赤道儀自動ガイドの自作(前編)


福井 雅之

 

1.はじめに
私が天体望遠鏡(ミザール12cm反射)を購入したのは、社会人になったばかりの約30年前です。以降6cmガイドスコープや写真撮影用のアダプタなど少しずつ買い揃え、星雲や彗星を中心に細々と観測してきました。しかし、赤道儀に付ける自動ガイドモータだけは購入の機会を逸して現在に至っています。これまで銀河鉄道に掲載された私の撮影した写真(ホームズ彗星など)の星像が若干流れているのは、ガイドスコープを見ながら懸命に微動ハンドルで追いかけているためです。いまどきこんな撮影方法をしている人はまずいないと思いますが、真冬の屋外で5分もこの作業を続けるのは結構きついものがあります。自動ガイドを導入したいというのが長年の夢でしたが、ミザールでは既に生産中止・在庫も無く半ばあきらめていました。
そんな折、約3年前にミザール本社を訪問したときにこの話をしたところ、保守部品の棚を探していただき「ステッピングモータ+減速ギアのみでよければ」とのご回答、ミザール最後のモータを大変格安でゆずっていただきました。
モータは手に入れたものの、ステッピングモータ制御回路の製作が面倒で長らく放置していましたが、先日の日食騒ぎを機に3年ぶりにようやく重い腰を上げ、完成させることにしました。この夏休みにハード部分のみが完成しましたのでまず前編の製作記として報告させていただきます。ソフトを含めての最終版は次回銀河鉄道で後編として報告させていただきます。

2.仕様
今まで自動ガイドというものを使ったことがないので一般的な仕 様がよくわかっていません。いろいろと悩んだあげく、最終的に次のスペックで製作することに決定しました。
 @電源は単3充電電池または単3乾電池8本とする。
 A12時間程度は連続駆動し続けること。
 Bできれば時計並みの精度を実現させること。
 C駆動速度は3段階(星・太陽・月)切替え可能とすること。
 D微調整用に停止・倍速ボタンを設けること。
Cで太陽の追尾は通常使い道がないのですが、太陽は時間の基準であり24時間で360°の標準回転数となることからソフトデバッグ時の基準として設けました。
2035年の石川県から茨城県の皆既日食で、もしかすると活躍するかもしれませんね…。 Dの速度微調整は、もっと大きく変化させたかったのですが、事前のステッピングモータの追従試験の結果でこの程度に抑えました。赤道儀本体にスリップクラッチをつけていますので、大きく角度を変える場合は微動ハンドルを回すことで対応できるのでよしとします。


 

3.モータ部の赤道儀への取り付け
3年前のミザール訪問で一緒に購入したギア(24歯/60歯)を使って赤道儀に取り付けました。蝶ねじを緩めればモータがギアから外れる仕組みにしています。この部分の材料のほとんどは、ホームセンタで購入しました。苦労した点は3mm厚のアルミ板加工です。モータからの結線は、6ピンの中継コネクタで引き出せるようにしています。(写真1)


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              (写真1:モータ取付け状態)

4.コントローラ部の製作
<回路設計>
本体をできるだけコンパクトに収納させたかったので、全体の制御とモータ出力波形生成は1チップマイコンに任せることにします。今回は自作で最もよく使われるマイクロチップテクノロジー社のPICシリーズPIC16F84Aを使用することにしました。ソフト開発はアセンブラ言語になりますが、開発ツールや関連書籍も豊富に出回っており初心者でも手を出しやすいマイコンチップです。
モータドライブ部は、当初トランジスタまたはFET使用を考えましたが、このステッピングモータの仕様である2つのコイルの正逆相を順次切り替えるとなると素子8個が必要になります。これでは回路が複雑になってしまうことから、汎用ICで使えそうなものを探し、TA7291SG(東芝)2個を使うことにしました。このICは本来ロボットや模型自動車で使われるDCモータの正転・逆転のドライブ用ICです。これを使ってステッピングモータの 100Hz高速切替え動作が可能か心配だったのですが、テストの結果OKでしたので採用することにしました。このICのおかげで大変シンプルな回路構成にできました。
クロックは時計精度としたいので、京セラの12.8MHz超高精度クリスタルモジュールを使用することにしました。温度・電圧ドリフトが少なく屋外使用での精度確保に威力を発揮してくれそうです。
また、基板の面積を極小化するため、リセット回路や入力プルアップ抵抗も省いていますが、このマイコンチップは大変よくできていて、このような使い方もできるような設計がされているのがうれしいです。(回路図)

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                 (回路図:全体回路図)


<プリント基板組立とBOXへの組込み>
プリント基板は、穴あきのユニバーサル基板でもよかったのですが、屋外使用や振動を考慮し専用基板を製作することにしました。プリント基板作成の概要は次の通りです。
 @パソコンフリーソフト(PCBE)でパターン設計し、トレーシングペーパーに印刷します。
 サンハヤトの感光基板に@で印刷した版下(トレーシングペーパー)を重ねて、蛍光灯(ケミカルランプ)でパターンを焼付けます。
 B現像液でパターンを浮かび上がらせた後、エッチング液で不 要な銅箔を溶かします。
詳細な手順は技術評論社刊電子工作入門(後閑哲也著)など関連 書籍がいくつか出ていますのでご参照ください。(写真2)

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         (写真2:実装が完了したプリント基板)

プリント基板が出来上がりましたらBOXに各部品を組込み配線します。使用したBOXはタカチの68×123×40のプラスチック製のものです。前面にプリント基板やスイッチ・LEDを配置し、背面に単3×8本の電池BOXを収納しました。電池BOXに厚みがあり収めるのに結構苦労しましたが我ながらすっきりと仕上がったと自己満足しています。表面の文字はフィルム光沢ラベルにパソコンで印字して貼り付けていますのでかなり見栄えよく仕上がっています。(写真3)

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         (写真3:組みあがったコントローラ)

5.おわりに
今回はハード製作のみでソフトが未完ですので、残念ながら動作テストができていません。近々頭脳部分であるソフトを作り上げ完成させるつもりです。
次回銀河鉄道では、このモータ追従で撮影したオリオン大星雲M42やアンドロメダ銀河M31をお見せすることができると思いますので是非ご期待ください。

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     (写真4:赤道儀に組み込んだ自動ガイドモータとコ ントローラ)


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