太陽系の衛星 (第3回)
                                        上原 貞治
 
4.土星の衛星 −− もっともバラエティに富んでいる
土星の衛星系は、太陽系でもっとも複雑で豊富な内容を持っているといわれている。大きな衛星の数が多いこと、環と衛星や衛星同士の干渉が見られることなどがその理由として挙げられるであろう。
 
 さて、土星の衛星を内側から順に見ていこう。                
 もっとも内側の2つの衛星、パンとダフニスは、土星の輪の中にある。A環というのは、土星の輪のうち、比較的小さな望遠鏡でも見えるいちばん外側の部分(カッシニ空隙の外側)であるが、そこにはさらに「エンケの空隙」と「キーラーの空隙」という2つの隙間があり、これらの衛星はそれらの位置に対応しているので、衛星がA環の中の空隙を作っていると考えられる。一方、カッシニ空隙に対応する大きな衛星は存在しないようである。
   
 次のアトラスとプロメテウス、それからパンドラは、ごく細い環であるF環をはさんでいる衛星で、F環の形に影響をあたえていると考えられている。さらに、2004年にカッシニ探査機によって、F環とほぼ同じ位置に3つの衛星が発見された(S/2004 S3,4,6)。
 その外側のエピメテウスとヤヌスは比較的大きな衛星であるが、ほぼ同じ軌道を回っている双子衛星である。お互いの軌道に影響を及ぼしあっており、ときどき軌道を入れ替えたりして2つの衛星で軌道の安定を保っているそうである。
 
 次のミマスからイアペトゥスまでが古くから知られている土星の「主系列」とも呼ぶべき衛星で、ここに比較的小さな望遠鏡でも見られる6つの大きな衛星(エンケラドゥス、テティス、ディオーネ、レア、ティタン、イアペトゥス)が集まっている。木星との類推で予想されるように、ミマスからティタンまでの衛星は軌道半径の差を少しずつ大きくしながら整然と並んでいる。また、テレストとディオーネは、同じ期道にそれぞれ2つの小衛星をともなっている。これらは軌道上の位置が60度違う「ラグランジュ点」と呼ばれる重力の均衡点(つまり土星と大衛星と小衛星がつねに正三角形をなす)に存在している。
 
 イアペトゥスはティタンよりかなり外側を回っており、軌道傾斜がやや大きくなっている。土星の衛星系の内側のグループと外側のグループの境目にある孤高の衛星といえるだろう。この衛星が口径8cmの望遠鏡でも見える大衛星であることは面白い。
 
 次のキヴィウクより外側は、土星からかなり離れていて、公転の向きが順行になっているものと逆行になっているものが混在している。衛星はだらだらと外の方まで存在しているが、だんだんと逆行のものが支配的になり、S/2006 S6より外側には逆行のものしか見つかっていない。このへんの様子は木星の衛星系に似ている。逆行衛星には半径10km以下の小さいものしか見つかっていないが、これには1つだけ例外があり、それがフェーベという半径が100km以上ある衛星で、すでに19世紀に発見されていることは土星の衛星の層の厚さを物語っている。
 
 以上、土星の衛星系は、基本的には木星の衛星系と似ているが、それよりはるかに複雑な内容を含んでいるので、衛星系の生成例の事典として使えるような豊富な内容を含んでいるといえる。 環との干渉、衛星同士の干渉、層の厚い主系列の衛星、個性のある衛星、順行衛星と逆行衛星の混在などが、土星の衛星の豊富な内容の特徴である。
 
下に、土星の衛星の表を掲げる。データは、天文年鑑2007からとった。
 
  衛星名 発見年 軌道半長径 半径(km) 軌道傾斜角   vb (km/s)
      (万km)        
土星              
S18 Pan 1990 13.357 10 0 6.97
S35 Daphnis 2005 13.65 4 0   6.90
S15 Atlas 1980 13.764 19x?x14 0   6.87
S16 Prometheus 1980 13.935 70x50x37 0   6.84
S/2004 S 4 2004 14.02 2 0   6.81
S/2006 S 6 2004 14.08 2 0   6.83
S/2004 S 3 2004 14.11 2 0   6.80
S17 Pandra 2004 14.17 55x43x33 0   6.79
S11 Epimetheus 1980 15.142 70x58x50 0.34   6.65
S10 Janus 1966 15.147 110x95x80 0.14 6.58
S 1 Mimas 1789 18.552 197 1.53 6.00
S32 Methone 2004 19.4 1.5 0 5.79
S33 Pallene 2004 21.1 2 0 5.55
S 2 Enceladus 1789 23.802 251 0.02 5.22
S 3 Tethys 1684 29.466 524 0.2 4.69
S13 Telesto 1980 29.466 ?x12x11 1.2 4.70
S14 Calypso 1980 29.466 15x13x8 1.5 4.70
S 4 Dione 1684 37.74 559 0 4.15
S12 Helene 1980 37.74 18x?x<15 0.2 4.15
S34 Polydeuces 2004 37.74 2 0.2 4.20
S 5 Rhea 1672 52.704 764 0.3 3.51
S 6 Titan 1655 122.185 2575 1.6 2.35
S 7 Hyperion 1848 148.11 175x120x100 0.6 2.12
S 8 Iapetus 1671 356.13 718 7.6 1.38
S24 Kiviuq 2000 1136.5 7 46.2 * 0.95
S22 Ijiraq 2000 1144 5 46.7 * 0.93
S 9 Phoebe 1898 1294.43 115x110x105 174.8 * 0.79
S20 Paaliaq 2000 1519.9 9.5 45.1 * 0.83
S27 Skathi 2000 1564.7 3 152.7 * 0.77
S26 Albiorix 2000 1640.4 13 34 * 0.86
S37 Bebhionn 2004 1689.84 3 41 * 0.78
S47 Skoll 2006 1747.38 2 155.6 * 0.81
S28 Erriapo 2000 1761.08 4.5 34.4 * 0.83
S/2004 S13 2004 1805.63 3 167.4 * 0.72
  S/2006 S 4 2006 1806.57 2 172.7 * 0.77
S29 Siarnaq 2000 1816 16 45.6 * 0.73
S44 Hyrokkin 2004 1816.83 2 153.3 * 0.76
S21 Tarvos 2004 1824.7 6.5 33.5 * 0.85
S/2006 S 6 2006 1855.69 2 162.9 * 0.67
S25 Mundifari 2006 1870.9 3 267.5 * 0.68
S/2006 S 1 2006 1893.02 2 154.2 * 0.64
S/2004 S17 2004 1909.92 2 166.6 * 0.69
S31 Narvi 2003 1914.08 4 135.8 * 0.72
S23 Suttungr 2000 1936.3 3 175.8 * 0.63
S38 Bergelmir 2004 1937.22 3 156.9 * 0.65
S36 Aegir 2004 1961.84 3 167 * 0.68
S/2004 S 12 2004 1990.59 3 164 * 0.75
S39 Bestla 2004 1995.87 4 147.4 * 0.99
S40 Farbauti 2004 2029.89 3 157.6 * 0.66
S43 Hati 2004 2030.33 3 162.7 * 0.69
S30 Thrymr 2000 2038.2 3 175.8 * 0.77
S/2004 S 7 2004 2057.67 3 165.1 * 0.83
S/2006 S 3 2006 2107.63 2 150.8 * 0.76
S48 Surtur 2006 2224.36 2 166.9 * 0.69
S45 Kari 2006 2232.12 2 148.4 * 0.68
S41 Fenrir 2006 2261.07 2 163 * 0.59
S46 Loge 2006 2298.43 2 166.5 * 0.59
S19 Ymir 2000 2309.6 8 173.1 * 0.66
S42 Fornjot 2004 2360.89 3 168 * 0.61
 
 
*母惑星の公転軌道面に対する傾斜角。*の無いものは母惑星の赤道面に対する傾斜角
 vbについては連載第1回を参照。

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