編 集 後 記 
                      上原 貞治
 
○ 「編集後記」というのは、字の如く編集を終えてから書くものなのだろうが、そんな暇があるとは思えない。編集が終わったのち発行までに、あってもなくてもよいような駄文をひねっている時間があるのだろうか。あらかじめ暇なときに少しずつ書いておくものではないか。少なくとも私は今回そうした。
 
○ 我々の同好会誌「銀河鉄道」は、現在、「WWW版」と称し、インターネットのウェブで発行されている。しかもhtml形式である。この形で初めて会誌を発行した1996年にはこの型式はもちろん非常に先進的なものであったが、現在でもこういう型式で「出版」されている「雑誌」は非常に少ないようである。たいへん意外に思う。
 多くは、テキストファイル形式を利用した「メールマガジン」形式、またはより印刷物の雰囲気に近いPDF形である。フォーマットの「重さ」としては、htmlは、この両者の中間に位置する。テキストファイル形式は、手軽に扱えるがデザインの指定のようなことはできない。PDF形式は、デザイン固定であり印刷物の形をしているので何となく静的・固定的な感じである。また「お役所文書」的な冷たさを感じる。その点、htmlは、柔軟性とデザインのダイナミック性を供えており、こういう意味で「同好会誌」向きだと思うがどうだろうか。
 あまり採用されていないところを見ると、こう思う人は少ないのかもしれない。いや、「同好会誌」あるいは「同人誌」なる形そのものがweb向きだと思われていないのかもしれない。webは膨大な量のhtmlのかたまりである。そしてその多くは、「同人的」なマニア仲間によって運用されているにもかかわらず、掲示板への果てしない書き込み、あるいは、一時的な情報の羅列として、提示されそして消耗してゆく。これが現代の「同人的」なかたちなのかもしれないが、もったいないものである。
 
○ 今年がアポロの月着陸の35周年だからというわけでもないだろうが、アポロが本当に月に行った(正確に言えば、人間を乗せて月に着陸した)ということを否定するような本やウェブ記事が多数出ているようである。そのほとんど全部は、月面で撮影した写真(あるいはテレビ中継)がウソ臭い、つまり、捏造の疑いがあるということに終始している。
 多くの写真があれば素人鑑定家がその真偽をどちらか一方に確定できないようなものが混じっているのは当然である。それよりも、このようなことを書いている人は、宇宙開発全体の歴史を見る視点が全く欠けているのではないか。彼らは、例えるならば、「長篠の合戦」の有名な合戦図に描かれている内容に(たとえば武器や軍勢の配置に)事実とは違う疑問がある場合、長篠の合戦があったこと自体に異議を唱えているようなものである。そして、彼らはきっと、「本能寺の変」について絵図や現場の物的証拠が残っていない(信長の遺体は発見されていないという)ことをもって、「本能寺の変はなかった。それは秀吉がでっち上げたものである」と言うのであろう。彼らは、武田が没落したこと、信長が権力の頂点にのぼりつめようとしたときに歴史から姿を消し、天下が光秀、秀吉と移っていった歴史的事実には全く見向きをしないであろう。
 事実、彼らは、歴史の流れ、すなわち、アポロ火災、サターン5型の無人試験、ソ連との競争、月往復飛行、月着陸船の試験、月着陸、13号の事故、17号での中止、スカイラブの打ち上げ、ソ連の宇宙計画の対応....冷戦と「雪解け」、... という全体の歴史を見ようとはしない。これらは、一連の歴史の流れであり、素人の写真鑑定よりはるかに重みのあるもの。もしこの歴史を捏造というのなら、どこからどこまでを捏造と言えるのか説明するべきである。
 
○ ケプラーの第3法則を独自に発見した(と思われる)江戸時代の天文学者、麻田剛立の元々の姓は「綾部」であった。事実、「綾部妥彰」というのが彼の元の名である。もちろん、彼の父も祖父も綾部を名乗っていた。これは彼の先祖が京都府の綾部から豊後杵築藩(今の大分県)移り住んだためである。でも、綾部のどこに住んでいたのか、現在、綾部に何らかの記録が残っているのか、同縁の子孫がいるのか、全くわからない。この件に関する記録は豊後側にしか残っていないようなのである。綾部の郷土史を研究している方がおられれ、調べていただければ幸いである。綾部市に隣接する福知山市「西中筋」地区の天文ファンのお願いである。
 
○ 福知山市観音寺の測量士の塩見日出勝さんが「地球の大きさを測ってみよう」というプロジェクトを始められたので、私もつくば市から協力させていただくことにした。京都の新聞でも紹介された。北極星の高度と方位を手作りの道具で測定し、さらにその方位を用いて太陽の南中時刻を測定するものである。また、本誌に結果の報告を載せさせていただきたい。
 
○ 「銀河鉄道」WWW版第8号の「2003-2004年の珍しい天文現象」で金星の太陽面経過が「3回連続日本で見られてラッキー」と書いたが、これは筆者の完全な思い違いによる間違いであった。前回の現象は日本では見られていない。この部分は撤回する。
 
○ 最後に天気の話。今年の7月は、関東は異常に暑かった。つくば市は真夏でも33度を超す酷暑になることはめったにないのであるが、ことしは連日そうであった。ここへ来てようやく涼しくなったが、オリンピックによる睡眠不足もあって夏の疲れがどっとという感じである。