編集後記

上原 貞治
 
 
●いきなり長くなって申し訳ないが、ここで、「太陽系の衛星(第6回)」で使った述語、「準惑星」と「太陽系外縁天体」について批判をさせていただきたい。「準惑星」、「太陽系外縁天体」というのは、それぞれ "dwarf planet"、"trans-Neptunian object"の誤訳である。誤訳というのは翻訳が間違っている、という意味である。dwarf は「大きさが小さい」という意味であって「準じる」という意味ではない。一方、「準じる」というのは「ほぼそれに匹敵する」という意味である(「準会員」というのは「会員に近い待遇を受ける人」という意味であり、「体格が小さい会員」とか「会費の額が少ない会員」という意味ではない)。冥王星は他の惑星と違う(すなわち惑星にはあまり匹敵しない)ということで惑星からはずされたのであるのであるから、これを今さら「惑星に準ずる」というのは筋違いというものであろう。これは、より正しくは「矮惑星」と訳すべきものであった。
 一方の「太陽系外縁天体」もおかしい。「外縁」というのは外側の縁のことである。縁というからには、外部との境界線付近に位置しなければならない。でも、海王星の内側にまで入り込んでくる冥王星が果たして今や太陽系の外部境界付近にある天体と言えるのだろうか。それを「外縁天体」と呼ぶのは日本語の破壊である。より正しい訳は「海王星以遠天体」である。
 これらは日本語での用語であるから、適宜決めてよく、原語の意味にこだわる必要はないので「誤訳」ではないという人がいるかもしれない。しかし、これも誤りである。そんなことを許せば、何でもアリになってしまう..."reflecting telescope"を「反射望遠鏡」と訳そうが「屈折望遠鏡」と訳そうがどちらでも正しいことになり、"Federal Republic of Germany"を「ドイツ連邦共和国」と訳さずに「大ドイツ帝国」と訳しても良いことになる。以上は私がこの稿で、便宜上これらの「誤訳」を使わざるを得なかったことに対する悔悟の念から来るものである。
 
● 前に編集後記で、国立天文台の「惑星ぜんぶ見ようよ☆」キャンペーンの話を書きましたが、このたびめでたく8惑星すべてを見たので、認定証をもらいました。このトシになると、賞状のようなものをもらうと何でもうれしくてつい見せびらかしてしまいます。情けないことですが、...ご覧下さい。