太陽黒点活動と地球の気候変動(第2回)
 
                       上原 貞治
 
6.太陽活動変化と気候変動のデータの比較(1900年以前)
 それでは、前回提示した太陽活動変化のデータと気候変動のデータを一つの図にまとめて比べてみよう(図6)。図6の上段が太陽黒点活動(白丸は、上下を逆にした白木の年輪中の炭素14同位体の含有量の変化、1610年以降の赤青黒のカラーは太陽黒点総対数である。いずれも上にあるほうが太陽活動が活発であることを示す)、下段が気候変動である。おおざっぱにみてよく似た変動で相関はあるように見えるが、ここで大きな問題がある。気候変動のデータが何種類もあってそれほど一致していないことである。こういうときに、太陽活動変化の合うものを恣意的に選び出したりしては決していけない。多くの中からいちばん合うのを選び出せば、そこそこ合うのは当たり前だからである。逆にいちばん合わないのを選び出せば、まったく逆の結論に導かれる。それで、ここでは、いろいろなデータを総合して描かれたと考えられるMultiproxyのうちの最新のもの(2005の紫色と2006の黄土色)を中心的に採用することにしよう。
 
 西暦900年から1900年までの1000年間で比較をする。この間では、人間による温室効果ガスの放出の効果は無視できる。この期間で、太陽活動がもっとも活発だったのは、950年頃および1150〜1200年頃であり、もっとも低調だったのは、1450〜1500年ごろ(シュぺーラー・ミニマム)と1650〜1720年頃である。この傾向は、まさに気候変動のグラフの紫色、黄土色の傾向と一致している(黄土色は、1250年以前のデータが存在しないが)。また、太陽活動の1360年、1610年、1780年頃の極大、そして、1810年頃の極小も、すべてがそろっているわけではないが、似たような傾向が見られる。
 本当は、こういうのは相関係数というのをとって比較する必要があるのであるが、本論はそのような定量解析結果の提示をテーマにするものではないので、そういう比較はしない。特に、近代的観測がない比較的古い時代(たとえば1600年以前)のデータの絶対的な数値の大きさにどれほどの精度(温度スケールや太陽活動のスケールの較正の問題を議論しているつもり)があるかというのが問題である。相関係数を取る場合は、較正の精度がそろっていないと正しい結果が得られない。このデータは、慎重な見方をすれば、変動の向きを見る限り相関のある可能性が大きいけれども、絶対値の較正の不定性を考えると十分な有意性を客観的に示せるほどの傾向はないように見える。
 
図6:太陽活動の変動と世界平均気温との比較。上段の白丸は木の年輪中の炭素14同位体の含有量の変化。(E.Bard et al. Earth and Planetary Science Letters 150, 453 (1997) による を単純に上下反転した) 上段の赤青線と黒いカーブは太陽黒点数データセンターの資料からR. A. Rohde が作製のものの部分をスケールを合わせるために横方向に圧縮したもの。下段は、 いくつかの信頼性が高いという方法で見積もられた過去の気温変動。(米国科学アカデミー2006年。赤祖父俊一『正しく知る地球温暖化』(誠文堂新光社 2008)より)
 
 
 
 西暦960年頃の気温水準と1980年頃の気温水準はほぼ同じであり、960年頃の太陽活動水準と1980年頃の太陽活動水準もほぼ同じである、というこの図をおおざっぱに見るとおりの結論が正しければ、1900年以降の気温上昇は、ほぼすべてが太陽活動の活発化で説明できる可能性が高いことになる。(もちろん、太陽黒点活動の変化が気候変動を引き起こしていることを否定しないという前提をたてた場合のことであるが)また、古い観測にどれほどの精度があるものかはわからないという見方に立てば、地球の平均気温はおよそ0.6度程度の変化をしうる(人間活動によらない自然変動として)し、おそらく、それは数十年〜数百年規模の期間の太陽黒点活動の変動によって行われている可能性がかなりある、という程度の控えめな結論しか導き出せないように思われる。
 
7.太陽活動変化と気候変動のデータ(1900年以降)
 次に、1900年以降について同様の比較を行う。こちらは1900年以前と違って太陽黒点活動も地球平均気温も測定精度がよい。問題は、気候変動に人間活動の結果としての温室効果ガスの増大の影響があると考えられるところであるが、その影響は、前回述べたように、ほぼ1950年以降に集中していると考えてよい。この点は非常に重要である。
 図7は日本の気象庁が出している「世界の年平均気温平年差」のグラフである。元の図には直線フィットが描かれていたが、虚心にデータを見るためには邪魔になるので加工して消去した。これを見るとわかることは、気温の上昇は1950年頃から始まっているのではなく、少なくともすでに1910 年から始まっているということである。それどころか、さらにさかのぼって図6を見ると気温上昇が始まっているのは1820年頃からのように見える。これらのデータは、地球温暖化はすでに1820年頃から始まっており、1950年頃から始まったのではないことを示している。この点は赤祖父によってもっとも強調されている点である(文献:赤祖父俊一『正しく知る地球温暖化』(誠文堂新光社 2008))。しかし、温室効果ガスの効果を重大とする人々の研究では、地球温暖化は20世紀初頭に始まったものであり、19世紀の世界平均気温の上昇はもっとゆるやかであったかほぼ一定(ほとんど上昇なし)であったというデータを使っているようである。これは、19世紀前半(1820年頃)の気温の見積もりに不定性が大きく、結論はそれに大きく左右されてしまうということであろう。したがって、20世紀以降のデータのみに基づいて議論をするのが無難であると考えられる。
 
 図8は、1890〜現在(2010年はじめ)までの太陽黒点総対数の変化である。これを見ると、太陽活動は1935年くらいまでは低調であったのが、その後急に活発になり、1950〜1990年頃は非常に活発であったことがわかる。この様子は図7の気温の上昇の傾向ともかなり合っている。つまり、これを定性的に見ただけでは、気温上昇の原因が、温室効果ガスの影響なのか、太陽活動の影響なのか区別がつかない。温室効果ガスが増えた時期と、太陽活動が活発化した時期が重なっているからである。もう少し詳細に当たる必要があるが、これについては次回に検討する。
図7.日本の気象庁が出している「世界の年平均気温平年差」 オリジナルの直線フィットは消去した
 
 
 
図8 太陽黒点総対数の変化。SIDCのwebページの図から作成。http://sidc.oma.be/html/wolfaml.html
 
 
8.温室効果ガス排出の効果との関連
 さて、なぜ近年になって急に「地球温暖化」が騒がれるようになったのであろうか。この問題は本論の主要テーマではないので検証はしないが、筆者の推測では、1950〜1980年に温暖化が一時的に足踏みしていた時期のあと、1980〜2000年に急上昇したことが大きいと考える。温室効果ガスの影響を大きいとする人たちは、1800年頃以降、連続的に気温が上がっているとしても、その上がり方は、19世紀、20世紀前半、20世紀後半と時代を追うごとにだんだんに急になっていることをその根拠にしている。そして、1980年以降の急上昇が他の要因では説明できないほど急激であるということで、そのほとんどの要因が温室効果ガスのためと説明され、この時期のデータを元に「温室効果ガスが地球温暖化の主要な原因であることが証明」されたと公表された。
 しかし、逆に言えば、この説明では、温室効果ガスの放出がずっと少なかった、1800〜1950年の間の気温上昇については何も説明ができず、さらに、20世紀後半のしかもわずか20年の傾向だけでものを言っていることになる。虚心に図7を見るならば、1950年以降で、温度が明瞭に上昇し続けている期間は1976〜1996年頃だけである。私はよく覚えているが、1970年代には地球温暖化はまったく問題にされておらず、むしろ、間氷期の終焉による寒冷化のほうがより多く話題になっていた。ことの性格上、ごく一部のデータの傾向で全体の結論がひっくり返るような議論はそもそも正しくない。少なくとも現在利用できるデータをすべて利用し、それらを包括的に説明できることが必要である。
 
 次回は、1900年以降の太陽活動変動と気候変動のデータの比較と今後の展望について議論する。 
(つづく)
 

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