<速報> 冥王星、「惑星」からはずされる
 
上原 貞治
 
 
 2006年8月24日、チェコのプラハで開かれた国際天文連合(IAU)総会の決議によって、新しい「惑星の定義」が採択され、冥王星は惑星ではないことになった。採択の日本語訳を本項の最後に載せる。
 
 この決議により、惑星は水星から海王星までの8つとなり、冥王星は「矮惑星」と呼ばれる新しいカテゴリーに移動した。矮惑星は、惑星とは排他的に定義されており、惑星ではない。 矮惑星においては冥王星以外の天体名は具体的に列挙されていないが、冥王星より大きいとされる 2003UB313 などの冥王星に匹敵する大きさの天体が、今後、矮惑星に含まれるものと思われる。今回採択された 矮惑星の定義によれば、ケレスも矮惑星に分類される可能性が高い。現在、冥王星の衛星とされているカロンについては、今後の衛星の定義の見直しを待って、矮惑星に含めるかどうかが決定されるであろう。
 
 今回の決議では、冥王星などを「大惑星」でも「小惑星」でもない新しいカテゴリー(つまり「矮惑星」)に分類し、これを8つの「古典的惑星」と合わせることによって惑星と総称する、ということが当初目論まれていた。これは、冥王星を惑星からはずそうとする意見と、歴史を尊重して冥王星を惑星にとどめておきたいという勢力を妥協させる案であった。しかし、総会での多数決で、「矮惑星」は惑星ではない、ということになってしまった。これは、科学的に見て矮惑星は他の8つの惑星とかなり違っている、ということと、矮惑星の数が今後どんどん増えることによって惑星数がインフレを起こすことを懸念した天文学者が多かったためと推測される。今後は、矮惑星がどこまで増えていくのか、矮惑星と従来の小惑星の管理をどうするのかというところが注目点になると思われる。
 
 銀河鉄道WWW版第19号に載せた「太陽系に惑星は何個あるか?」の私の予想(冥王星を惑星からはずすことはすぐにはできないだろう)は、見事にはずれるという結果になった。以下は言い訳になるが、私は、冥王星を惑星として残しつつも新たに惑星のメンバーとなる天体をより限定する案(たとえば、冥王星より大きい天体だけを惑星とする案)がIAUの委員会から提案されると予想していた。また、これが世間一般の人々の常識に近く、惑星の数が徐々に増えることによって一般の人々の惑星天文学への興味を引きつけることにつながる、と思っていた。しかし、「冥王星より大きい天体」という切り分けに科学的根拠がないことが嫌われたのであろう。委員会から提案されたのは「難解」な定義に基づく「矮惑星のインフレ案」であった。矮惑星を惑星とした場合、これは「惑星のインフレ」に直結する。今回の決議では、IAUの会員がそれを嫌うことにより、冥王星は惑星から除外されてしまった。「矮惑星のインフレ案」が一般の人々の常識から乖離したものであったこと、そして、決定が大勢の天文学者の多数決で行われたこと(学者は、少しでも「科学的」に見えるような分類法をより尊重する)が、今回の決議の結果を運命づけたのだと思う。
 
 これで、惑星の定義は歴史の制約から解放され、より科学的な方向に進むことになった。これは学問的には立派な見識であったといえるだろう。しかし、今後は、惑星天文学の進歩というものが一般の人々の感情から遠ざかることになるを覚悟しなければならないだろう。第10惑星の誕生を楽しみにしていた一般の人々が、今後「矮惑星のインフレ」につきあってくれるということはあまり期待できないように思われる。しかし、少しでも多くの人が冥王星が率いることになった「矮惑星」のことを憶えておいてくれて、それによって天文学の進歩を感じてくれればと良いと思う。
 
 注:上文中、「矮惑星」は、"dwarf planet"の仮の訳である。
 
 
−−−− 以下は、国立天文台アストロ・トピックス(233)より抜粋
  ------------- IAU総会での決議の抜粋の日本語訳(国立天文台による)
決議
 国際天文学連合はここに、我々の太陽系に属する惑星及びその他の天体に対して、衛星を除き、以下の3つの明確な種別を定義する:
 
(1) 太陽系の惑星(注1)とは、(a) 太陽の周りを回り、(b)十分大きな質量を持つので、自己重力が固体に働く他の種々の力を上回って重力平衡形状(ほとんど球状の形)を有し、 (c) その軌道の近くでは他の天体を掃き散らしてしまいそれだけが際だって目立つようになった天体である。
 
(2) 太陽系の dwarf planet とは、(a) 太陽の周りを回り、(b)十分大きな質量を持つので、自己重力が固体に働く他の種々の力を上回って重力平衡形状(ほとんど球状の形)を有し(注2)、(c) その軌道の近くで他の天体を掃き散らしていない天体であり、(d)衛星でない天体である。
 
(3) 太陽の周りを公転する、衛星を除く、上記以外の他のすべての天体(注3)は、Small Solar System Bodies と総称する。
 
注1: 惑星とは、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の8つである。
注2:基準ぎりぎりの所にある天体を dwarf planet とするか他の種別にするかを決めるIAUの手続きが、今後、制定されることになる。
注3:これらの天体は、小惑星、ほとんどのトランス・ネプチュニアン天体(訳注1)、彗星、他の小天体を含む
 
冥王星についての決議
 国際天文学連合はさらに以下の決議をする:
  冥王星は上記の定義によって dwarf planet であり、トランス・ネプチュニアン天体の新しい種族の典型例として認識する。
 
(訳注1については省略)