私が選んだ2003年の天文現象
  2003年は、日本で見られる日食や月食はありませんが、ちょっと変わった現象が多いようです。
 下の表を見て下さい。「時」は、おおよその時刻で一部でいわゆる30時制を採用しています。つまり、24時より大きい数値は翌日の早朝を意味しています。本当は、もっと正確な時刻がわかっているのですがここでは省略しています。目安だと思って下さい。実際に観測する際は、もっと詳しい予報を自分で入手して下さい。
 
「種別」の意味は以下の通りです。
 
ast --- 小惑星による恒星の掩蔽(恒星食)
com --- 彗星の観測好期
pla --- 惑星現象
S.ecl --- 日食
met --- 流星群
occ --- (月あるいは大惑星による)星食
JSm --- 木星の衛星同士の食または掩蔽
 
 ast については佐藤勲氏による初期予報によっています。実際の観測には恒星の位置を示す星図とより詳しい時刻予報が必要です。必要な方は天文雑誌などやインターネットから入手して下さい。また、佐藤氏による詳しい情報や現象直前のより正確な予報が必要な方は、上原(uehara@post.kek.jp)まで連絡していただくか、あるいは佐藤勲氏(ANA65381@nifty.ne.jp)に直接連絡してください。 
 
 今回は、Jsmについて詳しく説明しましょう。木星の衛星同士の食・掩蔽現象は、12年の木星の公転周期中に2度頻繁に起こる機会があります。2002年末から2003年春はその期間に当たっています。4文字の英数字の最初の数字は食あるいは掩蔽を起こす原因になっている方の衛星の番号です(1:イオ、2:エウロパ、3:ガニメデ、4:カリスト)。
2番目の文字は、Eは食、Oは掩蔽を示します。食と掩蔽の区別については[文献1]を参照して下さい。3番目の文字は現象の影響を受ける方の衛星の番号です。食ではこの衛星が影に入って暗くなりますが、一般には2つの衛星が重なって見えることはありません。
掩蔽では2つの衛星が重なりますが、影の暗い部分が衛星上に落ちるわけではありません。
最後の文字は(T:皆既食、A:金環食、P:部分食)を示します。括弧内は減光の割合です。50%の減光が0.8等級の光度低下に対応します。
 
 このリストは、関東地方で観測に適している現象ということで選びました。これは筆者が現在関東に住んでいるためであります。他の地方に在住の方には申し訳ありません。今回から、関西地方(実際には近畿全般)での現象の観測の可否を最終欄に示しました。◎は関西でもほぼ同様に観測できる現象、○は多少条件は異なるものの観測できる可能性のある現象、×は観測できない現象を示します。他の地方での観測の可否については、解説中にも書くようにします。
 
 月/日  種別     現象     評価関西
前年〜1/10頃 明け com C/2002 X5 工藤・藤川彗星 **
1月〜2月  夕方com C/2002 V1 NEAT彗星 **
1/4     早朝met しぶんぎ群      **
1/18     21 JSm 4O1P(68%)       * 
1/18     25 JSm 4E2P(52%)       * 
1/25     22 JSm 2O4A(17%)       * 
1/26     23 JSm 1O4A(18%)       * 
2/4     2 JSm 4O1T(69%)       **
2/12     27 ast Garibaldi       * 
2/20     21 JSm 4O2T(59%)       **
2/23     28 ast Bellona        *  ×
2/28     21 JSm 1E4A(57%)       **
3/9     25 JSm 4O2P(59%)       **
3/10     18 JSm 1E2A(84%)       **
3/17     21 JSm 1E2P(68%)       **
3/23     18 ast Interamnia      ***
3/24     23 Jsm 1E2P(51%)       * 
3/25     22 Jsm 4E3A(54%)       * 
4/6     28 ast Leopaldina      * 
4/30     20 Jsm 1E3A(52%)       * 
5/3     20 Jsm 3E1P(95%)       **
5/7     14 pla 水星の太陽面経過  ***
5/17     22 Jsm 2E2P(72%)       **
5/22     21 Jsm 1O4A(18%)       * 
5/29     14 occ 金星食        **
5/30     30 ast Massaria       * 
7月〜9月  pla 火星接近・観測好機 ***
7/22     23 ast Duboshin       * 
8/13    早朝met ペルセウス群     **
8/27    pla 火星大接近      **
9/4     25 ast Venusia        * 
9/22     4 occ CX Cncの限界食    * 
10/12    24 ast Minsk         * 
11月〜12月上旬夕方com 2P/ エンケ彗星    **
11月〜来年 com C/2002 T7 LINEAR彗星 **
11/18    早朝met しし群        **
11/25    20 occ 土星による恒星食  ***
11/30    25 ast Ampella        ** ×
12/14〜15 21以降met ふたご群       **
12/15    24 ast Alphensina      * 
 
 では、評価の*印の2個以上のものをいくつかかいつまんで詳細を紹介しましょう。
 
● 2002年12月に発見された工藤・藤川彗星は、1月に太陽に接近します。前年末から1月10日頃までが観測好期です。明け方の東の空に6等前後で見られるでしょう。
 
● 1月〜2月のニート彗星は、2月に太陽に0.1天文単位まで接近しますが、見かけ上太陽に近くなり2月になるとだんだん観測が難しくなります。接近するまでに消滅してしまう可能性もあります。運が良ければ6等級くらいで地上から見られるかもしれません。
 
●3月23日の小惑星によるインテラムニアによる6.6等星の掩蔽は、今年でいちばん条件の良い小惑星による掩蔽のひとつです。北近畿、北陸、東北、関東が観測可能範囲です。西日本では日が暮れる前の現象となりますが、星が明るいので観測可能でしょう。
 
●5月7日の水星の太陽面経過は、太陽面を水星の黒い円盤が通過します。黒点と区別が付かないだろうと思っている人はぜひ見てみて下さい。黒点とは黒さが全く違います。
([文献2]参照)。
 
●5月29日の金星食は、昼間の青空の中での現象です。太陽に近いので細心の注意を持って観測して下さい。金星は見えますが月はほとんど見えないと思います。
 
●7月〜9月は、火星大接近による火星の観測好機です。さらに8月27日は最接近で、この接近距離は人類観測史上最も近いものであると言われています。当夜晴れておれば、いままでどんな火星観測家が見たよりも近い火星を眺めて下さい。([文献2]参照)
 
●8月13日は、ペルセウス座流星群の極大ですが、満月で条件が悪いです。
 
●9月22日の限界食(接食)は、6等級の星を月齢25の有明月がかすめる現象です。
北限界線が、山陽沿岸、京都、琵琶湖、長野県、茨城県を通っています。
 
●11月〜12月上旬には、エンケ彗星が10年ぶりの観測好機を迎えます。夕方の北東の空で6〜7等級になります。
 
●11月25日、土星による8等星の掩蔽が見られます。環を透して恒星が見られるでしょうか。
 
●11月30日の小惑星アンペラによる7等星の食は、初期予報では日本縦断コースになっています。
 
●2004年5月に肉眼彗星となると期待されているリニア彗星が11月頃から小望遠鏡の射程内に入ってきます。
 
●12月14〜15日のふたご群は、輻射点が高くなってから月が高くなるまでの時間である14日21〜23時がチャンスです。
 
 
◎ とにかく今年は、8月〜9月に火星を見て下さい。小望遠鏡でも双眼鏡でも肉眼でも何でもいいです。望遠鏡で太陽が見られる人は、5月7日の水星の太陽面経過を見て下さい。水曜日ですが、学校や勤めを早びきする価値があります。
 
 
[文献1]「銀河鉄道」WWW版第3号、「食」と「掩蔽」について(第1回)
[文献2]「銀河鉄道」WWW版第8号、2003-2004年の珍しい天文現象