太陽系の衛星 (第7回)
上原 貞治
8.小惑星の衛星 −− 主星が小さくても衛星はある
今回言うところの小惑星は、太陽系外縁天体を除く小惑星の意味です。小惑星の衛星は、面と向かって「衛星」と呼ばれることはあまりなく、「二重小惑星」の「伴星」と呼ばれる場合のほうが多いようです。でも、伴星と衛星のあいだに明確な区別はないので、まあ同じ意味だと考えてここでは衛星と呼ぶことにします。
いわゆる4大小惑星(ケレス、パラス、ジュノ、ベスタ)には衛星は見つかっていません。衛星が見つかっている小惑星は小さいものが多いようです。しかし、これは、小さい小惑星が圧倒的に多いことによっているだけかも知れません。
カリオペはけっこう大きな小惑星です。衛星リヌスもそれなりの大きさがあります。また、他に、「接触型二重小惑星」というものがあり、長細いかたちをした小惑星が、とちゅうにぼっきりと折れたような感じになっています。(617)パトロクロスはその例です。
長いかたちのまま折れていないものもあります。それは衛星とはいえませんが、やはり「接触型二重小惑星」(これは文字通り「接触」しているので、もはや「二重星」ではない)と呼ばれるようです。小さな小惑星は、しっかりと固まっているのではなく、砂状の物が緩く引力で集まっているだけかもしれない、と考えられています。こういうことも、二重小惑星にケプラーの第3法則を適用することによって質量を測定し、験証することができます。
小惑星の衛星は様々な方法で近年精力的に探されています。地上にある望遠鏡で単純に眺めるだけでは小さな衛星は見つからないのですが、惑星探査機の他、レーダー、補償光学、精密測光、掩蔽観測などの方法で衛星が発見されています。、まだその全容が見えて来るにはいたっていません。小さい小惑星に衛星が多いところを見ると、これは捕獲されたり、衝撃で分裂したりしたわけではなく、もともと緩い集団として存在していた小惑星からやや離れたところに破片が残っているのだ、というふうに見るべきなのでしょう。小惑星の衛星系について、この種の生成過程が支配的であるとするならば、重力による結合の弱い小さな小惑星のほうが衛星を持ちやすいのかもしれません。
衛星が見つかっている小惑星は太陽系外縁天体を含めて100以上あります。下の表にあげたものはそのうちの代表的なものです。 表の中ではパトロクロスとヘクトルだけがトロヤ群小惑星で、他は小惑星帯(いわゆるメインベルト)に属するものです。
親惑星 |
衛星名 |
発見年 |
軌道半長径 |
半径(km) |
|
|
|
(km) |
|
(22)カリオペ |
リヌス |
2001 |
1065 |
38 |
(45)ウジェニア |
プティ・プランス |
1998 |
1184 |
13 |
(45)ウジェニア |
|
2004 |
700? |
6? |
(87)シルヴィア |
ロムルス |
2001 |
1356 |
18 |
(87)シルヴィア |
レムス |
2004 |
706 |
7 |
(90)アンティオペ |
|
2000 |
170 |
110 |
(243)イダ |
ダクティル |
1993 |
108 |
1.5 |
(617)パトロクロス |
メノイティオス |
2001 |
680 |
113 |
(624)ヘクトル |
|
2006 |
1000? |
15 |
(1089)多摩 |
|
2003 |
20 |
9 |
太陽系の衛星についてまとめて何らかの結論を出すと良いのでしょうが、それはまたの機会に譲りまして本連載はこれにて完結とします。