編集後記
                          発刊部
 
◎ 編集後記があるというものもなかなかいいものです。編集の際のこちらの事情や言い訳などが書けるのは大きな利点です。
 とくに今回は、京都府の大江山でオーロラの撮影に成功された芦谷さんから貴重なお話と写真のご紹介をいただきました。我が会誌にとってたいへん光栄なことであり、心よりお礼を申し上げます。
 実は、私(上原)も、オーロラを見ようとして、10月30日の夜19時30分頃、つくば市北部から北北東の方角を見ましたが、見られませんでした。空の状態は悪くなかったのですが、時刻的に出ていなかったのか、筑波山が邪魔していたのか、はたまた視力が足りなかったのか......  せっかくの チャンスでしたが惜しいことをしました。
 
 さて、こちらの内情ですが、今期は期間も短く観測もあまりできなかったので、「天文現象の報告」の掲載は、次回に延期ということにさせていただきます。また、 「シリーズ・ あなたにもできる最先端の天文学研究」も今号はお休みです。これは、もともと毎号連載にするつもりはなく、ときどきシリーズものとして登場させようという意図でのものでした。
 
● 最近、テレビ番組でトリビアのなんとかというのがはやっているらしい。役に立たない雑学知識を売り物にしている。私が見ても、あまりおもしろみのわからない話題が多い。私はもともと変な話が好きなので少々のことでは驚かないというのもあるし、驚くほどの変な話があれば、「へえ」の数十回で終わらせないで、役に立つ知恵として発展させるべきだと考えてしまう貧乏性である。などと言っていてもそれこそ役に立たないので、役に立たないついでに「星座のトリビア」というのをいくつか考えてみた......
 
(1)星座のトリビア その1 「虫の蠅をかたどった『はえ座』という星座が存在する」
 蠅は、ちいさな昆虫で嫌われ者なのに、なんと星座になっている。日本から見えない南十時座のすぐ南にあり、18世紀のフランスの天文学者ラカーユが設定したものである。もともとは「みつばち座」であったのだが「はえ」に変更されてしまったらしい。蠅が星空に飛んでいても小さくてとても見えまい。
 
(2)星座のトリビア その2 「『かじき座』というのは本当は『金魚座』らしい」
 かじき座はあまり有名な星座ではないが、有名な「大マゼラン雲」はこの星座にある。この星座がもともとどんな魚の星座なのかは議論がある。この星座の学名(ラテン語名)は、Dorado というのであるが、これはかじきのことではなく「金」のことである。それで、この星座を「金魚座」として訳している言語が多い。では、「かじき」に全く根拠がないかというとそうでもなく、「かじき」をあらわす別のラテン語名も過去には存在したし、かじきの絵を重ね合わせた星図も古くからヨーロッパに存在する。要するにかじき座と金魚座という二つの名前が同じ星座につけられているのだ。
 しかし、現在の天文学で認められている学名は「金」であるので、これに忠実に従うなら、「金魚座」のほうを採用しなければならない。
 
(3)星座のトリビア その3 「星がない部分の形をかたどった『暗黒星座』というものがある」
 普通、星座というのは、光る星ぼしを線でつないでかたどったものだが、星がない部分の形をもとにしてつくった暗黒星座というものもある。これらは天の川の中にあり、暗黒星雲が背景の星を隠している部分を対象として名前が付けられている。
 有名なのは「コールサック(石炭袋)」と呼ばれているもので、北天では、白鳥座の尾の付近にある。南天の南十時座の傍らにもあり、いずれも楕円形に天の川の星が抜けているように見える。暗黒星座は、南天において顕著であり、南米アンデスの先住民は、たて座から南十時座のあいだに、キツネ、リャマ、ヘビ、カメ、パートリッジ(ウズラあるいはキジの仲間らしい)などの星座を南天の天の川の中に設けている。これらは、はるかインカ帝国時代から伝わっているものだという。星がない星座を見るのは、ドーナツの穴を食べるような気分である。
 
(4)星座のトリビア その4 「冬の大三角形を形作る3辺のうちの2辺は、非常に正確に同じ長さである」
 有名な「冬の大三角形」は、オリオン座のベテルギウス、こいぬ座のプロキオン、おおいぬ座のシリウスをつないでできる三角形で、ほぼ正三角形になっている。この3辺の長さは、正確には、ベテルギウス−プロキオンが26.0度、プロキオン−シリウスが25.7度で、なんと1%の違いしかない。この差は、オリオン座の三ツ星の全長の10分の1でしかない。シリウス−ベテルギウス間は少し遠くて27.1度である。
 
(5)星座のトリビア その5 「カシオペア座、オリオン座、さそり座のうち、いちばん広いのはカシオペア座で、いちばん狭いのはさそり座である」
 星座には境界線が定められている。小さくまとまっている星座のカシオペア座の広さ(立体角)は 598平方度。手足を伸ばしたオリオン座は594平方度。うねうねとうねる巨大なさそり座は、497平方度しかない。星座の広さは、その主要な部分の大きさだけでなく、周辺の星座との関係でも決まっているのだ。
 
 星座のトリビアは、いかがでしたか? 役に立たないことにかわりはないけど、星座は人類が宇宙に建設した偉大な文化遺産なので無駄な知識というには惜しい。私としても、これらのネタを「編集後記」なんかで使ってしまうのは少しもったいない。