編集後記
       上原 貞治
 
 前回なつかしいレコードの復刻CDについて書いたが、今回も同様に昔の音楽について書く。前回は男性フォーク歌手だったから、今回は女性で。
 「地上の星」というのは中島みゆきの名曲である。これに似た題名で「地上の星座」という曲がある。こちらは谷山浩子の曲である。中島みゆきの ほうが年上だから、谷山浩子が真似したのだと思ってはいけない。「地上の星座」は1982年に作られているからこちらのほうがずっと古い。そこそこヒット した「サーカス」という曲のEPのB面に入っていた曲である。
 中島みゆきの「地上の星」はよく知られているし評価も固まっているのでここで書くことは何もないが、この「星」が地上で目立たないながらも しっかりとした仕事をしている人々のことを指していることだけ思い出しておこう。一方の谷山浩子の「地上の星座」はこれとはまったく違う切り口である。一 言で説明できるようなものではないので、歌詞を引用させていただく。
 
夜 目覚めれば 窓の彼方に    
さざめく 水銀の 星たち
あの窓 この窓に 人たちのともす 
見知らぬ 街の灯が ゆれてる
遠い異国におき去りにされた   
名前も忘れた子供の心が
灯りをつないで 星座をつくる   
想いをつないで 星座をつくる
 (「地上の星座」より 谷山浩子 詞・曲)
 
誰が何を使って星座を作っているのか、それほどわかりやすくはないが、星座としてたどられるのは、街の灯りであり、人の思いだという。子どもの心が星座を 作るのなら、星座を構成するものは「悲しみ」そのものであるといっても良いだろう。
 中島みゆきと谷山浩子とでは、似たような題材を扱ってかくも違うのである。中島は「地上の星」を作るに当たって、この谷山の「地上の星座」を 当然念頭においただろう。そして全然違う曲にしようと思ったに違いない。彼女らの作る歌の曲想は違うが、彼女らには共通のファンも多いだろうから、中島は ヘタな作品は出せないと思ったであろう。
 中島は、時に高く時に低く飛ぶつばめに目立たないけれども確かに輝いている「地上の星」を捜させた。一方の谷山は、ごく弱い光しか出してない 人々の悲しみを、人工衛星の高さから心の高感度センサで捕らえてみせる。
 谷山浩子の歌は、歌詞がわかりにくくても、メロディのほうはわかりやすくしかも文句なく美しい。この「地上の星座」も美しいメロディである。 メロディが難解な歌詞の癒しになっているようである。
 谷山浩子の歌には、宇宙論的というか物理学的といえるようなものがしばしばある。その典型は「まっくら森の歌」である。これはパラレルワール ドを歌ったもので、これを心象世界と取る人もいるだろうが、現実の宇宙にある隣り合わせの異次元の世界を歌っていると考えても良いだろう。人間の心でさえ 及ばない世界がすぐ近くにあるのだ。「そっくりハウス」というのはストーリーが明瞭であるにもかかわらず意図不明の歌で、これは階層的宇宙かフラクタル構 造を歌ったとしか私には思えない。でも、この2曲は「NHKみんなのうた」で放送された子ども向けの歌で、とにかく不思議な歌ということで楽しんでもらえ ばよいわけである。
 
 そっくりハウス おうちの中に
 そっくりハウス うちがある
 そっくりハウス その中にまた おんなじおうち
 そっくりハウス おうちの外に
 そっくりハウス うちがある
 そっくりハウス その外にまた おんなじおうち
      (「そっくりハウス」より 谷山浩子 詞・曲)

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