太陽系の衛星 (第2回)
                      上原 貞治
 
3.木星の衛星 −− 非常にたくさんあるが種別は意外と少ない
 木星の衛星といえば、4つのガリレオ衛星が有名である。これらは、衛星としては非常に大きいもので、外側の2つ、ガニメデとカリストは水星クラス、内側のイオとエウロパは月クラスの大きさである。それ以外の衛星はいずれも小さい。1970年までに知られていた木星の衛星は12個であったが、現在では60個以上が知られている。
 こんなに多くの衛星があれば、様々の軌道の衛星が入り乱れていると予想されるかもしれないが、実はそうではない。
 下の表を参照して、衛星を1つ1つ内側から見ていくとそれがお分かりいただけるだろう。いちばん内側のメティスとアドラステアは、ほとんど同じ軌道を持っている。そして、少し間を開けてアマルテアとテーベがあり、それからほどよい間隔で4個のガリレオ衛星がある。アマルテアは大きさに相当の開きがあるもののガリレオ衛星の次に大きい木星の衛星で、その軌道半径を考慮すればガリレオ衛星と併せて木星の主要な5大衛星と言えないこともない。ここまでの衛星は、木星の赤道面を整然と公転している印象である。
 ガリレオ衛星の外側には相当の間をあけてテミストがあり、また少し間をあけるとそこにレーダからエララまでの4つの衛星が集中している。これらの中で、ヒマリアは比較的大きい衛星である。ヒマリアは木星から1146万kmも離れている。これは、地球から月までの距離の30倍に相当する。双眼鏡で木星を見ると、ガリレオ衛星がはっきりと分離して見える。もっとも外側のカリストは、角度で10' 近く離れることになり、これは木星の光が邪魔しなかったならば肉眼で楽々分離できる視距離であるが、なんとヒマリアはカリストの6倍以上離れたところを公転しているのである。
 その外側にやや特異な衛星と言えるカルポが43度という中途半端な軌道傾斜角で公転している。そして、その外側にある衛星は、すべて似たような軌道傾斜角を持つ逆行衛星である。逆行というのは木星の公転方向と逆方向に公転しているのである。こういう衛星は異常軌道の衛星といわれるが、数だけからいうと木星の衛星は異常軌道の衛星の方が多い。その軌道半径は1900kmから2500kmに間に集中しており、ちょうど、火星と木星の軌道にあいだにある小惑星帯のようにパラパラと多くの星くずが漂っているような感じがする。事実、これらの逆行衛星は、小惑星が木星の重力圏に捕らえられたものではないかと考えられている。ただ、小惑星が木星の重力圏をただ通過するだけでは衛星にはならないので、なんらかの力学的メカニズムが必要である。また、これらの衛星は木星から離れているが、木星の重力は強いので、月や火星の衛星よりも、ずっと強く母惑星に捕らえられている(脱出に必要な余分の速度vbが大きい)。最も外側のS/2003 J2は、逆行衛星の中でも特に軌道半径が大きい。地球から観測すると木星から2度以上離れて見えることもあることになる。この衛星は、木星を公転するのに2年8カ月あまりかかり、平均距離の場所から木星を見ても、地球から見る月の半分の大きさにしか見えない。
 結局は、木星の衛星はその軌道の特徴から、カリスト以内の衛星、テミストとヒマリアの一団、特異なカルポ、そして外側の逆行衛星群のわずか4グループに分類されることになると思う。
 
下に、木星の衛星の表を掲げる。データは、天文年鑑2006からとった。
 
  衛星名 発見年 軌道半長径 半径(km) 軌道傾斜角   vb (km/s)
      (万km)        
木星              
J16 Metis 1979 12.796 ?x20x20 0   13.03
J15 Adrastea 1979 12.898 12.5x10x7.5 0.1   12.99
J5 Amalthea 1892 18.13 135x82x75 0.4   10.96
J14 Thebe 1979 22.19 ?x55x45 1.1   10.01
J1 Io 1610 42.18 1815 0.04   7.19
J2 Europa 1610 67.11 1569 0.47   5.73
J3 Ganymede 1610 107.04 2631 0.195   4.50
J4 Callisto 1610 188.27 2400 0.281   3.41
J18 Themisto 2000 750.7 4 43.1   2.00
J13 Leda 1974 1116.5 10 27.5 * 1.56
J6 Himalia 1904 1146.1 85 27.5 * 1.54
J10 Lysithea 1938 1171.7 18 28.3 * 1.47
J7 Elara 1904 1174.1 43 26.6 * 1.57
J46 Carpo 2003 1705.6 1.5 55.1 * 1.37
  S/2003 J3 2003 1833.99 1 143.7 * 1.28
  S/2003 J12 2003 1900.25 0.5 145.8 * 1.37
J34 Euporie 2001 1930.2 1 145.8 * 1.17
J40 Mneme 2003 2049.49 1 148 * 1.18
J42 Thelxinoe 2003 2070 1 151.1 * 1.20
  S/2003 J18 2003 2070 1 146.5 * 1.11
J45 Helike 2003 2097.91 2 156.1 * 1.13
  S/2003 J16 2003 2100 1 148.6 * 1.22
J33 Euanthe 2001 2102.7 1.5 148.9 * 1.19
J22 Harpalyke 2000 2110.5 2 148.6 * 1.18
J27 Praxidike 2000 2114.7 3.5 149 * 1.18
J35 Orthosie 2001 2116.8 1 146 * 1.22
J30 Hermippe 2001 2125.2 2 150.7 * 1.17
J24 Iocaste 2000 2126.9 2.5 149.4 * 1.17
J12 Ananke 1951 2127.6 14 148.9 * 1.19
J29 Thyone 2001 2131.2 2 148.5 * 1.18
  S/2003 J15 2003 2200 1 140.8 * 1.07
  S/2003 J17 2003 2200 1 163.7 * 1.13
J44 Kallichore 2003 2239.54 1 163.9 * 1.14
  S/2003 J9 2003 2244.17 0.5 164.5 * 1.18
  S/2003 J19 2003 2281 1 162.9 * 1.22
J38 Pasithee 2001 2302.9 1 165.1 * 1.16
J43 Arche 2002 2306.4 1.5 161.6 * 1.14
J37 Kale 2001 2312.4 1 165 * 1.16
J21 Chaldene 2000 2317.9 2 165.2 * 1.14
J26 Isonoe 2000 2321.7 2 165.3 * 1.15
J32 Eurydome 2001 2321.9 1.5 150.4 * 1.17
  S/2003 J4 2003 2325.79 1 144.9 * 1.11
J25 Erinome 2000 2327.9 1.5 164.9 * 1.16
J20 Taygete 2000 2336 2.5 165.4 * 1.14
J11 Carme 1938 2340.4 23 165.2 * 1.14
J31 Aitne 2001 2354.7 1.5 164.9 * 1.15
J23 Kalyke 2000 2358.3 2.5 165.2 * 1.13
J8 Pasiphae 1908 2362.4 30 151.4 * 1.26
J19 Megaclite 2000 2380.6 3 152.7 * 1.27
J41 Aoede 2003 2380.77 2 159.4 * 1.25
J36 Sponde 2001 2380.8 1 151 * 1.18
J9 Sinope 1914 2393.9 19 158.1 * 1.13
J48 Cyllene 2003 2400 1 141 * 1.25
  S/2003 J23 2003 2406 1 149.2 * 1.17
  S/2003 J5 2003 2408.42 2 165 * 1.09
J17 Callirrhoe 1999 1410.2 4 147.1 * 1.50
J28 Autonoe 2001 2412.2 2 152.4 * 1.17
  S/2003 J10 2003 2424.96 1 164.1 * 1.09
J39 Hegemone 2003 2451.41 1 152.6 * 1.12
J47 Eukelade 2003 2455.73 2 163.4 * 1.18
  S/2003 J14 2003 2500 1 140.9 * 1.08
  S/2003 J2 2003 2857.04 1 151.8 * 1.12
 
 
*母惑星の公転軌道面に対する傾斜角。*の無いものは母惑星の赤道面に対する傾斜角
 vbについては連載第1回を参照。

今号の表紙へ