私が選んだ2000年の天文現象
                             上原 貞治
  ミレニアムの鳴り物入りで始まった2000年ですが、1990年代後半と比べると天文界は少し寂しいようです。そんな中でもめぼしい天文現象を私なりに選んでみました。
 下の表を見て下さい。「時」は、おおよその時刻でいわゆる30時制を採用しています。つまり、25hより大きい数値は翌日の早朝を意味しています。本当は、もっと正確な時刻がわかっているのですがここでは省略しています。目安だと思って下さい。
「種別」の意味は以下の通りです。
 
ast --- 小惑星による恒星の掩蔽(恒星食)
com --- 彗星の観測好期
pla --- 惑星現象
L.ecl --- 月食
met --- 流星群
gocc --- (月による)接食
 
 ast について多少補足説明をします。これは、小惑星がその背後に恒星を隠す現象で、小惑星の大きさを測定するために、近年一部で熱心に観測されているものです。通常は、小惑星より明るい恒星が対象になっているので、掩蔽がおこると恒星が減光する(あるいは消える)ように見えます。ただし、この掩蔽が見られるのは小惑星の直径程度の幅のせまいベルト上の範囲の地域に限られており、また小惑星の位置の予報の精度も悪いため、ある場所で掩蔽が観測できるかは、観測してみないとわかりません。まあ掩蔽が見られるかどうかは運次第だと考えた方がいいと思います。本当に見られる確率は10%くらいだと思って下さい。
 
 このリストは、関東地方で観測に適している現象ということで選びました。これは筆者が現在関東に住んでいるためであります。しかし、調べてみますと、9月19日の接食を除くすべてが近畿地方においても観測に適しているということがわかりました。さらに言えば、これら以外に近畿地方では観測に適しているが関東地方では観測に適していない天文現象があるかもしれませんが、それはピックアップしていません。あしからずご了承下さい。
  月/日  種別    現象   評価
3/25      18ast  Penelope    **
4/5      24ast  Honoria    **
6月上~7月中 com C/1999S4 LINEAR ***
7月(17)    pla  Vesta 衝   **
7/1      27ast  Palisana    **
7月中~8月上 com C/1999S4 LINEAR ***
7/16      19L.ecl 皆既月食   ***
7月下~8月下 com 2P/Encke    **
8/11~13     met Perseids    **
8/21      20ast  Adria      *
8/27      19ast  Landgraf    *
9/19      23gocc 接食      **
9/21      22ast  Arikoski    *
10/23     24ast  Moira     *
11/16~18    met Leonids     **
11/18     22ast  Hollandia    *
11/21     22ast  Martynov    *
11/21     27ast  Chariklo    *
12/13~14    met Geminids    *
12月中~翌4月中 com C/1999T1 M.-H. ***
12/28     19ast  Semiramis   **





















 
 
 では、評価の*印の2個以上のものをいくつかかいつまんで詳細を紹介しましょう。
 
 3月25日の小惑星ペネローペによる恒星食は、夕方の薄明中の現象ですが隠される星が東空にあり7等とまずまず明るいので、特に日没の早い関東では十分期待できます。予報では掩蔽帯は、茨城県北部に上陸し能登半島を貫いて日本海に抜けています。でも、予報の誤差を考慮すると本州・四国全体が掩蔽可能性の圏内にはいります。
 
 C/1999S4リニア彗星は、6月上旬から明け方の北東の空に見られるようになります。光度は6月上旬で9等、中旬8等、下旬6〜7等と予報されています。7月上旬には4〜5等、中旬には2〜3等まで明るくなると期待されています。尾も条件が良ければ30度くらい伸びるかもしれません。7月18日頃には周極星となりますが夜間は北極星の下側を通るので、明け方か夕方が観測好期となります。7月下旬には夕方の北西の空で観測できるようになります。予報光度は3等級でこのころが見ごろとなると思います。8月にはいると西空に低くなり急速に観測しづらくなります。月遅れのお盆の頃までは何とか追跡できるかもしれませんが、5〜6等まで暗くなっていることでしょう。
 
 7月17日に小惑星4番ベスタが衝になります。今回はなんと5.4等まで明るくなります。それでも視直径は0.6"にしかなりません。
 
 7月1日の小惑星パリザーナによる恒星食は、恒星は10等とやや暗めですが、まだ空は明るくなっていないので問題ないでしょう。予報の掩蔽帯は、浜松付近から上陸して富山県から日本海に抜けています。本州、四国全体が可能性圏内です。
 
 7月16日の皆既月食は、最良の条件のものです。欠け始め20時57分、皆既の始め 22時02分、皆既の終わり23時49分、欠け終わり17日0時10分となっています。全長193分間の天文ショーを日本全国から見ることができます。
 
 2P/エンケ彗星は、太陽の近くで観測はかなり困難でしょう。8月の明け方の東の空で、7〜9等のこの彗星を小望遠鏡でなんとか捕らえられるかもしれません。
 
 ペルセウス座流星群は、8月15日が満月で条件が悪いです。12日の明け方なら月が西に低くなって何とかなるのではないでしょうか。
 
 しし座流星群は、今年もまだまだ期待できます。11月19日が下弦で月の条件は良くないですが、明るい流星の出現に期待しましょう。16/17、17/18の2夜の観測が必要です。
 
 マクノート・ハートレー彗星は、12月中旬以降明け方の南東の空に観測できるようになります。光度は6等くらいになる可能性があります。
 
 12月28日の小惑星セミラミスによる恒星食は、恒星が9等でまずまずの条件です。予報の掩蔽帯は太平洋上ですが、北にずれると関東から四国・九州と日本列島縦断の可能性もあります。
 
 さて、我々の観測会の対象候補になるものとしては、やはり8月11〜12日のペルセウス座流星群でしょうか。 翌日でもOKですが月の条件はさらに悪くなります。遠隔地同時観測会ならしし座流星群が見逃せません。 家族と楽しみながらということなら7月16日の皆既月食です。今回は地球の影の中心近くを月が通るので皆既中の月の色が興味深い研究テーマとなりますのでこれも遠隔地観測会の対象候補となります。12月28日の小惑星セミラミスによる恒星食もおもしろい対象ですが、小惑星の直径からみてつくばと福知山の両方で掩蔽が観測されることはまずないでしょう。「どちらかで」期待ということになります。
 

Jan.2000, S.Uehara