編集後記
上原 貞治
 
○ 今日は3月28日です。今回も発行の目処が立たないうちから、編集後記を書き始めることにしました。 
 
○ 2月の末から3月初めにかけて、仕事でロシアに行ってきました。西シベリアのノボシビルスクという都市近郊にある研究所に行ってきたのですが、さすがにこの季節のシベリアはきつかった、とかいうような話は別にして(実は幸いにもむちゃくちゃ寒いわけではなかった)、ロシアの科学技術について見てきたことを書きます。
 
○ 私は、「ソ連の宇宙開発」などを書いたことでもお分かりの通り、昔からソ連の科学技術に関心を持っています。今回は、残念ながら宇宙開発関係の研究施設や博物館に行くことはできませんでした。私が行ったのは「ブドカ原子核研究所」というところです。原子核といっても原子力エネルギーの研究をしているわけではなく、加速器を使った素粒子や物質の研究をしているのです。そこでの第一印象は、ロシアは古いものを大事に使っている、ということです。ソ連時代からのものを手直しを続けながら使用し続けています。過去にすがっているわけではなく、ただ実用第一主義で古いものに新しいものを付け加えて改良を重ねているのです。ですから、ソ連時代の建物や機械に多く見たり触れたりすることができましたが、それらは必要な範囲で新しく改造(改装)されていました。)
 
○ ソ連製のものはやはり頑丈に作られていました。金属の磨き方、ボルトの配置一つ見ても、ロシア人技術者は安易に妥協したりはしない、ということがわかったような気がしました。やはり技術者は技術者です。技術者が経営者になって、機械の外見を気にするようになると安全は崩れていくのでしょう。
 
○ ノボシビルスクでは日本車の中古車がブームになっているようで、日本の車検や定期点検のシールをフロントパネルに貼っている車が多かったです。輸入した後もわざとはがしていないのでしょう。乗用車5台に1台くらいはあったように思います。中には偽造品と思われる定期点検シールもありましたし(ロシア国内では違法ではないだろう)、日本人が書いたとは思えない下手な漢字をペイントした車もありました。手堅い技術を誇るロシア人にも日本の車が高く評価されているということで、これは日本のメーカーが誇れることだと思います。モスクワを走っている車はそういうことはなかったので、これは地方によって違うと思います。
 
○ アエロフロートは乗り心地が悪いことで有名ですが(どうもシートのクッションが日本人の尻に合わないように思う)、事故とか機体の整備不良とかいう話はあまり聞きません。その点は安心して乗っていられます。国内線用機のツポレフというのは、どんな地方の雪の空港の滑走路にも降りられるように短い翼に大きなギア(車輪)が付いています(極東ロシア線は日本にも飛んできているかもしれません)。近年はロシア国内でテロが多いので仕方がないのかもしれませんが、空港でのセキュリティは過度にきびしいように感じました。
 
○ 年月を重ね、そして仕事も忙しいとなると、やはり、星を見るという情熱は以前よりだいぶ薄れてきたように思います。それから、2001年のしし座流星雨と2004年の金星の太陽面経過を見て、だいたい見るべきものは見たという満足感もあるかもしれません。いずれにしても、珍しい天文現象を見ても、もう子どもの時のような感動は帰ってきません。世の中にはそうでもない人もいるようですが、努力でカバーできることでない以上、やむを得ないことのように思います。
 
○ しかし、星を見ることをやめようと思ったことはありませんし、自分はこれからはもうあまり星を見ないだろうな、と思ったこともありません。やはり、人間の一生は、星を眺め続けるには短すぎるという確信があるからでしょう。私は、これまで40年近く星を見てきました。もし健康でいられるなら、あと最低40年は星を見続けられるように感じます。