「ボーデの法則」とその見直しについて II  
上原 貞治
 
  前回は、海王星以遠天体について解釈を見直した「『ボーデの法則』とその見直しについて」(「銀河鉄道」WWW版第10号。 http://www.d1.dion.ne.jp/~ueharas/seiten/gt10/bode.htm )を発表したが、今回は、ボーデの法則が偶然の産物かどうかということについて追求してみたい。ここでは検証のために、統計的計算をするのではなしに、太陽系惑星の衛星系にこれが拡張できるかを考えてみる。
 衛星系へのボーデの法則の拡張は過去にも試みられているが、ここではそれらを参考にせずに独自の計算を行った。ここで参考にしたのは、惑星についてかつてより提唱されている本家本元のボーデの法則のみである。
 
1.ボーデの法則の一般式
 ボーデの法則の一般式は、
 
 a + 2n×b    (n=−∞,0,1,2,3,・・・)  (2nは、2のn乗)
 
と書ける。衛星系についてもこの式の形を維持する。上のnの数列を適用すると、惑星または衛星の中心の星(太陽または惑星)からの距離は、a,a+b,a+2b,a+4b,...となる。
 
 衛星系については、ボーデの法則のようなものが成り立っていそうに見える比較的、大きめで(半径100km程度以上)惑星から遠くない衛星を選択する。太陽系の惑星の中で、ボーデの法則がチェックできるこのような衛星を5個以上保有するのは、木星と土星と天王星だけである。
 
2.a と b の決定
 以下の方法で、aとbを決定する。ボーデの法則に従うなら最内3星の軌道半径が等間隔に並ぶ(a,a+b,a+2b)ことを利用して、これらの実際の軌道半径のデータから、直線へのフィット(一次回帰)からaとbを求める。そして、それを4番目以降(すなわちn≧2)に適用し比較する。まず、練習として、太陽系の惑星でこれをやってみると、以下のようになる。単位は、伝統にしたがって天文単位にとる。
 水星、金星、地球の軌道半径データから、a=0.40、b=0.31 が求められる。(知られているボーデの法則の a=0.4、b=0.3 に近い値になった) 以下、次のような比較になる。天王星まではよく合っている。b=0.3のほうが外惑星にはよく一致する。4番目以降の星に対する一致は操作されたものではなく、この良い一致は、何か意味があるか、さもなければ、偶然と見なされねばならない。海王星の一致が悪いのは昔から指摘されていることであるが、これについては冒頭で引用した前作「『ボーデの法則』の見直し」をご覧いただきたい。
 
太陽系 軌道半径 ボーデ計算 一致度(ずれ)(%)
水星 -∞ 0.3871 0.40 3.3
金星 0 0.7233 0.71 -1.8
地球 1 1.0000 1.02 2.0
火星 2 1.5237 1.64 7.6
ケレス 3 2.7653 2.88 4.1
木星 4 5.2026 5.36 3.0
土星 5 9.5549 10.32 8.0
天王星 6 19.2185 20.24 5.3
海王星 7 30.1104 40.08 33.1
 
 
3.木星の衛星への適用
  木星の大きい5衛星、アマルテア、イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストに適用すると、以下のようになる。以下、衛星については、親惑星の半径を距離の単位にとっている。ここで、単位の選択はまったく本質的ではない。ただ単に、aとbの単位として解釈すれば単位はなんでもよい。なかなかよく合っている。a=2.52,b=3.43となる。
 
木星系 軌道半径 ボーデ計算 一致度(ずれ)(%)
アマルテア -∞ 2.536 2.52 -0.6
イオ 0 5.900 5.95 0.8
エウロパ 1 9.387 9.38 -0.1
ガニメデ 2 14.972 16.24 8.5
カリスト 3 26.334 29.96 13.8
 
 
4.土星の衛星への適用
 ヤヌス、ミマス、エンケラドゥス、テティス、ディオーネ、レア、ティタン、ヒペリオン、イアペトゥス、フェーベとなんと10衛星もある。これでは、一致がよくない。(a=2.46,b=0.72)
土星系 軌道半径 ボーデ計算 一致度(ずれ)(%)
ヤヌス -∞ 2.513 2.46 -2.1
ミマス 0 3.078 3.18 3.3
エンケラドゥス 1 3.949 3.90 -1.2
テティス 2 4.889 5.34 9.2
ディオーネ 3 6.262 8.22 31.3
レア 4 8.745 13.98 59.9
ティタン 5 20.274 25.50 25.8
ヒペリオン 6 24.58 48.54 97.5
イアペトゥス 7 59.09 94.62 60.1
フェーベ 8 214.78 186.78 -13.0










 
 
 ヤヌスを無視して、ミマスから始めると次のように多少改善するが、ディオーネより外側は全体的にあまり良い一致とはいえない。(a=3.07,b=0.91)なお、n=7に対応する衛星は存在しないので、そこはスキップした。
土星系 軌道半径 ボーデ計算 一致度(ずれ)(%)
ミマス -∞ 3.078 3.07 -0.3
エンケラドゥス 0 3.949 3.98 0.8
テティス 1 4.889 4.89 0.0
ディオーネ 2 6.262 6.71 7.2
レア 3 8.745 10.35 18.4
ティタン 4 20.274 17.63 -13.0
ヒペリオン 5 24.58 32.19 31.0
イアペトゥス 6 59.09 61.31 3.8
フェーベ 8 214.78 236.03 9.9
 
5.天王星の衛星への適用
 ミランダ、アリエル、ウンブリエル、チタニア、オベロンに適用すると、a=4.99,b=2.66となる。一致は悪くないだろう。
 
天王星系 軌道半径 ボーデ計算 一致度(ずれ)(%)
ミランダ -∞ 5.078 4.99 -1.7
アリエル 0 7.482 7.65 2.2
ウンブリエル 1 10.406 10.31 -0.9
ティタニア 2 17.052 15.63 -8.3
オベロン 3 22.794 26.27 15.2
 
 
6.まとめ
 衛星系にもボーデの法則を適用してみた。やり方からみてそれほど恣意性のない、公平なテストができたと思う。木星と天王星についての5衛星についてはまずまず成立しているように思われる。土星はあまり良い一致とはいえないが、衛星の数が多いことも考慮すべきかもしれない。ボーデの法則は、衛星系にもある程度は成り立っていて、惑星系にだけ見られる現象とはいえないのではないか。何らかの意味を秘めた法則として存在するようだが、偶然とまったく考えられないほど良い一致ではない、という控えめな結論にしておきたい。
 

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