかり見られて、核による掩蔽はずっと少ないと考えられます。それでも、キロンという天体(これはかつては小惑星に分類されていたが、現在は彗星とされている)の核による掩蔽が観測されたといいます。
 
 あまりに小惑星が小さいとき、あるいは、小惑星が地球から遠いときは、小惑星が恒星を幾何学的には完全に隠しても、減光が完全に起こらない場合があります。これはフレネル回折と呼ばれる現象によるもので、光が波であることから起こります。こういう場合は、減光のパターンを測定することで、より多くの情報を得ることができます。
 
 4-3 太陽面経過
 水星、金星の2惑星は、地球と太陽の間に割り込んだ場合、太陽面を経過する黒い円盤として観測されます。かつて、金星の太陽面経過は、地球と太陽の間の距離を正確に測定する手段として熱心に観測されたという歴史的経緯があります。また、この2惑星以外の太陽面経過の観測が、小惑星の探索や太陽に接近する彗星の観測のために行われたことがありましたが、今日まで一度も明確に観測されたことはありません。
 

5.衛星による掩蔽

 木星の4大衛星は、小さいながら小望遠鏡で判別可能な直径を持っています。これらが、木星面を経過する場合は、小さい円盤として認めることができます。この現象は、「経」(経過の意味)と呼ばれています。また、木星の場合、衛星が別の衛星を掩蔽する現象もしばしば見られます。木星本体も4大衛星も太陽からほぼ等距離にありますが、これらの掩蔽の際には、天体ごとに表面の物質や状況に違うことによる明るさ(反射能)の違いを認識することができます。
 土星など衛星を持つ天体でも、同様の現象は起こり得ます。土星の場合は、輪と衛星が相互に掩蔽を起こり得ますが、実際は、ほとんどの衛星が輪の平面付近を公転しているので、それほど目立った現象となりません。
 
 次回にもう一度だけ登場させていただきます。食変光星、掩蔽の頻度について書くつもりです。