太陽系の衛星 (第6回)
                          上原 貞治
 
7.準惑星および準惑星候補の衛星 −− 主星が小さくても衛星はある
 
 冥王星が惑星から準惑星に「格下げ」になったことは2006年に大きな話題になったが、その際に、一時、冥王星の「衛星」カロンが冥王星の双子惑星として惑星に「格上げ」されようとしたことがご記憶にある人がいるかもしれない。この惑星の分類の騒動は、いまだ衛星の定義については解決していない。それに関する私の意見も今回書きたいと思う。
 
 まず、メインベルト小惑星帯にある現在唯一の準惑星「ケレス」には衛星は見つかっていない。ケレスはメインベルト小惑星の中でやや突出して大きなものであるが、それよりも小さい準惑星候補である、パラスやヴェスタ、ヒュギエアというところにも衛星は見つかっていない。しかし、これは小惑星には衛星が存在しにくいものであることを意味しない。さらに小さい多くの小惑星について衛星が見つかっているからである。これについては、次回(おそらく最終回)で議論することにする。
 
 海王星の軌道付近より外側に存在する「太陽系外縁天体」の多くには衛星がある。それらの中で最大の天体であるエリスと冥王星は準惑星に指定されているが、いずれにも衛星がある。とくに、カロンとディスノミアはかなり大きい衛星であり、親惑星との大きさの比較では、地球と月の関係に匹敵するものである。また、まだ準惑星にはなっていないもののほぼ同じ大きさを持つと言われている2003EL61にも大きめの衛星がある。天体が遠いことがあって、これらの天体の小さい衛星の存在については今後の発見を待つしかない
 
 さて、冥王星の衛星「カロン」の件である。カロンが衛星に分類されるかどうかはまだ確定していない。衛星の定義が議論中であり、カロンそのものが準惑星に格上げされるかもしれないからである。確かに親惑星と衛星の大きさが似通っているときは、どちらを親と見なしどちらを子と見なすかは難しいところである。兄弟であるといったほうが良い場合もあるだろう。
 しかし、カロンと冥王星の場合は有為な大きさの違いがあるのだから、これは問題なしにカロンは衛星と呼ぶべきである。そうでなければ、地球の月も地球の衛星ではなく兄弟であることを否定できなくなる。2006年の議論では、惑星系の重心が親惑星の体積の内部にあるかどうかが基準にされたが、そんな基準は何の物理的な意味も持たない。例えば、重心が親惑星の表面付近にあったとしても、そこで何らかの物理的変化が起こるような現象はこれまで観測されていない。例えば、太陽と木星の重心は、太陽表面の外にある。それでは、木星は惑星ではなく太陽と連星系を作っていると言うべきなのだろうか。これは、地球の月を衛星のままにとどめておく口実に過ぎないだろう。両天体の大きさが本当に拮抗している場合のみ、これらを連星惑星として分類し、A、B等の記号を付けてどちらも親天体として扱うべきである。大きさが拮抗しているか否かは物理的に意味のある事柄である。近接連星では、2星の大きさが拮抗していても重心がどちらかの内部にある場合が決して珍しくないだろう。その場合、一方を衛星にしてしまうというのはあまりに不合理なように思われる。重心の場所というのは、あまり良い目安ではないのである。
 
 もう一つ、「準惑星」その他の日本語の用語について批判をしたいが、長くなりそうなので、「編集後記」にまわすことにする。
 
 下の表のデータは、天文年鑑2008およびJohnston's Archive Astronomy and Space(http://www.johnstonsarchive.net/astro/) からとった。
 
親惑星 衛星名 発見年 軌道半長径 半径(km) 軌道傾斜角 vb (km/s)
      (万km)      
冥王星 Charon 1978 1.957 606 0 0.087
冥王星 Nix 2005 4.868 50? 0.1 0.055
冥王星 Hydra 2005 6.478 50? 0.25 0.048
エリス Dysnomia 2005 3.74 200? 61 or 142 0.07
クワオワー   2006 1.1 48   ?
オルカス   2005 0.87 150?   ?
2003EL61 2 2005 3.93 85? 39 0.03
2003EL61 1 2005 4.95 155? 235 0.03
 
 
vbについては連載第1回を参照。