太陽黒点活動と地球の気候変動(第3回)
                       上原 貞治
 
9.太陽活動変化と気候変動のデータのやや詳細な比較(1900年以後)
 さて、1900年以降の太陽活動変化と気候変動(世界平均気温の変化)のデータをもう少し詳しく比較してみよう。前号に掲載した図7と図8を見ることにする。(下に再掲する)
 
 

図7.日本の気象庁が出している「世界の年平均気温平年差」 オリジナルの直線フィットは消去した
 
 気温のほうは、1900〜1950年の間に0.3℃くらい上昇している。これは大きな上昇であるが、この原因を温室効果ガス放出とすることはできない。温室効果ガスである二酸化炭素が大気中に急激に増加し始めたのは1950年以降だからである。これを温室効果ガスの結果とするならば、その後の60年(1950〜2010年)で気温が0.5℃しか上がっていないことが説明できない。二酸化炭素の増加の比率で考えると1〜2℃はさらに増加してしかるべきである。変動の効果は、基本的には短期間では線形近似が適用できるはずであるからである。適用できないのは特殊な場合であり、そう主張する場合は根拠が必要である。
 ここで、20世紀を通した気温上昇の主要因を人間活動による森林の減少に求める人がある。ここ数百年にわたって世界で森林が減少し続けていることは事実かも知れないが、それだったら17〜18世紀に寒冷化したことをどう説明するのだろうか。この時期だけ森林が増えたのでなければ、この説明も妥当性がない。温暖化の時は人間活動が原因で太陽活動は関係なく、寒冷化の時は太陽活動が要因で人間活動は関係ない、という主張は、科学的にも、いや数学的にも正しくないものである。
 
 
図8 太陽黒点相対数の変化。SIDCのwebページの図から作成。http://sidc.oma.be/html/wolfaml.html
 
 実は、1900〜1960年は、太陽の観測史上もっとも大きな黒点数の増加が認められた時期であった。これが気温上昇の主たる原因と考えると、太陽活動が50年間活発な状態に移行し続けると0.3℃程度の気温上昇を引き起こすと結論できる。これは、前回述べた、ここ1000年で太陽活動の変動に連動して0.6℃程度の気温変化が起こっているという見積もりに比べれば過大なものではない。わずか50年で起こったというのは急激な変化ではあるが、観測史上最大の太陽活動の増加幅を考慮すれば説明可能である。
 その後、気温の上昇は1960〜1970年前後にいったん停滞するが、1985年以降に再び急激な増加を見せ、ここで0.4℃の気温上昇が起こっている。これの原因が温室効果ガスの放出かどうかというのが問題の焦点である。最重要点なので繰り返すが、温室効果ガスの効果で気候変動が起こるとしても、それが観測されている可能性があるのは、1985〜2005年前後の20年間だけである。太陽活動の記録と比べて圧倒的にデータ不足である。
 一方の太陽活動のほうもこの20年間は活発だったので、この0.4℃の気温上昇のうちのかなりの程度、たとえば0.2℃程度は太陽活動で説明可能である。したがって、はっきりとした結論は出せないが、20世紀に起こった、0.6〜0.7℃程度の気温上昇のうち、0.5〜0.6℃程度は太陽活動の変動によるものである可能性が高い。これは、温室効果ガスのためにこれまでに起こった温度上昇は、せいぜい0.2℃程度以下である可能性が高いことを意味する。
 なお、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告によれば、過去100年間に地球全体の平均気温の上昇は0.3〜0.6℃とされていて、このほとんどを温室効果ガス放出の効果としている。これは、太陽活動の活発化による上昇効果をまったく考慮にいれていないからである。確かに、太陽活動が気候変動にどのように影響を与えているかについては不明であるから計算に入れにくいのであろう。しかし、それにしても、私はいまだかつて、20世紀後半の世界平均気温の上昇の原因を、太陽活動による効果、温室効果ガスによる効果、それ以外の効果、に分けて定量的に誤差をつけて科学的に分析したデータを見たことがない。これが地球温暖化を論じるときにもっとも重要なデータであるはずなのにである。客観的に見て、太陽活動が活発になれば気候が温暖化する、という絶対的な証拠はデータ以上には存在しない。しかし、それをいうならば、温室効果ガスの影響についてはさらにデータ不足である。まったくわからないと結論すべきではないか。
 太陽活動の効果はわからないと言って無視しておきながら、同程度以上の不確定要素を持つ温室効果ガスの影響については温度上昇の予想数値を挙げるのは、公平な推定の方法と言えない。これには、温室効果ガスについてはシミュレーション計算がなされているとか、人間の活動の結果であるから、より高い信頼性で警告を発するべきだという考え方もある。しかし、これも公平な意見とは言えない。観測との比較が客観的に行われていないシミュレーションは、ただの計算に過ぎず、その予言に説得力はない。いっぽうの太陽活動については過去1000年のデータがあり、それを使えば、温室効果ガスのシミュレーションよりも信頼性の高い予報が得られるはずである。また、人間活動の結果といっても、その警告自体が今後の世界の市民の経済活動や国際政治に大きな影響を与えるわけであるから、信頼性に関わらず警告を出せばよい、というものではない。とにかく、これまでの60年間にせいぜい0.2℃程度の影響しか与えていないらしいのに、21世紀の100年間でその10倍以上の3℃あるいはそれ以上の温度上昇が起こるとする警告は、脅しとしては有効かもしれないが、科学的には大胆すぎるものでと言わざるを得ない。もし、社会的な影響を優先して客観的な検証を置き去りにしたまま数値的結果を出すならば、それは科学ではなく疑似科学と呼ぶべきであろう。
 
10.今後の見通し
 さて、今後はどうなるであろうか。図7を見る限り、2000年以降、気温上昇はほぼ止まっているように見える。これは、21世紀に入って、太陽活動が下り坂にあることと、温室効果ガスの放出が依然として増加していることに照らし合わせると、気温上昇の主たる原因が、温室効果ガスではなく太陽活動にあることを支持しているように見える。しかし、10年程度の短期間の温度上昇の停止は、1970年頃にも見られたのでこの程度はランダムな変動の可能性もあり、単一の原因に求めるべきではないだろう。少なくとも20年くらいのデータが必要であろう。
 もし、2010年以降、現在予想されているように、太陽活動がさらに低調になり、20世紀初めの状態に戻るならば、この問題については多くのことがわかると予想できる。もし、太陽活動が温暖化の主たる原因であるならば、今後20年間に、世界の平均気温は0.3℃程度は下がることになるだろう。一方、温室効果ガスが主たる原因であるならば、IPCCの予想通り0.6℃程度は上昇せねばならない。彼らは温室効果ガスの抑制が進まないならば21世紀に3℃以上の上昇があると警告しているからである。これは大きな違いなので、場合によっては本論のテーマに早期に決着がつくことも期待できる。
従って、私は太陽活動が今後少なくとも20年は低調であることを期待するものである。そうであれば、おそらく2025年頃には、20世紀の気候変動の主たる要因について、ある程度の結論が見えてくるのではないかと思う。 (終わり)
 

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