「南天小星座」を日本で見る
 
             上原 貞治
 
 
 現行星座は全天に88ありますが、その中でいくつくらいの星座をご覧になったことがありますか? 50や60は軽いですか。ここで述べる「南天小星座」を見るには、ある程度の努力を要しますが、これらすべてが見られればさらに10星座を「稼ぐ」ことができるかもしれません。もちろん、ここに書くのは日本から見た場合です。南半球に出かけるとぜんぜん話は別なので、そういうことは考えないで読んでください。
 
1.「南天小星座」とは
 ここで、南天小星座を次のように定義します。
 
 その星座を構成する5等より明るい恒星のうちで、もっとも北にある星の赤緯がマイナス35度からマイナス47度の間にあること。
 
 つまり、これは日本の中緯度地方で、見るのに多少の努力を要する南天の星座ということです。「多少の努力」ということがミソです。東京や大阪の付近では、この星の南中高度は、8〜20度ということになります。 「小星座」と呼びましたが、別に星座が小さい必要はありません。南のほうにはどれだけ広がっていても良いのですが、日本から見えるのは小さい部分だけ、ということです。
 
 どんな星座があるのでしょうか。以下、一つずつ紹介していきましょう。なお、観望には双眼鏡があったほうが良いでしょう。口径は大きくても小さくてもそれなりの鑑賞ができると思います。私もまだ半分くらいしか見ていません。
 
2.春の南天小星座
1) ほ座
 旧アルゴ座の一部である有名な星座です。けっこう大きい星座ですが、日本からは帆の先端(もっとも上の部分)付近しか見られません。λ星(2.2等)がもっとも見やすいでしょう。旧アルゴ座は冬の星座に分類されていますが、λ星が南中するのは、うみへび座の頭部が南中した20分後くらいになりますので、春の星座というべきでしょう。このほかに、今回の南天小星座の定義からははずれますが、旧アルゴ座の別の一部として、らしんばん座(「ほ座」のすぐ上にある)、りゅうこつ座(日本から見えるのは事実上カノープスだけ)にも注目してください。
 春の「南天小星座」は、ほ座だけです。南天小星座が春に少なく夏〜秋に多いのは、歳差現象で北半球から見える星座の範囲が時代とともに移り変わっていることに原因があると思われます。つまり、何千年かの昔、最初の星座が作られた頃には、今よりも春の星座は南に高く見え、秋の星座は低く見えなかったのです。
 
3.夏の南天小星座
2) じょうぎ座
 これは、南天小星座の中でも最大の難関のひとつです。じょうぎ座は、全体でも小星座ですが、赤緯マイナス45度以北にある5等以上の星は5等星が2つだけで、あとは6等以下です。λ星は5.4等ですが、北にあるだけ、まだ見やすいでしょう。双眼鏡は必須です。この星は、おおかみ座とさそり座にはさまれた領域にあります。
 
3) さいだん座
 この星座は、そこそこ明るい星が多いので、少し南の土地に行くと楽に見られるのですが、赤緯マイナス46度付近がいちばん北なので日本の中緯度からは相当困難です。場所はわかりやすく、さそり座のしっぽのいちばん下の部分のすぐ下ということで良いでしょう。でも、この「すぐ下」というのが見にくさではものすごい差なのです。もっとも北にある5等星は、赤緯マイナス46度付近ですが、祭壇の本体につながる部分からははずれています。
 
4) ぼうえんきょう座
 これも南の方への制限ギリギリの星座です。α星は3.5等と明るいので、南が開けているところなら見られるかもしれません。
 
5) みなみのかんむり座
 これは、ある意味で、もっとも南天の小星座らしい星座ということができるでしょう。それは、粒のそろった星が小さい範囲に集まっているからです。その引き延ばされたような曲線は鑑賞する価値があります。位置的には、いて座の一部のように見えます。
 
4.秋の南天小星座
6) インディアン座
 この星座もぼうえんきょう座と同じかそれ以上の難物だと思います。見える星はおそらく一つだけ、α星(赤緯マイナス47.2度、3.1等)でしょう。少し北にζ星もありますが、双眼鏡が必要でしょう。
 
7) つる座
 これは、比較的見やすい星座です。でも、見られるのはγ星だけかもしれません。みなみのうお座の下にあります。α星、β星も見られれば立派な星座になります。
 
8) ほうおう座
 2等星ザウラク(α星)を擁した星座です。この星が南天をよぎっていくさまはミニ・カノープスと言ったところです。β星、γ星も見られれば、これも立派な眺めとなります。
 
5.冬の南天小星座
9) とけい座
 明るい星の無い星座で、双眼鏡を使ってα星とδ星が並んでいるのを見るのがせいいっぱいでしょう。これらの星はエリダヌス座の星をたどっていくことによって捜すことができるでしょう。
 
10) ちょうこくぐ座
  この星座もエリダヌス座の星をたどっていくことによって捜すことができます。γ星はかなり北にあり、エリダヌス座と はと座にはさまれた領域にあります。
 
6.見るためのヒント
 これらの小星座は、双眼鏡で星をたどって見つけようとしてもなかなか難しいものです。高度が低いと、なかなか星図で見た感覚のようには見えません。高度が1〜2度低いだけでも、地上の障害物にさえぎられたり、大気のために減光して印象が変わったりします。 
 星をたどるのに苦労するようなら、南中時刻をある程度正確に事前に調べておき(10分くらいの精度で)、しかも南中高度も計算しておいて、あらかじめそちらの方向(すなわち真南)に双眼鏡を向けて待ち伏せするのがよいでしょう。そして、それらしい星を見つけたら、周辺の星を見て確認するとよいと思います。

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