パリ天文台訪問記
上原 貞治
 
  天文ファンにとって、歴史のある天文台は一種の聖地である。それは、単にそこから星が見られるからではない。人々の宇宙へのあこがれが、かつて地球上のそこを最前線として、はるか宇宙に注がれたからこそ聖地なのである。そういう意味でそこで現在も星が見られるかどうかはもはや問題ではない。
 パリ大学に旅行する機会があったので、昼休みに近くのパリ天文台まで歩いて訪問してきた。といっても、公開時間ではなかったし予約も何もしていなかったので中には入れなかった。門の外から見ただけである。しかし、私にとってパリ天文台は上の述べたような意味で世界最大の聖地のひとつである。門が開いていたかどうかはたいした問題ではない。
 パリ天文台はパリ市街地の端のへんにあるが、パリは狭い都市なので市街の中心部(ルーブル美術館あたり)から歩いても1時間くらいで行ける。現在ではとても星が見られるような環境ではないが、それでもパリ天文台は稼働しているという。
 
 中に入れなかったので、自分で撮った写真の紹介をする。
 

写真@:パリ市内にあるパリ天文台は一般には公開されておらず、常に門が閉まっている。見学には予約が必要で、しかも土曜の午後だけである。職員や関係者は鍵を持っていて門の小扉を開けて入っていく。
 

写真A:玄関前には、海王星の発見者のひとり、ルヴェリエの像が建っている。彼はここの台長になった。ルヴェリエは海王星の位置を計算で予言して発表した。海王星が実際に発見されたのはベルリン天文台においてであるが、ルヴェリエの計算が正確だったのでそこでは一発で発見されたという。ルヴェリエはその後も実際に海王星を自分で観測しようとはしなかったそうである。
 

写真B:パリ市による歴史名所に立てられた案内板。ただの「L'Observatoire」(「ザ・観測所」というような響きか)というタイトルが自信たっぷりでいい。 パリ天文台は現在稼働している世界最古の天文台で1667年に建設されたということである。カッシニ(土星の4つの衛星とカッシニ空隙を発見)、レーマー(木星の衛星の観測で光速を測定)、メシャン(彗星とメシエ天体を多数発見)、アラゴー(メートル法の基になる測量)、フーコー(振り子の振動で地球の自転を直接的に証明)、フィゾー(地上で器械を用いて光速を測定)、ルヴェリエ(海王星の発見者)といった名前が続く。パリ天文台の栄光と名声の歴史である。


 
写真C:天文台の前は「カッシニ通り」。パリでは路上駐車が目立つが、そこは駐車可になっており、多くの場合不法駐車ではない。
 

写真D:リュクサンブール公園内から遠望するパリ天文台の白いドーム。1kmくらい離れている。美しい庭園に目を奪われてしまうのでこの景色に気づく人は少ないのではないか。
 

写真E:パリ天文台から1kmくらい北のパンテオンの内部で公開されているフーコー振り子の説明版。(レンズ付きフィルムカメラのストロボの電池が弱くこんな情けない写真しか撮れなかった)


 
写真F:パリ天文台のすぐ近くにあるモンパルナス墓地を散歩していてたまたま見つけたルヴェリエの墓。天球儀の星座の絵とその下の5つ並んだ星のマークがかわいい。星の間を縫って走る曲線は惑星の動きを示しているのであろうか。墓石には「1811年、サン・ローで生まれ、1877年、パリ天文台で死す」と刻まれている。また、下にある銘板には「2001年にサン・ロー市と官立ルヴェリエ学校の卒業生協会によって再建された」とあるが、墓石自体はそんなに新しそうではない。今や世界に4人しかいない惑星の発見者の1人としてフランスの誇りとなっている。(あとの3人は、ハーシェル、アダムズ、ガレで、英国人とドイツ人) すぐ近くに相対性理論の数学的基礎を研究した数学者ポワンカレの墓もあった。 天気も良く、気持ちよいお墓参りになった。

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